FLAT6さんに触発されて、MTの魅力、ひいてはATとMTの違いについていくつかブログで述べてみました。
MTの価値について(1)
プロローグ
MTの価値について(2)
ATとの違いの真実
MTの価値について(3)
色褪せない優位性
これらのキッカケでもあり、MTの存在意義について実に興味深く述べられているFLAT6さんのブログはこちらです。
MTとATの違いを考察する。
(その1)
MTとATの違いを考察する。
(その2)
MTとATの違いを考察する。
(その3)
MTとATの違いを考察する。
(その4)
MTとATの違いを考察する。
(その5)
二人は当然、別人格であり、表現方法も異なるし話題の力点の置き方も微妙に異なるのですが、恐らく感じていること、言わんとするところは同じだと(少なくてもボクは(^_^;))思っています。
で、今回は3本にまとまったボクのブログですが、故にサラリと書き流してあまり深く述べなかったいくつかの部分を補足したいと思いました。
先ずは"
エンジンの味"なるものと、それを"
味わう"とはなんなのか?
当然、人間の五感であるところの"味覚"に出番はないのですが、、、(苦笑)。
これはボクの愛車でもあるNSXのエンジン性能曲線図ですが、注目頂きたいのは軸トルクの曲線です。1000rpmで約25kgmから若干の凸凹はありますが、最大値30kgmを発する5400rpmまで、ほぼ右肩上がりを示しています。これが意味するところ、お解かりになるでしょうか?(^_^;)
例えばこのエンジンが4速2000rpm、50km/hで走行していたとして、そこで「グィ」をアクセルを踏み込んだときにクルマが「ぐぃ」と前に出て加速を始める。その瞬間のエンジンの力が25kgmというトルクです。
クルマが加速すれば当然、速度は高まります。MTはエンジンと車速がリニアな関係にありますから、エンジンの回転も高まります。エンジン回転数が2000rpmから2100rpm、2200rpm、高まったときのトルクはいくらでしょう?3000rpmに達すると発生するトルクはおよそ27kgmまで高まります。
つまり「エンジン回転数の高まりに応じて、発生するトルクが増していく」ということを示しています。理屈で言えば、アクセルの踏み込みを仮に一定にしていたとしても、エンジン回転数の上昇に伴ってエンジンの力強さ(トルク)が増していけば、加速力は徐々に増していくハズです。
このエンジン回転数の高まりによって力強さ(トルク)が増していく感覚(フィーリング)が、
レシプロエンジン特有の魅力と言われています。官能的とか表現されるエンジン特性というように。
ところが、、、(笑)
性能曲線を良く見ると「あれ?」と思うところがあります。上記の説明に照らせば、NSXのC30Aがもっとも力強いのは5400rpmであり、その先のトルク値は減る一方です。更にホンダのVTECエンジンの特徴であるHiカムへの切り替えポイントはおよそ5800rpm。Hiカムに切り替わった後の6000rpmからレブリミットの8000rpmまでの官能性能が高く評価されているハズのホンダエンジンが、これは一体どうしたことでしょう?(苦笑)
話は変って(おぃおぃ)、以下の性能曲線はインテグラTYPE R(96spec)のB18C 96specRの物です。
トルクカーブを見ると、C30Aに比べ8000rpm近くまで右肩上がりのカーブを描くものの、3000rpm弱から5000rpm弱までの範囲でトルクが一旦、落ち込んでいることが判ります。ということは、3000rpmから5000rpmまでの間は、回転が高まっても力強さはむしろ減っているということになりますねぇ。
そしてこちらはプレリュードに塔載されていたH22Aの性能曲線(笑)。
C30AやB18C 96specRに比べるとトルクカーブはなだらかで、高回転での落ち込みも緩やかです。
さて、三基三様のVTECエンジンですが、実際に使ったボクの使用感は次の通りになります。
先ず、様々な曲線を描くトルクカーブですが、フィーリングは基本的に三基とも「レブリミットに向けて直線的に駆け上がっていく」点は同じです。回せば回すほど力強く気持ち良く吹け上がってくれます。
そしてエンジンのキャラクターですが、3基ともそろぞれ個性があります。ひと言で言うと
B18C : 豪快
H22A : 爽快
C30A : 痛快
といったところでしょうか。
もっともトルク値が低く扱い難そうなB18Cが、ある意味一番刺激的です。
H22Aは逆に回すことが気持ち良く、刺激が少ない代わりに高回転まで回してもストレスがありません。
C30Aは良くも悪くも中間です。もっとも排気量が大きい分だけ速度の乗りが良い。
何が言いたいのか?というと、結局、性能曲線だけ見ても、エンジンは
実際に回してみないと解らない(爆)ということです。d(^.^)
同じホンダのVTECエンジンながら、エンジン回転数の高まりによって変化する力強さをはじめ、音、振動、そしてエンジンの回転感覚は皆、三基三様の個性があります。これらをひっくるめてひと言で表すと「エンジンの味」ということになるのですが、それらを感じ取る側のドライバーの感性によってもまた、これらの味は異なるかもしれません。
さて、エンジンの味が以上の通りとすると、レブリミットに向かって回せば回すほどその味を色濃く堪能できるということになる筈ですが、話はそう単純ではありません(苦笑)。
一般道を走る場合に6000rpmとか8000rpmまでエンジンを回して走るドライバーは居ません。高回転まで回すほどにエンジンは"美味しい"はずなのに、これは一体どうしたことでしょう?(苦笑)
エンジンを許容回転数近くまで回すこと自体、実はドライバーにストレスを与えるのです。許容回転一杯まで回すことによってもっとも力を発揮することと、これは矛盾する話です。矛盾するのですが、この高まるストレスはピストンの往復運動が動力を生み出すピストンエンジン特有の物と思われます。その刺激を許容するにはドライバーも相当に"ハイ"な状態となる必要があります。つまり興奮状態とでもいいましょうか(^_^;)。そんな精神状態にはエンジンのパワーバンドの刺激性はバランスするのですが、一般道を普通に運転するような精神的にも穏やかな状態のときは、エンジンもそれに見合った適度な刺激が心地良いということになります。
この「適度な刺激」を味わう行為が実は、シフト操作と密接に関係します。
今、自分が味わいたいエンジンの適度な刺激が2000rpmから3000rpmで味わえるとすると、シフト操作を駆使してエンジン回転数をこの範囲に留めることになります。これは言うまでも無く
1速で発進し回転数が3000rpmに達したら2速にシフトアップし、再び3000rpmになったら3速に・・・
と加速していくことですが、このときドライバーは、
「3000rpmに向けて高まっていくエンジン回転と共にもたらされる振動や音の高まりを感じながら、それが心地良さからストレスへの変化していく様子を察知し、『そろそろかな?』という頃合を見計らってクラッチを切りギヤを上げてエンジン回転を下げ、クラッチを繋いで再び、エンジン回転の上昇に伴う諸々の感触と対峙する」
というのを繰り返すワケです。言葉で書くとなんとも冗長ですが(苦笑)、やっていることは無意識に近い操作で、身体で感じるエンジンのフィーリングは、常に運転と共にあると言えます。それを拠り所に、シフト操作をしているわけですから。FLAT6さんが"クルマとの対話"と表現した部分ですが、文章は異なっても言いたい事の要旨は一緒です。
そしてこのときの「クラッチを切る」という行為の影響はFLAT6さんもボクも言及していますが、「コクッ」とか「スコッ」という擬音で評されるシフト操作の感触もまた、ある種の心地良さをドライバーに提供します。
これらMTの運転に伴うエンジンの味を感じ取ることが出来ない人にとっては、MTの操作は真に煩わしいモノ以外の何物でもなく、感じ取れる人にとってはそれが或る意味「クルマの運転そのもの」と言えるくらい、両者には大きな差があるというのがボクの見解です。
また、改めて述べますがこの「エンジンを味わう運転」というのは、実はエンジンの性能を使い切らない一般道などのドライブが中心になることが、ここまでの説明で判ると思います。スポーツ走行などの運転では意外に、ドライバーは「味わう」というよりはむしろ、エンジンの性能を目一杯引き出すことに意識が向いていて、シフトアップもレブリミットの手前と機械的です。その全然手前の低中速域の回転数を"選んで"使っている一般道の方が、明確にエンジンを味わっていると考えられます。
さて最後に以下のエンジンの性能曲線を紹介します。
これはVWのTSIエンジンですが、注目すべきはそのトルクカーブです。ホンダのVTECとは異質とも言えるフラットなものです。最新のダウンサイジング過給エンジンは皆、このような性能曲線を描きます。果たしてこのようなエンジンは、旧来のような"エンジンの味"を持ち合わせているのでしょうか?
この辺りの懸念が真にFLAT6さんに「次はMT」と考えさせる要因ともなっているのですが、回転数が低かろうが高かろうがトルクが変らない、というトルク特性のエンジンが「回して楽しいのか?」については大いに興味があるところです。
また、マツダのSKYACTIV-D2.2の性能曲線を見ると更に悩ましい(苦笑)。
42kgmという最大トルクばかりが注目を集めるSKYACTIV-D2.2ですが、こいつのトルク特性はフラットどころか右肩下がりです。まず間違いないのは、従来のガソリンエンジンのような「回す程に刺激的」という特性とは異質のフィーリングでしょう。
ボクはSKYACTIV-D2.2のMTを試したことは無いので、それが楽しいか楽しくないのかにここで言及出来ませんが、これらのエンジンの性能曲線を見ていると、旧来のエンジンの味が楽しめるMT車が今後入手可能か?という点に於いては、ちょっと憂慮すべきかも?(^_^;)。
そしてこの動力源がモーターに切り替わったらどうなるか?モーターのトルクカーブってどんなかご存知でしょうか?(笑)
興味のある人は、ネットで探してみて下さい(^_^;)。