決別

　全国紙・読売新聞が運営するニュースサイト「YOMIURI ONLINE」の配信記事から『比大統領、自ら火消し…「米との関係断てない」』に失笑す。



　我が家の次男宛に、フィリピン在住の現地女性から毎週々々電話(スカイプ経由のビデオ通話)が掛かってくる。

　彼がモテ男なのは否定しないが(笑)、別に口説き口説かれたわけではなく(当たり前だ)、英会話のライヴ授業でお世話になっている。



　ところで国際共通言語として多用される英語といえども、世界各地に「方言」的な独特の用法がある。スカイプで繋がっている我が子の先生始め、優秀な英語の使い手の多いフィリピンも例外ではない。

　ドゥテルテ大統領は、明確に「separate from the U.S」と言い切ったが、「separate」もそんな単語の一つであるようだ。


　カトリック信者が圧倒的多数のフィリピンでは、宗教的な制約から法的に「離婚」(devorce)という制度が無い。
　最大限可能なのが、形式的には婚姻関係を保ったまま別居(separate)して、事実上の離婚を果たすやり方である。


　その点を理解してからドゥテルテ大統領の「暴言」を読み解くと、彼の真意が見えてくる。

　マッカーサー親子以来の隷属的な関係が気に障るが、アメリカとはどう足掻いても別れられない。
　「決別」など望んでみたとて、どだい無理なのはドゥテルテ大統領自身も理解している。

　ならば形式的な外交・経済関係は維持したまま、其々好き勝手に別々の道を歩んで行きてぇなぁ……ということだ。
　「決別」などという理解、もしくは翻訳をしたアメリカおよびマスコミが騒ぎを大きくしたんだと、苦々しく思っているに違いない。




　しかしながら発言の真意を理解したところで、大統領職に在る者としての資質に大いなる疑問が残る。

　国家の興廃に無限の責任を負うべき元首が、重要な国際関係を家庭内の不和と同列に語っているのだ。
　愚鈍さに於いて、意味を知ってか知らずか制服を纏い公務を執行している最中に、ネット上に渦巻く品格無きスラングを口にしてしまった警察官と大差ない。

　ついでに「土人」「シナ人」発言で処分された警官のボスたる地方政府の大統領閣下は、余計かつ不用意な擁護発言をしたことに関し釈明を垂れていたが、ドゥテルテ大統領も帰国後、自ら火消しに追われている。


　どうも思考回路が似ている人間は、行動にも共通点が透けてくるらしい。
　良識的かつ視野の開けたフィリピン人が感じているであろう徒労感・絶望感を、私もリアルに共有するところである。