誰も知らない中国調達の現実(241)-岩城真
中国製造業とひと言で言っても、あまりにも千差万別であることは、あらためて書くまでのこともない。実際に日本人に広く知られているのは、沿海部にある民営企業のことではないだろうか。筆者自身、中国の工場を訪問したのは2000年の上海が、はじめてであった。
その時に訪問した企業の数社とは、今でも取引があり、彼らの変遷を目のあたりにしてきた。僅か10-15年でここまで大発展したことが、今でも信じられない。
一方で、筆者は、上海を訪れた直後から内陸部のさまざまな国有企業との交流が始まり、数年後には国有企業に駐在することになる。一旦、日本に戻り、その後中国国有企業との合資企業に駐在、再び別の国有企業に駐在といった経験を重ねてきた。
正直なところ、好き好んで国有企業と取引を重ねてきたのではない。大掛かりな産業機械の製造企業といったら国営企業の流れを組むところがほとんどなのである。様々な大型機械を保有する必要があり、かつ受注生産である故、その稼働率も不安定である。
とても民間企業が、ゼロから参入できる業界ではない。中国で産業機械を作るには、国有企業との取引は、切っても切れない。そのような訳で、筆者は15年に渡りさまざまな国有企業と交流してきた。
中国東北地方の国有企業の15年前と今、結論を最初に書いてしまうと、本質的なところは、これっぽっちも変わっていない。右肩上がりで活気のあった15年前と不景気の嵐の吹く今とでは、むしろ今の方が、本来の国有企業の体質、つまり国営企業の“親方五星紅旗”が、如実にあらわれている。
年間の大半は休業し、たまに工場が操業しても出勤させるのはひとにぎりの従業員だけ。それでも、会社はつぶれない、減額や遅配があるとはいえ、給料も支払われる。「どうして?」と日本のサラリーマンなら、頭の中に「?」の列ができてしまうだろう。答えは「国有企業だから」のひとことに尽きる。
沿海部の民間企業が活況だった7-8年ほど前ならば、レイオフしても、沿海部に出れば雇用の吸収先があった。しかし、今は、それがないから国有企業のレイオフは、大量の失業者を生み、治安を悪化させる。ひいては政府への不満に繋がることを恐れる政府は補助金を出し、雇用を維持させる。
従業員は、そのことを知っているから、会社にしがみついてさえいれば、生活できることも知っている。何もしなくとも、ただ、ただ、しがみついていればよい。むしろ、必死なのは、経営者だ。共産党支部の幹部でもある経営者は、いつまでも補助金で食いつないでいるような経営では、路頭に迷うことはなくとも、党内の序列はあがらない。
元々、優秀な人たちだ。外資との提携など、あの手この手と躍起になっている。しかし、従業員は、“笛吹けど踊らず”である。
筆者が、はじめて国有企業に駐在したときの経営者は、「いつまで好景気が続くかわからない、不景気になったときに生き残るためには、世界に通じる品質を!」と、あえて品質もコストも厳しい日本企業との合作を推進していたが、従業員、特に中年以上のベテランは、「こんな儲からない面倒な仕事をする必要があるのか?」と懐疑的、いや非協力的だった。環境は、まったく逆でも、本質的なところは変っていない。
変っていないところは、ほかにもある。中国国有企業のエンジニアが、徹底的に保守的であることは、容易に想像がつくことである。確実に生き残る方法は、失敗しないことであり、確実に失敗しないためには、もっともらしい理由をつけて、何もしないことである。
しかし、そんな彼、彼女らの心にスイッチを入れる唯一の方法は、“グァンシー(関係)”と“面子”である。「岩城が、そこまで言うなら、まぁ、岩城の面子(メンツ)を潰さないために、ちょっとやってみるか」といったことだ。
要するに、面子に配慮してもらえるだけの関係を構築しなくてはならない。我々日本のサラリーマンは、個人で仕事しているのではない。あくまで、組織として仕事しているのである。××社の代表として要請しているのであり、その要請は、岩城が言っても、別の〇〇が言っても、何ら変わらないはずである。
中国社会は、依然として“グァンシー”と“面子”で動いている部分が大きい。そして、一介のサラリーマンが、決められた枠組みの中でする依頼までもが、そうなのである。筆者は、「ふざけるなぁ!」と机を叩きたいことがあっても、にこやかに、あきらめず、粘り強く接し続けた。
仕事で対立することがあっても、昼休みには、トランプを楽しみ、夜は飲食をともにした。これが“グァンシー”を構築するための筆者が知る、もっとも手っ取り早い方法である。こんなことができなければ、スムーズにビジネスが進まないところも、まったく変わっていないのである。
中国は、豊かになれる者から豊かになってきた。それと同様に、変れるものから変わってきた結果、変れないものは、いつまでも変わらないでいられるのだろうか。(執筆者:岩城真 編集担当:如月隼人)
:サーチナ 2015-10-21 17:16
Posted at 2017/02/19 16:36:34 | |
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