迷彩

　全国紙・朝日新聞社が運営する双方向ニュースサイト「ウィズニュース」の配信記事から『光学迷彩を実現、稲見教授　「攻殻機動隊」が教養本だった研究室』に注目。

　折にふれて記事にしているが、「攻殻機動隊」のファンとしては見逃せない記事。


　稲見先生は学部を卒業した東工大でマスター、東京大でドクターを修得しており、慶應義塾の出身者ではない。
　しかもマンガ・アニメを片手に研究テーマを決めていたなんて話を、頭の堅い旧来の研究者に聞かれたら、激怒されこそすれ理解されることはないだろう。


　そんな異才に研究の場を提供し、科学技術振興の後押しをする慶應義塾の先進性は、讃えられて然るべきだ。

　一方で同じく学術振興に寄与せんと理化学研究所へ送り出した卒業生が、とんでもないミソをつけてしまった早稲田大は、関係者がこの記事を読んだら内心穏やかでなかろう。

　慌てて得体の知れない研究者を学内に引き込み、またぞろ問題を起こさぬように気をつけて欲しいものだ。




　昨日政府は、一部の大学を職業訓練学校へ転換する方針を発表した。
　これまでも旧帝大・大都市圏の有力私大を除き、「法学」ではなく「大型免許」を／「経済学」ではなく「簿記」を／「文学」ではなく観光客向けに語れる「英語」と「歴史」を、それぞれ学ぶべきだという議論があった。
　それらを政策方針として具体化し、2019（平成31）年以降に新しい学校を発足させたいとしている。

　慶應義塾・早稲田始め、私が神宮球場で野球応援に勤しむ各校は、当然に「大学」として残る方にカテゴライズされているが、安穏としているべきではない。



　先月、東京六大学某2校の系属・系列校関係者のお話を伺う機会があった（ただし、それぞれ別の日）。

　その学校の先生は穏やかな口調で、長く広い経験に裏打ちされた教育理念と、揺ぎ無い職務への矜持が伝わり、とても佳き講話だった。

　片や別の先生は、学校のイメージとも通低し気合いに満ちていこそすれ、話す内容が支離滅裂意味不明。
　古い大学教員や役人に在りがちな、聴衆を煙に巻く名人芸的とも言える「分かり難い講話」に辟易してしまった。

　平易な言葉で分かり易く話す方が余程簡単だと思うのだが、どうもその先生は「名人芸」に酔っているのか、或いは分かりにくいことが権威だと勘違いしているのだろうか。
　もっと懸念すべきは、多数の前で臆面もなく意味不明な講話を披露できる厚かましい人間を、拡大再生産していないだろうか。


　どちらの学校の卒業生とも、大多数が推薦で系属・系列大学へ進学し、相応の学歴を得て社会へと出ている。
　学力的に有能なのは間違いないとしても、先生から「分かり難い話」を聴かされ続けた方の卒業生が、同じ話法を職場で連発し学校の評価を貶めていないかと、余計な心配をしてしまった。



　他者を惹き付ける人間的魅力はもとより、社会に出て役立つ実学や資格も身に着けておらず、学歴を誇るだけの鼻もちならない人間の巣窟であるなら、現状維持も職業訓練学校への改組もなく、大学の存在そのものが否定されてしまう。
　それが早稲田・慶應・明治・法政・立教そして東京大であっても、例外はなかろう。



　各大学には現役学生や教職員だけでなく、OBOG含めあらゆる関係者を巻き込んで、学校の価値を磨き高める努力を怠らないようにしてほしい。
　懐かしき学び舎が、名称も雰囲気もガラッと変わってしまった、または消滅してしまった……では困る。

　その第一歩として、あらゆる人に講話内容を理解してもらえる佳きスピーチ術を、全ての教職員が習得すべきと考える。
　学校を代表して演壇に立つ際、光学迷彩の如く煙に巻くような話をしても、評価は決して上がらない。