E07Aという奇妙なエンジンを思うに、この言葉が一番気に入っています。
それは安定したアイドルを刻むレーシングエンジン
──HONDA BEAT メカニズムBOOKより──
皆さんご存知のエンジンの最適性とは何を見てどう捉えるかにあると思うのですが……ノウハウや結果的なコストからどうしても趣味丸出しなエンジンは厳しい状況に追いやられます。
つまり実用エンジンうはうはな訳です。正直ロータリーのようなエンジンはよほど理由がない限りカタチにはなりません(アレは社運とか色々込みで……ねぇ)。
たとえばあのSR20や、G63Bは基本実用系の車両用であり、乗用車用ではなかったエンジンですがそれぞれ乗用車に積んでます。
SRに至っては使い勝手が良いからチューニングベースにも使われたりしましたんで有名でしたね。
そう言えばS30Zだって寄せ集めかき集めの車だからこそ、そして人気があったからこそのスポーツカーでした。
私がワンオフものを嫌う一番の理由はここです。ノウハウも、壊れた際の整備もお金ばかりかかる。
さてヨタが過ぎましたが、3気筒ってのは色んな意味で実用エンジンです。
みんな知ってますよね。軽自動車専用のパッケージングでした。
何故か。まあ軽の排気量で走るにはトルクが欲しかったから、が正解でしょう。
安くて軽くてトルクを出すには他、ターボ化もありなんですが、過去振り返ってみてNAも少なくなかったと思います。
で、大抵の場合それは3気筒の方が乗りやすかったでしょう。
3気筒だと1気筒辺りで担うエネルギーが大きいおかげで、トルクよりにしやすいのもあり、4気筒にこだわったスバル以外では少なかった(三菱の4気筒なんかスムーズなだけで軽くてどうにもこうにも)事を覚えています。
じゃあバイクみたく2気筒や1気筒っていいんじゃないの、となる人も少なくないでしょう。
さてそこで360÷気筒数=1回転での爆発角度(クランクピン位置)なんですけど、元々「連桿比」なんかで語られるように、ピストンとクランクはまっすぐな位置に有るわけではないですよね?
なので、丁寧に回すには気筒数が多ければ多いほど良いわけですよ。
ところがクランクに伝わる力(各気筒での爆発力)もさることながら、各ピストンの動き(主に慣性)も影響してくるので簡単ではない訳で。
で、機械的なバランスが良いのは6気筒、スペースの都合、バランスは悪いがV型とこうなるわけですね。
この辺りは詳しい情報をまとめたページを見つけたので、詳細はそちらにまかせるとして。
で。3気筒って回転バランスは悪いように見えないのですが、一つ爆発した瞬間、残りの片方下がり片方上がる訳です。
直列なので回転軸の直角方向に力が加わり、奇数なので必ずどちらかに偏ることになり要するに余計な振動が発生します。
もし2サイクルならまだしも、4サイクルだと爆発のサイクルを考慮した場合、720度回転する訳です。
コレが脈動の理由になるのです。かといってその手の偶力を打ち消すバランサーをつけようにも今度は排気量が小さすぎて色々問題が出てくる訳です。
回転軸だけ見れば6や4と言った偶数気筒型の方がバランスは良いですよね。
でも無駄に増やしても今度はシリンダ容積の最適性から外れることになります(小型エンジンに軽くて丈夫な金属が使えれば話は早いのですが)。
当然馬力もトルクも、無駄がない方が良く回る分出る訳で、排気量的には2リッター位がベストアンサーと私は考えてます。
ではなぜE07Aが最高のスポーツエンジン足り得たか?
SOHCであり3気筒だったから他なりません。
最小のV6と言われた6A10や元祖K8-ZEなどはただ物珍しいだけで無駄に重く、排気量が小さすぎてトルクもなく、回るには回るがいいかどうかは極めて疑い深かった。
エンジンの形態は、実は大きさで最適解があるのです。
皆さんご存知の最適解としては、例の2リッター直列4気筒。K20に代表される最高のホンダスポーツエンジン類。連桿比まで最適化したF20Cに至っては性能は折り紙付きといえるでしょう。
残念なことにピーキーすぎてとても人の手に負えないエンジンでもあるわけですが。
そう、2リッターエンジンなのにトルクは細いわ回さないとだめだわで乗用車としてはいかんせん欠点が目立つわけです。
そこで振り返ってみてください。もしS2000が乗用車ではなく、軽乗用だったら。
ビートのような存在だったら。
多分ですが、もう少し許された面があったのではないでしょうか。
そんな実例を一応例示した上で、直列4気筒エンジンは小型・最適なトルクのための1気筒あたりの排気量、回転バランスからベストチョイスと言えるわけです。
軽乗用のような排気量の場合、しかし1気筒当たりの排気量が少なくなりすぎて扱いにくくなる、実用トルクが出にくくなることが一つ問題点になるため、結果3気筒に減らすのが良いと言える訳です。
ですがAS800Eのような4気筒エンジンを振り返って、S2000では駄目でS800やビートが良いのか?
いえ、そこに大きな差があるとは私は思えません。
しかし3気筒の利点は部品点数が少ないこと、トルクが稼げる割に軽くできること、結果論的に効率が高いこと(気筒数が少ない=フリクションロスが減らせる)が大きいでしょう。
これは小排気量になればなるほど顕著であり、明白に数字に現れているのがE07AとEN07Xの比較になるでしょう。
実際にはEN07Aはそんな悪いエンジンではないですがトルク不足をチャージャーとハイオク仕様でまかなっているせいか、極めて燃費が悪いのが印象的です。
K6やF6と比較してもさほど大きなアドバンテージがないこともおわかりでしょう。
この中ではE07が特別良いとは言えませんが、K6は特別おかしなエンジンだったと私は思います。
直4はテンロクから2リッターがベスト。
そしてそれ以下では3気筒。実際今のエコエンジンのほとんどが3気筒化しつつあるとも言われてます。これは、軽自動車で培った制振技術を発展させたのではないかと思います。K20のType-R用のように、バランサーシャフトを外してしまう暴挙は決して『日本車では珍しくない』のです。
余計なものは外す。効率化の典型例ですが……3気筒で偶力を旨く打ち消すか、振動を殺せるならいらぬものをどんどん外してしまうのです。
結果効率化は進み、エコエンジンには向いた設計であることになるのでしょう。
E07Aのクランクシャフトに至っては専用設計と言われますが、チューニングしてもそれ以上の最適解がないレベルまでそぎ落とされているようで(フルカウンターにしても結局高回転まで回せないそうですね。当然純正状態の方が軽くなります)、これ以上は鍛造の軽いピストン、高剛性化した軽いコンロッドでクランクシャフトの小径化以外の方法が思い付きません。
ヘッドはSOHC。カムシャフトを増やすとヘッドは大きく重くなり、小排気量故の利点も減ります。
NSXは元々SOHCで設計を進められた(http://www.honda.co.jp/auto-archive/nsx/2005/special/nsx-press/press32/history/index.html)事を考えると、NSX程大きければ別なんですけど……軽自動車ではアドバンテージと考えるべきなのでしょう(最も、作り込まれたヘッドの構造は特筆すべきものだと思います)。
こうしてE07Aは、排気量から最適と考えられた部分に煮詰められ、削り取られ、切りつめたカタチでロールアウトしました。
その生い立ちはどうあれ、Type-Rで見られるようなレーシングマシンの匂いと、3気筒故の独特の脈動が一つに結実しているのです。
SOHCだから。
3気筒だから。
だから、E07Aが、これだけスポーティなエンジンに仕上がったんだと思います。
尤もこれが最高にパワフルで速いエンジンだとは言えない訳で(笑)
方やDOHCに舵を取り直し、ボディまで作り替えたNSXを思えば、ビートはまさに「裏」のスポーツカーだったんでしょうね。
もしかするとNSXはこういうスタイルになっていたのかもしれません。奇しくも同時期に開発され、「手軽に誰にでも操れるスポーツカー」というアイコン的な意味合いも同じだというのが皮肉なのか、いかにもホンダらしいというべきなのか。
S660はどうなんでしょう。NC1の裏になってるんでしょうか?気になりますねぇ。ふふ。