小さい小さいスバル360、アメリカ縦断レース完走! 特別賞を2つも獲得!
国沢光宏 | 自動車評論家7/4(火) 19:55
フロリダからカナダ国境のミシガンまで4200kmを9日間掛けて走る全米最大のヒストリックカーイベント『グレートレース』に出場したスバル360が全行程を走りきり、日本車としては初めてとなる栄誉ある特別賞を二つも獲得。そして毎日のゴール地点で「可愛い!」と多くのアメリカ人の笑顔を作った。
スバル360は来年還暦を迎える日本のファミリカーの始祖的存在として広く知られており、NHKの『プロジェクトX』でも取り上げられ視聴者の涙を誘ったモデル。戦争の荒廃から抜け出そうと日本全体で頑張る中、やっと本格的な工業製品を作ることが許された技術者達は小さい小さいクルマに日本の夢を載せたのである。
1958年に発売された時は連続して高速走行出来るようなテストコースもなく(高速道路自体無かった)、連日80km/h以上で、長い日だと600km走るような使い方など想定していなかったと思う。しかも排気量は360cc。グレートレースの主催者や他のエントラントの皆さんはクルマを見て「完走できないだろう」と思っていたという。
実際レースが始まってみると、5000cc以上のV8エンジンを搭載するシボレーやフォードに代表される50年前のアメリカ車と比べスバル360は圧倒的な体力不足。同じ時期のアメリカ車が110km/h以上で走れる高速道路の長い登りなど70km/hすらやっと。箱根の峠を越えることを開発目標にしたクルマなのだから当然かもしれない。
しかも新車当時より過酷な状況で使われる上、50年前のクルマということで経年劣化していた部分も多く、スタートから7日目まではトラブルの連続となってしまう。日本で走行テストして問題無かった部分が、40度近い気温で10分も長い坂を登っていると壊れてしまうのだ。毎日のようにギリギリでゴールに辿り付き、連日深夜まで対応に追われる。
ところが8日目にして全く壊れなくなった。弱かった点を全て本来の性能に戻せたのだろう。最後の2日間は驚くほどの”強さ”と信頼性を見せてくれる。設計速度の100km/hで巡航し、7日目まで全く追いつけなかったグレートレースの厳しい指定速度もクリア! 最後の2日間はアメリカ車に負けない成績を残すことが出来た。
スバル360は航空機の技術者によって作られた日本で最初の「現代的な乗用車」(それまではトラックの金属フレームに乗用車のボディを載せた構造)である。本来の調子を取り戻したら、予想もしていなかった「強さ」が出てきたことに驚く。加えてアメリカの人達が何より評価してくれたのは、毎日一生懸命走ってるスバル360と私たちの姿勢だったらしい。
表彰式で突如名前を呼ばれ、文頭の通り『これまでで一番馬力の少ない完走車』と『敢闘賞』という二つのアワードを貰う。戦後の苦しい復興期、限られた条件しかない中、一生懸命クルマ作りをしてきた先達も喜んでくれることだろう。60年間で日本車は頑張った! もはやアメリカ車に体力でも負けていないことを誇りに思う。
(C) 国沢光宏
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【スバル360でアメリカ4000kmを激走】国沢光宏のグレートレース参戦記その10
2017年7月3日 17時30分
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無事に全日程を完走! 2度目のACEも獲得した
9日間、約4000kmに渡ってアメリカ大陸を縦断する「グレートレース2017」もいよいよ最終日。常にトラブルを抱えていたスバル360がついに本調子になり、いよいよゴールが見えてきた!
しかし朝起きると雨の降った跡があり、空もどんより。窓を少し開ければ曇りは大丈夫だが、雨対策を何も施していないため、少し不安……。
雨の心配をしながらホテルをスタートし、フリーウェイで移動。途中でポツポツと雨が降るシーンもあったが、なんとか持ち直す。しかしレグ1のスタート地点手前にあるガソリンスタンドで給油を行っていると、バケツをひっくり返したような土砂降りに! 前半にスタートした組は既にレグ1の競技をスタートしており、聞くと前方がほとんど見えないくらいで、危険な状態だったという。
しかし「雨が降らないように祈ってました」というコ・ドライバーの小島さんの願いが通じたのか、レグ1のスタート前には雨がすっかり上がるという神がかり的な状況に! おかげでレグ1から問題なく走ることができた。
クルマのほうも絶好調! じつはスーパーメカニックの喜多見さんが、別の仕事があるため1日早く帰国してしまったのだが、昨晩、スバル360をしっかりとメンテナンスした上で、送り出してくれたのである。
さて今日のコースは、畑や牧草地帯などが多かった一昨日までとは違い(グレートレースに3回出場している自動車評論家の西川 淳さんによると、景色は今回のレースが一番退屈だったとか……)、ミシガン州スー・セント・メリーをスタートし、昨日と走ってきた道を通りながら南下。五大湖のうちのひとつであるミシガン湖沿いを走りながらゴールのトラバースシティを目指すルートだ。
途中、アップダウンがかなり激しいルートなどもあったが、スバル360はなんのトラブルもなく、国沢さんが「クルマの調子が良すぎて意外とあっさり着いちゃったから、思ったほど感動がない(笑)」と語るほど、順調にゴールにたどり着くことができた!!
ちなみに国沢さん、ゴールしたことよりも、近辺で行われていた航空ショーでサンダーバーズ(アメリカ空軍のアクロバットチーム)を見られたことに興奮していた……。たしかに日本では考えられないほど近かった!!
ちなみにレグ2ではこのレースで2度目となるACE獲得! じつは44秒という超短いレグのため、「ボーナスステージみたいなもんだよ」と国沢さんは語るが、それでも獲得できていないチームがいるのだから立派だ。
レース後のパーティーでは特別賞と盾が授与された
チーム国沢のグレートレース2017は、完走&ACE2回、参戦120台中、総合95位で終えることができた。ちなみに1日ごとの順位は初日の108位から始まって、二日目以降、109位、93位、83位、105位、91位、103位、76位、89位という成績だった。
さて、今回無事にゴールを迎えたふたりに、感想を聞いてみた。
「アメリカに来る前は完走する気満々だったけど、初日にエンジンがカジった時点で、可能性は5%になったかなと思ったよ。クルマの調子が悪くなったこともあるし、あとはスバル360を走らせるには、アメリカの交通事情はハードすぎた。それにリエゾンの移動が全然間に合わない。聞いたら時速55マイル(約88.5km)くらいで設定しているみたいなんだけど、それだと厳しいんだよね。
でもスバル360には凄く愛着があるよ。昨日からようやくエンジンが本来の調子で走ることができたけど、それだと全然壊れないし、タフ。良くできている。
ただやってみて分かったのは、自分にはこういったヒストリックカーのレースは合わないかなと(笑)。やっぱり速さを追求するほうが楽しいね」(国沢さん)」
一方で、コ・ドライバーを務めたエムリットフィルターの小島なつきさんは、
「想像以上に過酷でした。普段、クルマに1日で10時間も乗ることはないですし。ただ時間が過ぎるのは一瞬でしたし、全体的には楽しかった。いろいろな人が手を振ってくれたり、ゴールで出迎えてくれたり、高速道路で写真を撮られたりるするとは思わなかったです。
あと海外チームのみんなが優しくて、コ・ドラのひとと一緒に愚痴ったり、わからないことを教えてくれたり、あとストップウォッチが壊れちゃったんですけど、他のチームの人が貸してくれたり。
それにしても、今回は本当に完走できて良かったです。私、クルマの調子が悪くなったときも、事故に遭ったときも、完走できないかもって考えたことはなかったんです。何の根拠もないんですけど、ずっとそう思ってました。」(小島さん)
そして全レース終了後のパーティーにて、サプライズが待っていた。9日間頑張ってゴールを果たしたチーム国沢のスバル360に対し「Lowest Horsepower Vehicle Ever To Finish」(これまでゴールしたクルマで一番パワーの少ないクルマ)という特別賞が授与されたのだ!!
加えて、フィニッシュしたことを讃える盾も合わせて授与された(完走者全員にもらえるものかと思ったら、違うらしい。チーム国沢のスバル360のために、いわば敢闘賞的なものを特別に用意してくれたようだ)。9日間4000㎞掛けて走破したスバル360&チーム国沢の頑張りが、自動車大国・アメリカで認められたのである。
スバル360は今後の用途は未定とのことだが、ひとまず船便で日本へ。果たしてスバル360&国沢さんの、次のステージは!?
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