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2015年08月08日

2015年の「HP600」ノート 《5》

2015年の「HP600」ノート 《5》 * ただし「ヒップポイント」(HP)にこだわったのは私であり、00年代にトヨタが行なった「新しいクルマ開発」はもう少し広範で、単に「乗降性」だけを問題にしたものではなかった。

* 2003年、トヨタの第2開発センターが制作した「ユニバーサル・デザイン ガイドブック」には、既に紹介した「基礎編」とともに「実践編」があった。その巻頭で、ラウム開発のチーフエンジニアは、「新しい時代に適合する新しい道具を生み出す、さまざまなアプローチを進めてきました」と、まず宣言する。

* そして「とくに拘ったのは《ユーザー対話型開発》と称した活動を、クルマ作り全体に採り入れ」て開発した。そのクルマがラウムなのだという。この「対話型」とは「ユーザーが参加して商品開発をする手法」であり、「開発者が自らユーザーの声を収集する」にとどまらず、「開発途中でのユーザーのチェックを受ける」ことが行なわれた。

* 開発陣が企画して設計した“モノ”は、本当にユーザーにとっても「いいもの」なのか? それを知るには「検証が必要」ということ。そして、その検証にはアンケートやインタビューもいいが、それはしばしば「抽象的な評価」になる場合がある。そのため、それを使用(試用)しているユーザーの「動画での記録や観察の繰り返し」が、さらに有効であるとしている。

* この小冊子では「設計の仮説」という用語が用いられるが、こういうモノがいいのではないかというのはあくまでも「仮説」であり、それを実際のプロダクトにまで進めるにはユーザーやカスタマーによる「実証」が要る。実際にも、洩れ聞くところによればだが、トヨタはしばしば開発中(発表前!)の新型車のデザインや、そのクルマそのもの、またその一部を、一般のカスタマーに見せている。

* この「実践編」には、「乗降動作の解析」というページがある。そこには、「介護施設での検証」「大開口による乗降検証」「妊婦の方の乗降検証」「お年寄りの方の乗降検証」「赤ん坊の乗せ降ろしの検証」「運転席から助手席への乗降」……といったタイトルが付けられたフォトが並ぶ。左側のスライドドアを開けるとセンターピラー・レスになるラウム二代目のドア・システムは、ここから生まれたという。

* 同じようにして、メーターのデザイン、オーディオの操作系、その音響、エアコンの操作系などでも、ユーザーによる「検証」が行なわれた。オーディオでは、簡単でわかりやすい表示と操作系にするだけでなく、「音」を“ユニバーサル・デザインにする”にはどうすべきかという探索もあった。

* そのコンセプトは「聞き取りやすい音」「耳に優しい音」だが、そこから出発して、音量を一定の範囲に抑える「クリア・モード」を設け、高音域を聴きやすい音に保つようコントロールするのが効果的だということがわかったという。

* さらには、シートの表皮自体についても、もっと「肌にやさしい」材料や加工はないのかと探っていき、シルクから抽出した天然タンパク質を繊維に配合したものが、既にインナー・ウェアや寝具として用いられていることに着目。そうした“異業種の最先端”を積極的にクルマに導入することも、ラウムでは行なわれた。

* こうしたユーザーによる「検証」でひとつ思い出すのは、ヒップポイントにまつわるこんな話だ。そもそも「人」と「椅子」の関係というのは、どうなっているのか。これを知りたいと考えたトヨタの開発陣は、以下のような仕掛けを行なった。

* まず、体育館のような広い空間に人が集められる。しかし、何でここに来てもらったのかというのは、とりあえず明らかにしない。そして、その大きな部屋の中には、なぜか「椅子」がいっぱい置いてある。そこで開発陣は、さり気なく人々に依頼するのだ。「どうぞご自由に、どの椅子にもお座りになってください」……

* こうして人々はある一定の時間、そこに置かれたいろいろな椅子に座ることになる。その部屋に置かれた椅子は、実は「座面の高さ」がさまざまに違えてあった。そんな体験をしてもらった後で、帰り際にアンケートを採る。「どの椅子が一番よかったですか? ご記入お願いします」

* 「こういうサーベイをしますとね、見事に、こういう格好になるんですよ」と、エンジニアは両手を使って、極端に尖った頂点を持つグラフのカタチを作って見せた。その尖った頂点の下にある数値は「60センチ」。つまり、地上から600ミリのところに座面がある椅子が最も“好感度”が高かったという。

* 「そこまでデータとして明らかになったら、それは、そういう『椅子』を基本に『クルマ』を作ってみることになりますよね?」……と試乗会で言ったのは私だった。それに微笑んで頷いたのは、マークXジオの開発陣。ちなみに、このクロスオーバー車「ジオ」のHPは605ミリである。

* もちろん、人間工学という概念とその実践は、わが国のクルマ業界では1960年代に始まっていて、メーカー各社で、そこからのクルマ開発がずっと行なわれてきた。人にやさしい、また、より使いやすいものを求めての開発。こうしたことを行なっていたのは、ひとりトヨタだけではないはずだ。

* ただ、その人間工学に、90年代に出現した「ユニバーサル・デザイン」を噛み合わせ、その具体化として、00年代に多くの市販車も世に送り出した。さらに、その開発手法までも公開した。ここまでやったカー・メーカーは、トヨタ以外にないのではないか。

* そして、この00年代のトヨタがグレート(!)だったのは、乗用車というかセダンというか、つまり普通の人々が日常的に使うクルマを「変えよう」としたことだ。ミニバンとかクロカンとか、そしてSUVやそのクロスオーバーとか、そうしたジャンルのクルマでも、いまは「乗用」に使えるクルマがありますよ! たとえばプレマシーやフォレスターはそういう提案だったかもしれない。しかし、ラウムはそうではなかった。

* 「ユニバーサル・デザイン・ガイドブック 実践編」の巻末に、トヨタ・デザイン部からのメッセージがある。この小冊子では、「ユニバーサル・デザイン」のことを「UD」と略称しているので、それはそのまま採用し、ここに引用する。

* 「UDは、(完全という意味での)完成はないと考えるが、今後さらなる開発が進めば、UDという言葉すらなくなって、当たり前のことになった時がUDの完成に一歩近づく時であると考える。今後、その方向に進むように、このクルマの開発をアピールしていきたい」

(つづく)
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Posted at 2015/08/08 00:21:44

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