【さったとうげ カルテット】
「薩た峠」の存在を知ったのは、ちょうど一年前。
静岡・大井川鉄道でSLを撮っていたとき、隣にいた地元の人からすすめられた。
あとになって、そこが写真撮影の名所だとしる。
みんカラでも訪れる人は多い。私の知るなかでは「お酒の名前のひと」の写真がグッときた。
自分もこんな写真が撮れるだろうか。
よし、行ってみようじゃないか。
* * * * *
せまい道だ。
写真をはじめると最近どうも、せまい道を愛車アルファロメオでいくことが多くてマジ困る。
おどろくべきことに、「薩た峠」は人も車もあふれかえっていた。
すまん、正直誰もいないと思っていた。
それどころか、大人気観光地である。
駐車場は果然、満杯だったが、死角となる場所に一台分スペースが空いている。
私は本当にツイている。
いそいそと駐車し、カメラを用意する。
ところが、案に相違して駐車場から撮るのではないらしい。
みな富士山の方向とは逆に山の中へはいっていく。
(いったい、どこへ)
不審に思いながら人の流れに尾(つ)いていくと、遊歩道のさきに木造の展望台が設置されていた。
(みなここで撮ってたのか)
三脚をおろしてしばし呆然とする。どうもピンとこないのだ。
すると、遊歩道の下の崖っぷちにわずかながら空き地があり、今しもだれかが三脚を広げていた。
(なるほど、あそこか)
このとき午後2時30分。このあと3時間も滞在するこの場所で、私はまず目の前で鮮烈な印象をあたえつづける水仙を写真におさめることにした。
駐車場にもどると、男性から声をかけられる。
ナンバーをみて、
「和歌山からどれくらいかかりました?」
と、いきなりしつもんされる。
時間ではなくお金のことらしい。
みると、そのひとの車は青いフィットで富士山ナンバー。
なんだ、地元の人か。
すると、
「いや、大阪からきました」
というので、私は首をかしげた。
「新幹線できて、これはレンタカー」
そういうのはアリなのか!?
でもそれだと荷物が大変では。
「いや、トランクひとつだから」
チラリみえた高価な機材から、かなりの手練れであると容易に推測できる。
「どこで撮るんですかね?」
私もつい撮影ポイントに先着した優越感からか、
「こっちです。案内しましょう」
と如才なくこたえ、歩き出した。
それがこの人である。
仮の名を「Aのオイサン」としよう。
老けて見えるが、わたしの実父基準で若いから65~70歳かと思われる。
カメラは、Nikon D810。
三脚はマンフロ。
そしてレンズは、24-70mmのf2.8通し。
このレンズ、はじめてみたけどこんなに大きいとは。望遠かと思った。
オイサンの特徴は老眼であること。
本人がそう連呼するんだからしょうがない。
「ちょっと、見てほしい」
というので、私のような初心者がでしゃばるのはなんだがD810のファインダーをのぞくと、構図うんぬんより画面が傾いている。
「・・・傾いてますけど」
「ええっ?」
垂直がでてないのだ。カメラ自体もあきらかにかたむいている。どうも本人はそれがわからないらしい。
ファインダー越しがぼやけてるのは、視度調整のためか、あるいはフォーカス未調整なのか。
「オイサン、ピン合わせてあります?」
「ええと、どっちだっけな」
しばらくゴチョゴチョやってシャッターを切ったら、ちゃんとした写真がモニターにあらわれた。
意外と手のかかる御仁である。
* * * * *
せまい場所に人があつまったから、隣のひとともすぐしゃべるようになる。
右隣は、「Bのダンナ」。
年齢は私よりちょっと上かな。
機材は、ニコンの「Df」。
おしゃれである。
レンズは50mmf1.8Gの単焦点。
三脚はスリックAMT。
ダンナはこのほかに、ニコンのD750も持っているが、それは後述する。
ダンナはデジタル使いである。この日は月の極大日「スーパームーン」だったので、富士山ごしに撮るにはどこが適地かみなで検討していたら、スマホでデザリングしたタブレットでチャッチャと位置を割り出した。「本栖湖の××」。まさかみなこの後行くんじゃないだろうな。
その右、いちばん崖っぷちに立つは、
「Cのおやっさん」
若く見えるが、たぶん父より上。75~80くらい。
機材は、Canon EOS 5D MarkⅢ。
そしてMarkⅡ。
レンズはそれぞれ、16-35の広角と24-70の標準ズーム。
おやっさんの特徴は、東北出身であるらしいこと。
きちんとたずねたわけじゃないが、
「トウホグ」みたいな、「フクスマ」みたいなしゃべりをするのでそう思った。
このおやっさん、たいへん律儀なひとで、先着してたからという理由で私のような若輩者にわざわざあいさつしにきた。そしてAのオイサンに向かって、
「山中湖でお会いしましたね。2、3年まえに」
といったからびっくりした。
ふたりは旧知の仲だったのか。
それにしてもすごい奇縁である。
ところが、かんじんのAのオイサンのリアクションがうすい。感動がないのだ。
たまりかねて、
「感激がうすいようですが」
ときくと、オイサン、
「写真をやってると、こんなことはザラ」
ザラなんだ!
毎年山中湖に通ってると、あの人知ってるこの人見たことある状態なのだという。
そこでCのおやっさんがダイヤモンド富士の見える場所を相談したらしい。
「それで本栖湖に行った」
とおやっさんは述懐する。Aのオイサンはというと、
「スタッドレスじゃないから行かなかった。レンタカーだから」
昔からAのオイサンはレンタカー愛用者だということがわかった。
私をふくめ、こんな4人がめざす写真がコチラ。
午後4時57分。
まだですよー。ここからですよー。
ここで私が悩んだのが、縦構図にすべきか横にすべきかである。
ちなみにAのオイサンは、縦構図で完全勝利をめざす。
残りのお二人は、上の写真を見てもわかるとおり、横である。
その根拠を問うてみる。私は初心者なので知りたがりなのである。
「縦構図はキラいだから」
二人とも口をそろえて同じこたえ。
いやいや!好きとかキラいとかそういう問題じゃなくて、被写体に応じて決めるのでないのですかい!
「それでも縦構図は、ちょっと・・・」
写真をやってると、そういうふうになるのだろうか。
ところが、しばらくしてBのダンナがガサゴソし始める。見ると、D750と24-70f4通しレンズと新たなベルボンの三脚。
「どうしたんです?」
「いや、ちょっと・・・やっぱ縦構図もいいかなって」
「増設しますか」
「増設です」
写真なんて、答えのでないパズルを解いてるようなものかもしれない。
午後5時7分。
「うすいな」
Aのオイサンがつぶやく。
モニターに上がった画像を拡大鏡でのぞきこみながら、口元をゆがめる。
「うすい!うすい!」
それに応じて、Cのおやっさんも叫ぶように言う。
どうやら、走ってる車がすくないという意味らしい。
「帰省ラッシュならいい」
という。
「でもちょっと待ってください」
私も初心者なりに考えた。
渋滞で車が多いとたしかにヘッドライト・テールランプは増えるが、低速になるので光跡がすっと短くなる。
車がすくないとしぜん高速で走行するので、おなじ露光時間でも光跡がすーっとながくなるのでは?
「どちらがいいんでしょう?」
「うーん・・・」
みなおし黙ってしまった。どうやらまた答えのでない命題に触れてしまったらしい。
午後5時9分。
私はというと、モニターで写真を確認するたび、「ウヒョヒョ」というわけのわからぬ奇声を発していた。
いや、夜景や夕景をロクに撮ったことないくせに、ぶっつけ本番で「わりと」撮れてることが、面白くてうれしくてしょうがないのだ。
同14分。
おっしゃ!こんな感じかあ!
本日ミッションコンプリート!
上がります!礼をのべて帰ろうとすると、ここの人たちムチャクチャで、
「えっ、帰るの?」
「スーパームーンは?」
「本栖湖」
「ここで帰るのモッタイナイヨ」
いやいや!かんべんしてよ!朝3時起きで和歌山からきてんのよ!
薩た峠の四人衆、かく語りき。
* * * * *
その足で、「ホテル ルートイン 清水インター」に投宿。
すごく近い。
ところが!
外に出たら寒いから、大浴場であったまってホテル内のレストランでチョイと一杯、とたくらんでたら、なんと元旦だから閉まってる!これはピンチ!
フロントで、「年末年始に開いているお店・一覧表」を渡される。
屈辱的なファストフード店の名前がならぶなか、「サイゼリヤ」の店名が目にとまる。
ふだんなら見過ごしていたが、最近ネットで評判なので気になっていた。
で、行ってみる。
パッとサイゼリヤに。
とりあえずビール。
なんで元旦の晩メシが・・・。
お昼は豪勢にうなぎだったのに。
情けない。
情けなくて、ピンの当て方もデタラメになる。
プロシュート。サッカーの話ではない。生ハムのこと。
となりのイモみたいにみえるのはイモじゃなくて、フカフカしたあったかいパンみたいなヤツ。
ムール貝を頼む。焼いたニンニクとなにかわからないソースで食べる。これはちょっとうまい。ビールとワインがススム君。
ワインはデカンタ(500ml)で。
おどろくべきことに、上の品もこれもみな399円。ほおー。
安物ワインかもしれないが、これを店に出そうという企業努力と理念は高く評価したい。
「名前はきいたことあるが食べたことない品」をえらぶ。アラビアータ。
なんか、「オリーブ油でニンニク炒めた」香りがするとか知ったかぶっておきましょうかね。なんかエンジンかかってきたな。
アルファ乗りとして、MiTo乗りとして、
伊・ミラノに敬意を表して。(そういうもんか?)
ミラノ風ドリア。
ドリアってずるい。
ご飯の上にチーズかけて、ドミグラスソースかけて焼くんですよ。うまくないハズないじゃないですか。
やっぱずるい。
ああ、帰ったら、シチューつくってご飯にかけて食おう。
ふと店内を見渡すと、ビックリ!ほぼ満席!
どうしちゃったの、ニッポン。
家族連れはおうちでおせち食べてなさいよ。
俺はいいんだよ。元旦ごはん難民だから。
緊急避難だから。
体が冷えないうちにホテルに帰って寝ました。
さあ、明日は富士山だ。
次回、「精進湖の夕べ」。
お楽しみに。