〜「マスクパンダ」と「予防ハンドブック」〜
天国に逝ってからまだひと月にも満たないのに、オチオチ眠ってもおられん、と「ノムさん」はボヤいていることだろう。新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大禍への対応で、全てがテンヤワンヤで大揺れしている。学校閉鎖、スポーツ競技などのイベント自粛。プロ野球もオープン戦は全試合を無観客で実施することに決まった。
そうなると、3月8日の甲子園球場での対巨人オープン戦を「ノムさん」の追悼試合とする予定が吹っ飛んでしまったのも、当然の流れ。
「お客様がはいっておられない追悼試合っていうのも変な話。事実上、延期です」(阪神タイガース球団本部長談)
それを追いかけるように、今度は息子で近親者だけで済ませた葬儀で喪主を務めた克則氏(楽天・作戦コーチ)が、プロ野球の開幕前に一般会葬者も出席できる本葬儀を東京・青山葬儀所で執り行う予定だったのを、シーズンオフに日程を考えている、と変更を明らかにした。
「ま、その方がええわい。もう少し静かに眠らせてほしいわ」
そんな「ノムさん」の声が聴こえてくるようだが、同じ84歳同士。こちらからあなたに話して置きたいこと、伝えたいことがいくつかある。その辺を、わたしの身辺のつれづれ話なども交えて、もうひと頑張り、綴ってみよう。
☆ ☆ ☆ ☆
全戸で62所帯、築37年のこぢんまりした5階建てマンションの管理組合理事長を引き受けてから満2年になる。共用部分の給水管更新工事や、宅配B O Xの導入、玄関入り口花壇の目配りから、「納涼の夕べ」「防災D A Y」といったイベントの開催など、結構様々な出来事に追いまくられるのを楽しんできた。
それでも、今回の新型コロナウィルスの感染拡大禍への対応については、何一つ、理事長として役に立てないでいるおのれに、少々、腹を立てていた。せめて玄関ホールの自動開閉扉の出入り口に、除菌用のスプレーでも用意したいのだが、どうあがいても、その入手すら不能だった。
そこで思い立ったのが、ともかく感染症にかからない、うつさないための「感染伝播予防」の基本をまとめたハンドブックはないものか、であった。
探せば、やっぱりあるものだ。N H Kテレビで解説によく起用されている感染症学の権威・賀来満夫教授が監修し、東北医科薬科大学病院感染制御部・仙台東部地区感染対策チームが作成した『新型コロナウイルス感染症 市民向け感染予防ハンドブック』‥‥‥イラストを多用したA4カラー版19ページ構成のPDF。プリントアウトも問題ない。コピー用紙を裏表に刷り込めば10ページで仕上がる。ともかく大急ぎで見本を作ってみようじゃないか。
もうすぐあと1日で、閏年の2月が終わってしまう金曜日の夜の出来事であった。
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翌日、出来上がったばかりの「見本刷り」を見せながら、折から3月末に開催予定の通常総会の打ち合わせで、招集をかけていたベテラン理事2名と管理会社の担当者に「これを玄関掲示板の前に小テーブルを用意して、適当な部数、置いてみたらどうだろう?」と提案した。
即座に、瀬戸内海海賊の末裔に多い姓を持つ管理会社の担当氏が反応してくれる。
「あ、いいですね。こちらも掲示板に貼ってもらうつもりで、首相官邸と厚生労働省の作成したポスターを持ってきましたが、ハンドブックをぜひお願いしたいです」
「それなら、ポスターも掲示して、ハンドブックの方はひとまず20部くらいを用意しておいて、希望者だけでも自由に持って行けるようにしましょう」
話は決まった。午後からはハンドブックの制作に当って、まず自前の沖レーザープリンターのチェックに入る。20ページものを、仮に30部刷るとして、少なくとも600ページ分の4色トナーカートリッジとコピー用紙が最低必要となる。
チェックしてみるとM(マイゼンタ)がすでに交換時期にはいっている。困ったことに、この手のトナーカートリッジは大手量販店でないと常時在庫をしていない。早速、池袋のビックカメラまで出向いて調達することにした。
池袋駅の東口はいつもの雑踏と変わりなかった。が、不思議なことに人の波が渦巻くように一つの方向へ寄せている。そして押し返される人々の手にはビニール袋に包まれた白いマスクがひらひらと‥‥‥。何ごとか!? こちらも人の波の流れに任せて渦の中心に近づいてみると、お揃いの白いブルゾンコートをまとった若い男女の集団が、持ちこんだ段ボール箱からマスクを取り出して、どうぞお持ちください、と声をかけながら手渡しているではないか。
マスクやトイレットペーパーの供給不足で、かつてのオイルショック騒動が思い出される昨今、街行く人にマスクを無料配布する光景は異様といえた。それでも背後から押されながら、その流れに身を任せていると、ヒョイと白いマスクを手にした若い女性の前へ押し出された。
「マスクをどうぞ」
「ありがとう。でも、どうしてこのマスクを配ってくれるの?」
受け取った瞬間、お礼をいうのがやっとだったが、それでもこのボランティア活動について問い質すこともできた。
「武漢からの恩返しです」
日本語がたどたどしいな、と感じた瞬間、人の流れで渦の外へはじき出されてしまった。そのため、そのボランティア活動の様子をiPhoneで撮影することも忘れて、本来の目的である家電量販店のP C館に、あたふたと向かってしまった。
*どこかに、この日のマスクを配布したボランティア集団の記録はないかと「捜索」
したところ、『人民網日本』に収録されていました。それによれば‥‥‥。
在日華僑華人が発起したボランティア団体「マスクパンダアクション」が2月29日、日本の東京・池袋駅前で道行く人々に無償でマスクを配り、中国の新型コロナウィルス感染による肺炎拡大時に日本各界が中国に提供した無私の援助への感謝の気持ちを示した。
この記事に、4枚の写真が添えられていたので、紹介したい。
残念ながら、マゼンタ(赤系)のトナーカートリッジは珍しく品切れで、取り寄せになるという。それでは間に合わない。系列店で在庫しているところは? 店員に調べてもらうと、新宿西口ハルクにある系列店に1本だけあるという。これはもう、こちらから足を運ぶしかない。池袋からJ R山手線で新宿に向かうことにしたが、別の期待もあったから、つい運ぶ足にも力が入ってしまう。先刻のマスク無償配布集団の活動ぶりを、今度はぜひ撮影しておこう、と。
午後4時、再び池袋駅東口に近づくにつれ、わが眼を疑った。あの白いブルゾンコートを纏った集団の姿は消えていた。いつもと変わらない雑踏がそこにあるだけで、あれは幻だったのか。しかし、行き交う人々の中には、白いマスクをひらひらと指に絡ませている姿も見られた。おそらく次の配布先にあの集団は移動したのだろう。
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新宿西口ハルクの中の主要部をそっくり占領しているビックカメラ。かつての小田急デパートの繁盛ぶりを知っている世代には、時代の流れを思い知らされて、店内を歩いていても辛いものがあった。
それでも無事、求めていたマゼンタのトナーを入手し大急ぎで自宅へ取って返したが、この感覚をつい先日、正確にいえば11日前に味合わされたのを、実は「ノムさん」に報告したかったのだ。
彼の著書『ありがとうを言えなくて 妻・沙知代へ=愛惜の手記』(2019年4月1日 第1刷発行・講談社刊)を入手するために動いてみたところ、なかなか手に入れられず、意地になって都心をあちこち飛びまわってやっと入手、一読して、その真っ直ぐな内容に感じるところがあって、実はもっと早く紹介するつもりだったので、タイトルを《天国の「ノムさん」への報告》とした。が、その件は「その2」の方に譲って、じっくり書き込ませていただく。
さてもう一つの主題、「感染予防ハンドブック」は最初、30部を刷り上げた。うち9部は理事会メンバーに配り、残りの21部をトートバックに入れてエレベータ前の掲示ボードにぶら下げたところ、全てが消えるまでに2日とかからない、抜群の売れ行き(?)だった。そこで慌てて10部を増刷したところ、これも一晩たったら全冊消えて、さらに5冊を追加したが、3月5日の夜現在、たった1冊が袋の中で、誰かが攫っていってくれるのを待っている。
ということは、何冊がわがマンションの居住者のもとへ、届けられたのだろうか。
(報告〈その2〉をお待ちあれ)
Posted at 2020/03/05 23:24:52 | |
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