スポーツカーと分類されるであろうロードスターのようなクルマに、これは「戦闘ギア」ではなかったなどと書くと、クルマの本質は競走であり“闘うクルマ”だけが美しいのだという反論が返ってくるだろうか。この話を始めると長くなってしまいそうだが、ここでは、ヨーロッパで生まれて、その地を走って、そしてそこで生涯を閉じるクルマならば、それでもいいけどね……と短く言うにとどめたい。
たとえばヨーロッパでは、クルマとその運転者は、そのクルマにとって、また運転者のその時の都合や気分によって、どのくらいの速度で走るかを選べる。「道」という受け皿が、クルマの数に対して余裕があるからだ。ゆえに「スポーツカー」というジャンルも生き残れるし、また速いクルマを選ぶことで「時間」も買える。
でもグローバルに見て、そうしたヨーロッパ的なクルマの使い方ができる場は限られている。……というか、そんなことができるのは西ヨーロッパだけ。この地域以外でのクルマと「道」(社会)との関係はそうではない。目的地までの到達時間を決めるのは、クルマの性能ではなく、しばしば「道」の混雑状況。ゆえに、西欧以外の地域で売られるクルマ、たとえばこのロードスターが「戦闘ギア」以外の要素を持っていることを、私は賞賛したい。それも、「スポーツカー」と呼ばれるであろうジャンルのクルマがそうであることに、さらに拍手もする。
さて、そのロードスターだが、もし、シリーズ中でどのグレードを選ぶかということになると、これはけっこう難儀である。そう、それは「S」という仕様があるから。これ、走らせてみると相当に違うクルマなのだ。
とにかく、ものすごく軽い! データでは車重が990㎏で他の仕様が1010~1020㎏だから、重量的にはほんのわずかの差なのだが、感覚的にはかなり違う。「零戦みたいだ!」なんて、見たことも触ったこともないアイテムを例に出すのは不謹慎ではあるが、でも、思わず、そんなことも言ってみたくなる。足のセッティングとしては、スタビライザーが付いてないというのが他仕様との差異だというが、ともかく挙動が異なるのだ。
「零戦」というのは、もちろん洩れ聞くところによれば……だが、こと「運動性」においては他の追随を許さない戦闘機であったという。一対一の「格闘戦」になったら、どんな高性能機であっても「ゼロ」には勝てない。そのため当時の米軍は、ゼロ・ファイターとの格闘は絶対にするなとお触れを出したほど。
ロードスターの「S」仕様は、そんな歴史の挿話を思い出すほどに、ステアリング・ワークに対応して、クイクイとノーズが動く。そのフロント部の動き具合が新鮮だ。スタビが欠けている分、ロールしやすいセッティングになっているのだろうが、その一種の“過敏さ”が逆に気持ちいい。
これについても、もし、より速くコーナリングするというテーマであれば、そのコーナリング・フォースをがっしり受け止めるための足は必須であろう。サーキットなどでタイムを取ったら、そういう足の方が有利。しかし、もし「競走原理」以外のコンセプトを持つクルマなら、そうした性能(タイム)にはこだわらなくていい。
こうした割り切りがあるのが、おそらく「S」であり、そんな提案にも新ロードスターの「新しさ」があると私は思う。まあ作り手の側にとっては、ちょっと初代を作った時のココロを思い出してみました……というだけのことだったかもしれないが。
ただし、この「S」仕様、ベーシックにして軽量かつ安価なバージョンであるため、
たとえば、エアコンはオートではなくマニュアル式。シートヒーターは付かず、オートライトやレインセンサー(雨滴感知)ワイパーもナシ。近頃流行りの車線逸脱警告もなく、オーディオ方面ではTVや8スピーカーは不可で、スピーカーにしても4つだけ。
でも、ロードスターのような「意のまま」感を大切にしたクルマに注目した時点で、その「感」をさらに突っ込んでみた仕様があることを喜ぶべき。そして、メーカーはどうも「人馬一体」という言葉が好きなようだが、「馬」というのは勝手に暴走することもあるはずなので、コピーとしても「人車一体」の方がいいのではないか。それはともかく、そのような「一体感」をさらに追求したと思えるこの「S」仕様、選択に際して思い悩む価値は十分にある。
(了)
Posted at 2015/09/23 22:35:35 | |
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