ベレットがなかなか戻ってこないので、車とは関係のない「怪談・奇談」ネタを書いていきます。このネタは人気がないし、およそ霊感というもののない私には、
恐怖体験も少なく、怪異が顕現するという百話を語るには、遠く及びそうにないのですが……。
幸運という才能
私は
従兄弟の中では一番年齢が下の方だったのですが、母の妹(以前書いた猫の話の叔母)の次男は、二歳上で年齢が近く、家も近かったので、小さい頃はよく一緒に遊んでいました。
その頃は、そうそう不思議には思わなかったのですが、町内のくじ引きに一緒に行くと、私は当たらないのに、その従兄弟の方は必ずといっていいほど何か引き当てていたので、たいへん羨ましく思っていました。他にも私の知らないところで、色々な懸賞の応募にも当たっていたようです。今想うと完全に神懸かっていました。
その能力は大人になってからも健在だったようで、競馬の予想がよく当たるので、よく近所の人が相談に来ている、という話も聞きました。
私はくじは確率で、「宝くじなんかは買うだけ無駄」と考える方なのですが、最近は会うこともない彼のことを想い出すと、この世には確率を超えた、もっと得体の知れない何かがあるようです。
ただし、彼が宝くじで大当たりをとった、というような話は、聞きません。
猫おばさん
私が以前一人で住んでいた家は、中日新聞で「栄えもせず衰退もせず
日四者町」と揶揄されたような、名古屋市内のずっと変わらない古い商店街の中にありました。
当時西側の隣接地は露天の駐車場になっており、その更に隣は
撞球屋だったのですが、そちらの方とは、顔をみれば挨拶を交わす程度の間柄です。
ある静かな宵の口、家に帰り部屋でくつろいでいると、インターフォンが鳴り何者かの来訪を告げました。、私はほとんどインターフォンで対応することはしないので、そのまま
三和土に降りて扉を開けると、四十代くらいの険悪な表情を浮かべた見知らぬおばさんと、その背中から半歩下がってやはり見知らぬ男性の二人組が立っており、いきなり扉の敷居を越えて足を踏み込んできました。用件を訊いてみると、撞球屋の若夫婦だったらしく「うちの猫がいなくなったので、家の中を探させて欲しい」とのことです。あまりに斜め上の物言いに「猫? この時間に何のことだろう」と唖然としつつも、特に断る理由もないので「まぁいいですよ」と言い終える間もなく、おばさんの方が、玄関からずかずかと私の横を通って家の中に上がり込み、勝手に部屋から部屋に家捜し仕始めました。普通なら奥さんの非常識な行動を諫めなければならないはずのご主人ですが、強烈な性格の奥さんに
無理矢理引っ張ってこられたのか、玄関にひとり取り残されると先ほどまでの虚勢を張っていたような話し方は影を潜め、おどおどと縮こまった態度に変わったものの、尚も低い声でぶつぶつと呟くように勝手な言い訳の言葉を並べたてておりました。ご主人が情けない姿を晒しているうちに早くも、おばさんの猫捜しは終わったようなのですが、猫が見つからなかったことに余程不本意だったのか、礼や詫びを述べるわけでもなく、やや甲高い耳障りな声で、「猫は放し飼いにするものだ」という独り言のような捨て台詞を残すと、来た時と同じように勢いよく扉の外へと踏み出し、その背中を旦那さんが慌てて追いかけて行きました。次に訪ねる家に既に意識が跳んでいるのかもしれませんが、とても正気の沙汰とは思えません。
この訪問から三四日して、中日新聞の三面に「日四者町商店街で猫が十匹以上次々と姿を消している」という読者からの投稿記事が、結構大きく載っていました。「あのおばさんの投稿だろうな」と思いつつ、町内の出来事に詳しい人にも訊いてみたのですが、「そんな話は聞いたことがない」とのことです。
結局猫は帰ってきたらしいのですが、私の所も含めて、迷惑をかけたご近所の人たちには、何の挨拶もありませんでした。きちがいじゃが仕方がない。猫に取り憑かれた女性が、面識のないままほとんど隣といっていい場所に棲みついていたようですが、それまでと同様、それっきりあの夫婦の姿は見ておりません。
足音の怪
大学の時、高校時代の部活の友人と二人で、揖斐川の支流のひとつで東の貝月山付近に水源を発する、粕川方面に出かけたことがありました。その日は粕川の、丸い石の積み重なった川原にテントを張ったのですが、宵闇が迫る頃には大雨になってしまいました。
洋燈の明かりを灯すと、谷間を蓋う暗闇の中でもテント全体が明るい光を放ち、それ程広くない川原を隅々まで照らし出しました。川の増水が心配だったので、時々外の様子も見ていたのですが、特に水が増えてくるような気配はありませんでした。
テント布を激しく敲く雨の音を伴奏に、中で歌を唄ったりしてそれとなく時間を潰していたのですが、友人も時折テントの入口を開けて、川の方ばかりではなく、辺りを気にしています。そこで「やっぱりお前にも聞こえるか?」と声をかけてみました。川原の石を踏むような「ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ」という音が、ひどく規則正しい間隔で、四つか五つ続いて消える。そこで外を見渡しても、テントの周りを徘徊するモノの姿を捉えることはできません。そんな不思議な音が、一晩中続いていました。
先日、部活仲間の45年ぶりの同窓会を開いた時にその話もでたのですが、友人も、その夜のことははっきりと覚えておりました。
5年でやっと6話、
リクエストがなくても、また気が向けば書きます。百話は無理でも、夏目漱石みたいに十話くらいなら、なんとかいけるかもしれない。
Posted at 2018/08/30 13:25:16 | |
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