昔ネットで見つけて、感動した小説を思い出して
書いています。いくら検索しても出てこないので・・・。
うろ覚えなので内容はぜんぜん違うかもしれませんが。
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「私、免許取ったらどうしてもロードスターに乗りたいの。
色は白がいいなあ。ロードスター、大好きなんだ。」
ユミが言った。
ユミと俺は付き合ってはいたが、なんだか自然に一緒に
いるという感じだった。激しく燃えるような恋愛ではなく
お互い穏やかな空気のような存在だった。
ユミには身寄りがなく、俺の存在は彼氏というよりは
兄弟や家族のようなものだったのかもしれない。
俺はロードスターにあまり興味は無かったが、
ユミが乗りたいと言うので調べてみた。
2シーターのスポーツカーで、オープンにできる。
ちょっと気恥ずかしくて嫌だなと思った。
それなのにとても人気があって、街でよく見かける。
不思議なクルマだ。
1992年3月18日。
ユミが入院した。
俺はすぐに病院へお見舞いに行った。
「めまいがして倒れたのよ。貧血じゃないのかな?
前にもあったけど、今は元気だから心配しないで。」
ユミの言葉に俺はホッとした。
入院というと、どうしても悪い方に考えてしまう。
最近ロードスターを街で見かけると、ついじっくり
眺めてしまう。それでもなぜユミがこのクルマに
乗りたいと言うのか、よく分からなかった。
顔立ちは両生類のようにヌメッとしていて、
間抜けな感じに口が開いていて
お世辞にもカッコいいとは言えない。
2シーターで荷物も積めないし、実用的ではない。
ユミがまた入院した。
電話の声が暗い。
「もう私、長く生きられないかもしれない。
残念だけど、最後まで一緒にいてね。」
ユミの言葉に、鈍感な俺もただ事じゃないと分かった。
「そんなこと言うなよ。大丈夫だ。
ゆっくり休んで、また元気になってくれよ。」
俺は励ますしかできなかった。
ユミの体調は、お見舞いに行くたびに
悪くなっているのがはっきり分かった。
どんどん小さくなっていくユミを見るのが悲しかった。
身寄りの無いユミに言われて、一緒に病状の
説明を受けたりした。深刻な病状だった。
俺は少しでもユミを元気付けようと、
どうしても乗りたいと言っていたロードスターを
買うことにした。
ユーノスに行って、白いロードスターを注文した。
幸い少しだけ貯金があったので、それを頭金にした。
発売された頃はあまりの人気に、注文してからかなり
待たされたようだが今は2週間ほどで納車になった。
すぐにユミにロードスターを見せに病院に行った。
俺は病室の窓際でユミに言った。
「見てご覧、あの白いロードスター。俺のクルマだよ。」
「ええっ!ロードスター買ったの?いいなあ!
乗りたいなあ!」
ユミはとっても嬉しそうだった。
「ちょっと乗ってみるかい?」
「うん、乗ってみたい!!」
病院の許可を取って、ユミとロードスターで
ドライブに行った。
白いロードスターの助手席に乗ったユミは、とても
元気に見えた。病気のことは忘れているようだった。
「ねえ、せっかくだからオープンにしてよ。」
「そうだな。」
俺にとってもユミにとっても初めてのオープンドライブ
だった。心地よい風がたまらなく気持ち良かった。
俺はロードスターのハンドルを握りながら、ずっと
不思議だったことをユミに聞いてみた。
「どうして白いロードスターに乗りたいと思ったんだい?」
「顔も小さいところも可愛いからだよ。
白は一番キレイに見えたからなの。」
そんな女の子らしい理由だったんだな。
ユミは白いロードスターに乗ってとても幸せそうだった。
「ありがとう、本当に楽しかったよ。」
とユミが言うので
「またドライブに行こうよ。俺のクルマだから、
いつでも行けるからさ。」
ユミは小さくゆっくり、とても嬉しそうにうなずいた。
それが最初で最後のユミとの白いロードスターでの
ドライブになった。
ユミは死んだ。まだ19歳だっていうのに・・・。
あれから30年。俺は50歳になった。
今でも白いロードスターは俺と共にある。
いつロードスターに乗っても、ユミの笑顔に会える。
ユミを白いロードスターに乗せてあげられて本当に良かった。
終わり
Posted at 2016/03/19 01:48:25 | |
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ロードスター | 日記