仮定:20XX年、日本で「人間が車を運転すること」を禁止する法律が衆参両院の賛成多数で可決・施行された。これ以降「人間が運転する機構を持つ車を運転した場合、罰則が適用(逮捕→起訴→有罪)」されることになった。
今日は、日本における
・「多数決による決定と決定出来ない領域(立憲民主主義)」
について確認したいと思います。
<多数決による決定と決定出来ない領域=人権>
1 ものごとを「決定する方法」=間接民主制
何かを「決定」するときに、「どうやって決めるか」についてはいろいろなやり方があります。
日本では「間接民主制」を採っています。多数決によって代表者を選び、その代表者が多数決によって「ものごとを決め」るのです。一人一人が多数決に「関わっている」からこそ、最終的に決定された「決定事項」に正当性があるということになります。そして、代表者によって決定された事項が「法律(条例)」という形で私たち国民に適用され、私たち国民はそれを遵守する義務を負うことになります。
2 「多数決」は万能か?
では「多数決」で決まった「決定事項=法律(条例)」は、どんなものでも従わねばならないのでしょうか。以下の例を見てみましょう。
〔血液型国のお話〕
・血液型国という国があります。この国の人口割合は以下のとおり。
A型:52%
O型:25%
B型:10%
AB型:5%
その他:8%
血液型国では多数決で物事が決定されますが、議会で「O型がお金を儲けすぎている」という批 判がよくされるようになりました。そして以下のような法案がA型党から提出されました。
議決を採った結果A型党議員がすべて賛成し、いずれも賛成多数で可決、施行されることになりました。
法案1:O型は1年以内に血液型国から出て行かねばならない
法案2:O型は国会に参加することが出来ず、選挙に投票することはできない
法案3:O型はA型党党首を崇めなければならない
法案4:O型は、A型党の政策を批判してはならない。A型党議員の情報を秘密指定し、漏らしたら刑罰を課す。
法案5:O型は100万円以上財産を有することができず、それ以上の財産は国庫に没収する
これらの法案、「多数決で決まったものだから従わねばならない」のでしょうか。
答えは、日本においては、少なくとも「ノー」です。
その理由はなんでしょうか。それは、日本が「立憲民主主義」を採っているからです。
3 「多数決で決まったもの」でも侵害できない領域=人権
「立憲民主主義」とは
①物事の決定は原則として多数決により行う
②多数決により決めることができない最低ラインを定めて、それを『人権』として保障する(多数決で決められたことが『人権』を侵害している場合、無効とされる)
という2つの側面を車の両輪として備える制度のことです。
これを定めているのが最高法規である「憲法」です。「憲法」は、これら「侵害できない最低ライン=人権」を定めるだけで、いつもは眠っています。物事を決めるのは、選挙によって選ばれた「多数派の代表者」であり、「多数派の代表者が決めるルール」が法律になって、国民皆が守らねばならないことになります。しかし、できあがった法律が「人権」に対して許されない侵害している場合、「憲法」によって無効とされる、ということになっているのです。
では先の血液型国の法案1~5はどのような点で人権侵害=無効とされるのでしょうか。
法案1:O型は1年以内に血液型国から出て行かねばならない
→「人格的生存権」
法案2:O型は国会に参加することが出来ず、選挙に投票することはできない
→選挙権、被選挙権
法案3:O型はA型党党首を崇めなければならない
→内心の自由
法案4:O型は、A型党の政策を批判してはならない。A型党議員の情報を秘密指定し、漏らしたら刑罰を課す。
→思想・良心の自由、表現の自由
法案5:O型は100万円以上財産を有することができず、それ以上の財産は国庫に没収する
→財産権、経済的自由
法案1~5に共通 →平等権
これら法案は、いずれも、現在の日本で法案提出すれば、憲法で保障されたこれら「人権」を侵害している「違憲無効」なものとされるでしょう。
<まとめ>
1 日本では「多数決」によってルール(法律)を作っていますが、「多数決によって侵害できない部分」が憲法によって定められ、それに反するようなルール(法律)ができた場合には、違憲無効とされる可能性がある、ということになっています。
2 できあがったルールは
○人権侵害でないもの →合憲
?どっちかわからない曖昧なもの ??
×人権侵害が明らかなもの →違憲
の3種に分類できます。×人権侵害・違憲無効が明らかなものの例は、血液型国の例であげたようなものです。
では、?人権侵害かどうか曖昧なルールについてはどうでしょうか?一見すると人権侵害ではないが、中身をよく考えると「人権侵害→違憲無効」とされるかもしれないルールです。
3 できあがったルール(法律)が人権侵害をしているか、していないかを計るための「ものさし」があります。「違憲審査基準」と呼ばれるものです。「違憲の疑いのあるルール」に対して、裁判所は、この「違憲審査基準」という「ものさし」を使って、法律を審査します。
次回は、この「違憲審査基準」について考えてみます。
※「人間が運転する自由」を制約・禁止する法律が定められた際、それに対抗することができるかどうかを、法的観点から考察するシリーズの2回目です。
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Posted at
2015/03/29 20:24:52