本来の目的地の到着したとき、その日の中でもっとも
激しい雨が降りそそいでいた。
道端の土が剥き出しの駐車スペースに車を停める。
近くの小さなお土産屋を利用した場合だけ、
無料で駐車しても良い旨が書かれた立て札が立っていた。
休憩が必要だった私は、荷台に常備してある安物のビニール傘をさし、
その店へ向かう。
その店は、古風なオープンカフェというか、いわゆる茶店風な木造の建物であった。
私以外の客は居らず、店の人が空を見上げながらなにやら話し込んでいた。
その周辺でくみ上げたらしい清水で淹れたコーヒーと、蒸かし饅頭を注文する。
木のベンチに赤い座布団という、しびれる組み合わせのオープンスペースに腰を下ろし、
取り囲むようにそびえ立つ断崖絶壁をなめるように見上げる。
屋根の下にいるので、全体を見渡すことはできなかった。
それでも、充分に圧倒的な迫力を感じた。
注文したコーヒーと饅頭が運ばれてきた。
ほのかなあんこの甘さが、雨中の運転で痺れた感覚を癒してくれる。
コーヒーの方は、淹れてからしばらくたっていたようで、
既に香りは抜けており、炭焼きの苦味だけが舌を刺激した。
ただ、そのコーヒーの温もりは、冷えた空気の中ではとてもありがたく思えた。
コーヒーを飲み終えても、断崖から目を離さずに腕組みのまま立ちつくす私。
そんな私に、店の主人が入れたてのコーヒーをサービスしてくれた。
一杯めよりも、香り高く深みのあるコクを感じられたコーヒーは、
液体の温度以上に、淹れてくれた人の温かさが伝わってきた。
特に会話を交わすことも無く、コーヒーを旨そうに飲み干す私を眺めて
目を細めているのが、視界に入っていた。
「ごちそうさま」の一言を残し、まったく儲けにならない客に向かっても
最上級の笑顔でお別れの挨拶を向けてくれた。
車に乗り込む前に、傘を差しつつ360度の風景を
十数枚の写真に収めてみた。
激しい雨かつ光も少ない中でのフラッシュ無しでの撮影。
しかも三脚を立てる余裕がないなかなので、良い写真がとれていればラッキーとしか言い様が無い。
ただ、本人は雨中の幻想的な渓谷の風景を見れたことに、
密かな喜びを感じていたのも、事実である。
そんな穏やかな満足感を温めながら、次の目的に向かうのであった。
Posted at 2006/04/28 01:30:22 | |
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