「この世界の片隅に」ようやく劇場に観に行くことができました。原作漫画がすごく有名で人気のある作品なんだそうですが、ワタシは全然知りませんでしたし、原作も未読のままです。
かわいらしい絵柄、精緻だけどのどこかほわっとした優しいタッチの背景・・独特のあったかな映像美で語られるこの物語は、れっきとした「戦争映画」なのですが・・・
こんなステキな戦争映画をワタシは見たことがありません。
観客が思わずクスっと笑ってしまうようなコミカルな場面も散りばめられ、戦争という状況の中で日常を生きている「普通の人々の普通の暮らし」を描いています。
もちろん、太平洋戦争を描いたお話、しかも物語の舞台は広島です。ヒロインのすずは広島で生まれ育ち、呉に嫁いでいきます。こんな場所が舞台であり、昭和20年の8月がストーリーの途上にあるということは・・日本人誰もが想起するあのできごとも当然ですが描かれています。
・・でも、我々が「太平洋戦争時代の広島を舞台にした戦争映画」という設定からイメージする物語とはこの映画は一線を画しています。反戦映画でもなければ戦争肯定のメッセージ性があるわけでもありません。戦争を悲劇性を前面に出した映画でもなければ特別な才能や強さを持った特別な主人公が大活躍するようなものでもありません。劇中でも何度も出てきますが、ヒロインのすずさんはホントに普通の女性なのですよ・・。絵を描くことが大好きな、ぼーっとした感じのごく普通のひとりの女性です。
あえていうなら、この映画は「戦争時代、一人の女性を主人公とした日常系アニメ」とでも言えばいいのでしょうか??(^^;) ちょっと違うかな?(汗)
ワタシはもちろん、戦時中には生まれていませんから当時の生活なんていうのは全然分からないのですが・・・銀幕の中には「戦争時代の日本人の暮らし」がたしかにありました。とってもリアルに感じられました。
日々の暮らしのなか、空襲警報さえもめんどくさく聞こえるようになるような当たり前のことになったような毎日だけれども、突然に襲いかかってくる艦載機の機銃掃射の怖さ、降り注ぐ焼夷弾の恐怖までもが日々の日常のリアルさと同じように感じられて・・・本当に怖かった。。
正直なところ、リアルな空気感や生活感といった面には感服しつつも、中盤頃まではこの映画がなぜそこまで評価されているのかがよく分かりませんでした(^^;) たしかにいい映画ではあるのだけれど、そこまで絶賛されるようなものかなぁ? 泣けること間違いなしだというのだけれど・・う〜ん、そうかなぁ??
そう思いながら観ていました。きっと泣けるというのは・・やはり8月6日のあの出来事に関連するのだろうな、と。
・・・違います。ネタバレではないと思いますから言いますが、そういうことではないんです、この映画。
終盤にさしかかって、知らない間に泣いてしまうことが何度か。自分でも分からないのですよ、ホントに。なぜ自分が泣けてしまうのか?? 銀幕の中で展開される凄惨な場面でも、ヒロインが遭遇する逆境に哀しくて涙が出る? 違うんです。
ホントに分からないけれども泣けるんです。あえていうなら
「しみじみと泣ける」
んですよ(^^;) う〜ん、ホントに分からん。たんにトシ喰って涙もろくなってるからか? そうなのかなぁ? 哀しいから泣くのではない、感動したから泣けるのでもない。とにかく何か分からない間に泣いてしまうんです。
この映画のヒロインであるすずを演じているのはNHK朝の連ドラ「あまちゃん」の主演だったあの能年玲奈さん改め「のん」さん。
この人は俳優さんであって声優さんではありません。もともとからして天然キャラでなんとなくぽわわ〜んとしているし、ホントそのまんまなんですよ、すずさんは。
ハッキリ言って声の演技はあんまり上手ではないんだと思いますが・・これもハッキリ分かります。すずさんはのんさん以外には考えられないぐらい、というか
「すずさん=のんさん」という図式があたりまえに成立するぐらいに同一人物ではないかと思えます。それぐらいにハマリ役です。
帰宅してから、劇場で買ってきたパンフレットを読んでいたのですが・・冒頭のほうの文中にこんなことが書かれていました。
映画の完成披露試写会の冒頭舞台挨拶で、のんさんがこう語ったんだそうです。
「生きてるっていうことだけで涙がぽろぽろあふれてくる、素敵な作品です。」
この文面を読んだとき、またまた不覚にも泣いてしまいました(^^;) ホントにそうなんです、こののんさんのヒトコトが全てを表してるなぁ と。映画を見終わるとこのコトバの意味が身に染みて分かるんですよ。
ホントにフシギな感覚ですけども・・涙が出てくるんですよ。
そしてこの映画は・・・昭和20年8月15日も意外と「唐突」にやってきます。まるでこの歴史的な1日ですら「人々の生きている毎日の中の単なる1日だったんだよ」とでも言いたげなほどに。。
そして戦争映画なのですが、8月15日が過ぎても物語は終わりません。淡々と続いていくのです。。
これもきっとこの映画からのメッセージなのだと思います。戦争の日々であっても、戦争が終わっても、人々は生きていく、暮らしいていくのだ、と。
でもこのメッセージは「戦争が終わっても、戦争で何もかも失った人々はそれでも生きていかなくてはならない」といった否定的であったり絶望的なメッセージを語ってくるのではありません。
そこにはやはり、普遍的な人々の日々の営みが淡々と続いていくんだよ、そんな日々の中に幸せもちょっと哀しいコトもいっぱいあるんだよ、と優しく諭されているような気持ちになるんですよね。
するとやっぱり泣けてくるんですね(^^;) あ〜もう分からんけど(苦笑) とにかくしみじみといい作品だな、と。
そうそう、この映画って原作が素晴らしいからと入れ込んだ監督がなんとか映画化したいけれども資金がない、ということでネットを使ったクラウドファンディングで3000万円以上の資金を集めて映画化にこぎ着けた、という背景も持っています。
そして、有名劇場作品のような上映館数でもなく、どちらかというとひっそりと上映が始まった、「小さな作品」だったのですよね。
それがネットを通じてその評判がどんどんと大きくなり、それにつれて上映館数も増えていった、という経緯があります。もちろん徳島では当初は上映されてませんでしたが、あまりに評判が良いので去年の12月に入ってからufotableCINEMAで上映が始まった、という作品です。
今日は平日で、しかも朝9時半からの上映ってことで、前にシネコンに観に行った「聲の形」みたいにほとんど観客はいないっていうのを想像してたのですが・・なんと午前9時前に劇場に着いたらなにやら人生の先輩世代の方々がいっぱいいらっしゃる!? 老人会のイベントの待ち合わせにこの場所を指定してるのか? って思ったら9時に劇場が開くとみんな入っていくんですよ(汗)
え? え? まさか!? って思ったら・・そのまさかでした(爆)
シニアな皆さんのほとんどが「この世界の片隅に」を観に来てるんです(^^;) そして水曜日はレディースデーってこともあってか、シニアでない若い世代の女性(といっても学生ではないけどね)もけっこう多くて・・105名収容のシアター1が1/3ぐらいは埋まってたのではないかと。
こりゃ休日には立ち見になることがある、っていうのも分かるほどの人気でした(^^;)
ちょっとビックリですねぇ。シニアな皆さんはこの映画、どんな気持ちで観たのか?? ちょっと興味がありますね。
そういえばこの週末からufotableCINEMAでは「映画 聲の形」が上映開始になります。この劇場では未だに「君の名は。」も上映しているので、これで2016年を代表する劇場アニメ3作品が全て同じ時期に同じ劇場で上映されている、っていうなんとも贅沢な状態になります(*^_^*)
・・どの作品ももう1回ずつは観たいって思える、素晴らしい作品です。こんな素晴らしい作品が3つも連発した2016年ってホントに劇場アニメとしては異様なほどに充実してた年だったなぁ と。
とりあえずこの3作品は全部BDを予約して買いますっ!(爆)
あ〜早く出ないかなぁ〜(*^_^*)