もっと早いうちにテストしておきたかったクルマであるが、CR-Zにようやく乗ることが出来た。ずっとテストするなら6MTモデルに乗りたいと思っていたが、運良く(?)6MTのテスト車が用意されていてラッキーだった。さすがホンダのお膝元。私が以前S2000を購入した時、全国的にS2000のテスト車を用意していた販売会社はほんの僅かだった。しかし、スポーティーなクルマはカタログスペックよりも実際に乗ってみた時のフィーリングが大切。販売会社任せにせず、メーカーが主導してテスト車を配置していく施策も大切なのではないかと思う。「好きな奴は放って置いても買う」と言う考えはそろそろ棄てるべきだ。
まずはスペックのおさらいから。全長4080mm・全幅1740mm・全高1395mm・ホイルベース2435mmで車重は1130kg。エンジンは1.5Lのi-VTECエンジンで114ps/6000rpm 14.8kg-m/4800rpmを発揮。組み合わされるモーターは14ps/1500rpm 8.0kg-m/1000rpm。テストした "α"の 6MTは249.8万円となっている。
今回は20分間程度のショートテストであるため、テストコースに高速道路や山道は含まれておらず、流れの比較的良い幹線道路を中心とした市街地コースとなる。乗り込んでパッと目に入ってくるインテリアについては、インサイトほどチープではないものの、スバ抜けて品質感が高いともいえない。特に、このクルマは販売会社OPのカーナビが装着されていたが、これがチグハグ感を助長していた。スポーツモデルにはこういう雰囲気作りについてもう少し気配りが欲しいところ。
運転席に座り、ハイトアジャスター(ラチェット式)やテレスコピック&チルトステアリングが装備されるお陰で好みのポジションが確保出来た。本革巻ステアリングホイールもやや太めで悪くない。シフトレバーの位置も自然でスポーツ走行をスポイルするような要因は無い。しかし、外観から想像していた通り、前後左右の視界が悪いのがどうにも気になる。ある程度は慣れとバックカメラ等のデバイスで解決できる事だが、やはり根本的な設計思想に疑問ナシとはいえない。特に、大きく倒れこんだAピラーが斜め前方の視界を遮る事と、エクストラウインドウと呼ぶリヤガラスに太い横方向の分割線(柱?)が通る事で、後方視界はかなり悪い。斜め後ろについてはもう絶望的だ。私はオープンカーを乗り継いできた経験から、ソフトトップを閉じた状態で後方視界の悪いクルマには比較的慣れているつもりだが、やはり視界の悪いクルマは運転していてスッキリしない。
クラッチは比較的軽い部類だが、シフトフィールはFF車にありがちなフニャフニャで頼りないものではなく、ゴクッゴクッと決まるタイプ。モーターのアシストを受けるお陰で極低速時のトルクには不足を感じる事が無かったから、あまりMT車に乗った事がない方でも容易に楽しめるクルマに仕上がっている。エンジンは予想以上に存在感を発揮する。苦も無くレッドゾーンまで吹け上がって行く様は「ホンダらしい」エンジンと言える。特に、3モードドライブシステムを「SPORT」モードにした時の加速感はスポーツモデルの期待に応えるもので、グッと手ごたえを増すステアリングフィールも悪くない。おそらく、私がCR-Zを購入したとすれば、大半の時間は燃費を諦めて「SPORT」モードにしているだろう。
アイドリングストップについてはエアコン使用時でも積極的にエンジン停止していた。6MT車のエンジン再始動にはシフトレバーをニュートラル位置から他のポジションに入れるだけ。正直、マツダの「i-Stop」よりも動作が自然だし、振動も少ない。
CR-Zをスポーツモデルとして見た時に一番の不満点は足回りだった。サスはフロント:ストラット式/リヤ:車軸式(トーションビーム式)と言う簡素な形式である事と、ダンパーなどにコストをかれられなかったのか、終始ブルブルとした安っぽい微振動が気になった。どっしりとしたフラットライドという言葉にはかなり程遠い出来栄えだった。高速道路などでもう少し車速が上がって来ると印象が変わる可能性もあるから、あくまで市街地走行時の感想としたい。また、テスト車は今年の3月に登録された車両だっだか、室内からカタカタ・ギシギシと言った低級音が認められた。初期生産モデル特有の現象で、今後熟成が進むにつれて解消していく部分もあろうかと思うが、興醒めであった。個人的にはもう少しエンジンサウンドにスポーツマインドをくすぐる演出があっても良かった。残念ながら無用に回したくなるようなサウンドではない。
私がCR-Zをテストした結果、一番フィーリングが似ているクルマとして
「スズキ・スイフトスポーツ(現行)」を思い出した。軽く吹け上がるエンジンとミッションのフィーリングなどライトウエイトスポーツとしては案外ライバル関係になるかもしれない。体感的なパワー感もCR-Zの「SPORT」モード時で同等レベルじゃないだろうか。ただ、ハイブリッドシステムに一切の加点をせず、スポーツモデルとしての全体的な魅力だけを言えば「スイフト・スポーツ」の方が濃厚で面白い。あとはCR-Zのクーペ的なスタイリングとハイブリッドシステムにどこまで魅力を感じるかだろう。ただ間もなく新型へスイッチする「スイフト」だが、現行モデルの場合はセットOP装着車(レカロシート・キセノン・SRSサイド+カーテン)でも178.5万円(5MT)だから、価格的にはCR-Zと70万円以上の差がある。
そろそろ結論になるが、CR-Zはインサイトの試乗経験から想定していたよりも遥かにスポーツモデルとして面白いクルマに仕上がっている。パワーは有れば有るだけ良いと言う「肉食系」の方には物足りないかもしれないが、私も含め「使い切れるパワー」を駆使して走りたいタイプには充分満足出来る。しかし、ハイブリッド車だからとズバ抜けた低燃費を期待するとガッカリしてしまうかも。このクルマの場合はターボの代わりにモーターアシストが付くと理解した方が健全だろう。(e-燃費.comによるCR-Zユーザーの実効平均燃費は6MTで17.1km/L)
私としては、ゴテゴテとした快適装備は不要だから、ベースモデルの"β"6MTにSRSサイド+カーテンエアバッグだけをメーカーOP装着した素のモデルを希望したいところだが、何故か"β"の6MTにはSRSサイド+カーテンエアバッグの選択肢が無い。たとえ、上級グレードの"α"であってもレザーシートやHDDナビとの抱き合わせでしか装備出来ない。これが解消されない限りはCR-Zを買う事は無いだろう。ホンダの安全装備に対する意識改革を強く希望したい。
Posted at 2010/08/19 17:14:45 | |
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