車関係の掲示板に良く出る話題に、エンジンオイルや添加剤の話があります。
色々と意見があると思いますが、高いお金を払った大切な車だと思っているなら、変な物を入れるよりも純正でいきましょうよ!と言うお話しです。
某BP・BLレガシィのコミュニティの掲示板でも質問があり、添加剤については詳しく書いたんですが、11月末で新板に移行してしまい消えてしまいました。新板でも同じ質問が出ていましたが、どなたか私の書いた物を保管していてくれたようで、張り付けていてくれたので書きませんでしたが、どうして設計者が辞めて欲しいと言っているのに・・・と、愚痴っぽくなってしまいました(^^;
ここに書かれている人は、何歳くらいの方が多いんでしょうかね?
オイルなどに関しては昔から、半年または6千km毎に交換と言う話があり、それが通説として言われていますが、ここ7年位でしょうか・・・プリウスやフィットが出たり、オイルのグレードがSF以降で急にSJ、SL規格などが出た頃から、車のエンジン、オイルはそれ以前と別物になってきています。
オイルは同じような缶で売られているから分かりにくいですし、オイル開発メーカーにとっては、オイル交換をしなくて良いというオイルは、自分の首を絞めると言うジレンマがありアナウンスされていませんが...
どのあたりが変わったのか、簡単に書いてみます。
-----エンジン側-----
純正オイルは以前は10w-30~40等が普通でしたが、最近は5w-20と言った低粘度オイルを純正指定している車が増えています。
これは、燃費向上と言う意味合いがありますが、こうした低粘度オイルを純正に出来るまでになったのは、エンジン側、オイル側で大きな進歩があったためです。
古い車や、高負荷走行をするには硬めのオイルがいいと言われていましたよね。これは、前者の場合、ピストンリング等が摩耗しているので、固いオイルで厚い油膜を作りコンプレッションを稼ぐと言う意味合いであり、後者の場合は油温が上がりピストンスピードも速いので、油膜が切れないように予め硬めの物を入れると言う意味合からでした。
これは、共に正しい事なのですが、エンジンが保護出来るならばオイルは柔らかければ柔らかいほど気持ちいいし、燃費も良くなります。(またの機会に書きますがマイクロロンを入れるとオイルはシャビシャビになり保護性能は落ち、吹け上がりは良くなります)
ですから、以前はレーシングカーなどでも走行中の油温を想定して、固いオイルを入れていましたが、現在はレース中のガソリンによるオイルの希釈まで計算して、レース終了時にギリギリエンジンが保護できる柔らかい物を入れます。
また、フィットなど5w-20と言ったような低粘度オイルを採用して燃費を良くしている車は、シリンダー揺動面には特殊加工が施されていて、どのような車でもこうした低粘度オイルが使える訳ではありません。
しかし、コンピュータの高速化により、以前は正確に解析出来なかった、燃焼解析やエンジンの熱伝導や熱膨張解析がシミュレーション上で出来るようになり、ピストンのクリアランスを大幅に減らす事が可能になりました。そして、コンピュータの性能向上は加工機器の性能も引き上げて、以前と桁違いに精度の高い加工が可能になりました。
こうした進歩によって、以前は厚めのオイルを挟む必要があったのが、薄いオイル膜で問題が無くなりました。
-----オイル側-----
エンジン側が進歩しても、オイルが進歩しなければ、薄い油膜では高負荷時に膜切れを起こしてしまったでしょうが、そこはオイルの進歩によって薄くても膜切れを起こし難い物が完成しました。
ここの皆さんは車が好きな方が多いでしょうから、エステルと言う言葉を聞いたことがあると思いますが、これはオイル業界にとっては画期的なものでした。
エステル分子は極性を持ち、非ニュートン系とか磁性をうたっている商品はエステルが多く入っていますし、金属分子に磁気的に結合しやすく、音も静かになるので今のオイルには多少なりとも入っているものが増えています。
オイルは添加剤の集合と言えますが、こうしたベースオイルの進歩とそこに加える添加剤に進歩によって柔らかいオイルで、交換サイクルも1.5万km~3万km、1年~3年と言うことが可能になりました。
オイル性能がなぜこのようにあがったか・・・理由は色々とあります。
科学の進歩、設計の進歩・・・ですが大きいのは軍事技術のフィードバックでした。
トライボテックスと言う技術が民間に下りてきたのは、ここ15年位の事ですが、元はアメリカ海軍が原子力潜水艦の運用のため、オイル診断からモーターや軸受けの状態を判定するのが始まりでした。
原子力潜水艦は、いったん有事が発生すれば人間は除いて、年単位で行動出来るように考えられており、そのオイルに求められる性能は飛びぬけて高いものでした。
もうひとつ、高性能オイルを求めたのがジェットエンジンでした。これは年単位を想定しませんが、空中給油で2日間飛んだとすれば、自動車エンジンの10万km以上の潤滑性能を要求するオイルが必要でした。
ですから、かなり前からこうしたオイルを車に使用すれば、10万km交換しなくても良いと言われていましたが、航空機が使用するオイルで1リットル当たり4万以上と車に使用するには価格が高すぎるものでした。
で、我々は自分の車にどんなオイルを入れたらいいのか。
言い古されていますが、純正オイルが一番安全です。今はエンジン設計の段階からオイルメーカーの技術者と連携して、ひとつの部品として、ゴム類への攻撃性も含めて検証しているので、純正オイルを指定サイクルで変えてもらうのが一番安心です。
また、新車でライン充填される純正指定オイルになると言うことは、オイルメーカーにとって名誉であり、また利益も大きいので優秀な技術者が気合を入れて開発をしています。ホームセンターに並んでいる高額のものよりも、そのエンジンの性能を引き出すように添加剤などチューニングされているものです。
今の車は特に問題ないと思いますが、ちょっと古い欧州車に添加剤や、高級オイルを入れたら使用されていたパッキングが溶けて、ラインに詰まったりする故障が発生したことがありました。
と言っても色々と試してみたい方は、メジャーメーカーのSL規格以上で、純正指定粘土の物を入れていれば間違いありませんので、色々と試してみましょう。
ここまで書いておいて言うのも何ですが、車のエンジンがオイルに要求する性能はかなり低いです。あのアウトバーンをとばすメルセデスベンツがオイルメーカーに示した、性能要求はあまりに低いもので驚いたと言う話があります。
あと、高いオイルを長くと安いオイルを頻繁に変えるのはどちらがいいかと言う議論がありますが、これは最近はエクソンモービルの技術者も言っていますが、高いオイルを使ったほうが良いです。
長くと言ってもメーカー指定の範囲内のことですが、今のオイル規格は長期安定性として、8000km使用後に性能基準を満たさなければならないと言うテスト項目がありますが、安いオイルは8000km使用後の高級オイルに洗浄性や潤滑性で劣るものが少なくありません。
以上のことは一般的な使用の範囲の話です。サーキット走行を頻繁に行う人は、純正オイルで構いませんので、油温計を付けて120℃を超えるようでしたらオイルクーラーを装着してください。ご要望があればこのあたりの話も別の機会に書きたいと思います。