NEXCO中日本(中日本高速道路株式会社)はこの日、新東名高速道路の開通に関して次のような発表を行いました。
●4月14日に「新東名高速道路」御殿場JCTから三ヶ日JCTが開通します
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NEXCO中日本・プレスリリース 2012年1月27日
発表によると、かねてから建設が進められていた新東名高速道路のうち、御殿場JCTから三ヶ日JCTまでの162kmについては、来る4月14日の15時に開通することが決定。開通区間は上下線ともに各2車線で、この間には10のインターチェンジと3つのサービスエリア、そして4つのパーキングエリアが同時に供用を開始されることになっています。東名高速道路とは御殿場、三ヶ日に加えて新清水JCTからも行き来が可能となり、東名高速の渋滞緩和や通行止めの際の迂回ルートとして大いに活用が期待されています。
歴史をひもとくと、従来の東名高速道路に並ぶ新しい大動脈として「第二東名高速道路」の構想が公になったのは1987(昭和62)年のこと。1989(平成元)年には基本計画が公示されましたが、この年に当時の運輸省が発行した運輸白書には「交通混雑が著しい東名・名神高速道路の混雑緩和を図るため重点的な整備が必要な第2東名・第2名神高速道路の予定路線のうち (中略) この両路線は、設計速度140km/hをめざした全線6車線の高レベルの高速道路である。」という記述がなされました。
ご承知の通り、日本において高速道路等における普通および軽自動車、大型乗用自動車(バス)、中型自動車などの最高速度は法定速度である100km/h。また、大型貨物などは80km/hと定められており、この数字を基準として地形や道路線型、気象状況、工事の実施などに応じて規制速度が定められています。
この点について、設計段階から100km/hを超える速度での走行を勘案して作られた新東名高速道路については、最高速度の引き上げを求める声が上がっています。
●最高速度どこまで…新東名、有効利用か安全か
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YOMIURI ONLINE (読売新聞) 2012年1月20日 11時43分
トラック業界や一般ユーザーのみならず、
静岡県も記事のように高速化を要望していくということです。
しかし、制度的には最高速度の引き上げは可能ですが、
警察庁は難色を示しているとのこと。その理由としては記事を引用すると、次の2点が挙げられています。
(1) 最高速度が100km/hを超えると、事故発生率が上昇し、重大性が増す
(2) 車両間の速度差が40km/hを超えた場合、事故発生率が上がる
これらに加えてもうひとつ、県が最高速度引き上げの前提とする6車線(片側3車線)は実現性の目処が立っておらず、開通は4車線(片側2車線)であることも安全性を担保するには不安要素のひとつと数えられます。
ここで道路の設計速度と最高速度規制の関係を見てみましょう。
設計速度は道路構造令の第2条第22号で、「道路の設計の基礎とする自動車の速度をいう」と定められています。さらに具体的には、「天候が良好でかつ交通密度が低く、車両の走行条件が道路の構造的な条件のみに支配されている場合に、平均的な運転者が安全にしかも快適性を失わずに走行できる速度である」と定義されています。
日本の道路は第1種から第4種に大きく分類されており、さらにそれぞれの中で第5級までに分けられ、それぞれに設計速度が割り振られています。もっとも低いもので20km/h、高い方では第1種第1級道路の120km/hとされており、新東名高速道路もこれに該当しています。
内閣府の資料によると、2002(平成14)年4月の時点で開通している高速道路の総延長6,959kmのうち、最高速度が100km/hとされているものは全体の37.8%にあたる2,628km。このうち設計速度が100km/hの部分は1,955km、120km/hとなる部分が673km/hとなっています。ちなみに100km/h制限の道は全て4車線(片側2車線)以上であり、暫定2車線の区間では最高速度は80km/hに抑えられています。
ここまでで考えられるのは、規制緩和の一環という意味も含めて新東名高速道路構想の原点を考えれば、最高速度は120km/hとすることも良さそうに感じられます。
しかし、ひとつ大きな問題として浮かび上がってくるのが、
警察庁の指摘した2つめの理由である40km/hを超える車両間速度差。現状、大型貨物は最高速度が80km/hと定められており、普通自動車などの最高速度を120km/hとすると、法律的に40km/hの速度差を認めることになるわけです。
法律論を抜きにして実勢速度で考えても、実は
内閣府の資料にも道路会社の集計によって、「実勢速度は、設計速度に関わらずほぼ100km/h~120km/hの範囲で推移していることが確認された。また、80km/h規制区間においては、100km/h規制区間とほぼ同等の速度となっており、規制速度との大きな乖離が認められた」と明記されているのです。
そこで、もし最高速度を120km/hとしたらどうなるか。当然、実勢速度も概ね20km/hアップすると考えられ、130km/h~140km/hで走行する車が増えることになるでしょう。一方で大型貨物については速度リミッターが義務づけられていますので、物理的に平坦路では最高95km/h程度しかスピードを出せません。結果的には40km/hの車両間速度差が生まれることになるのは間違いないところだと思われます。さらには、速度リミッターの無い中型自動車や、軽自動車の扱いについて、現状は普通自動車と一緒になっていますが、別途検討を要することになろうかと思われます。
一部の無責任なメディアやジャーナリストの中には、最高速度140km/h化を推進する声もあるようですが、そもそも140km/hは6車線(片側3車線)が前提であり、かつ結果的に新東名は120km/hの設計速度で施工されましたので、この声は全くの勉強不足であるとしか言えないでしょう。
では、新東名は100km/h制限のままが良いのか、それとも最高速度を引き上げるべきなのか。
簡単に答えを出せる問題ではありませんが、私の個人的な意見としては現状の4車線である以上は100km/h制限が妥当なところではないかと思います。その上で、これは現実的には非常に難しいでしょうが、大型車の流入を規制できるのであれば、最高速度を120km/h制限にしても良いような気がします。ただしその代わり、自動速度取締機を大量に設置し、かつ徹底した速度取締りを実施することが条件になるでしょう。
交通社会は混合交通。高速道路は自動車専用ということで、車からすれば対歩行者や自転車という面での安全性は格段に向上していますが、そもそも自動車の運転は事実上誰にでも許されるレベルの運転免許制度であるのが現実。自動車や運転、物理的な事項について深い知識や経験も特に求められず、危険な凶器になるということを深刻に受け止めることなくハンドルを握っている人が現実の社会には五万といるわけです。
さらに運動神経や判断力などは人それぞれ、超高齢者社会の到来によって高齢ドライバーも増えてきますし、もちろん一方では運転免許を取得したばかりという初心者でも高速道路の走行は許されますし、もちろん権利でもあるわけです。
こうした混合交通下では、どこに基準を置くのかが非常に難しいところ。
あまり気にされたことは無いかもしれませんが、高速道路においては最高速度と同時に最低速度も定められており、その数値は50km/hとなっています。つまり、本線の走行車線上を50km/hで走る初心者や高齢者が仮にいたとしても、それは法律違反ではありませんし、周囲の車はその車を保護しながら走ることが求められるのです。
日本の高速道路は不当に最高速度が低いとか、欧米と同じ程度にするべきとか、自動車の性能は高まっているのだから制限速度を引き上げるべきだ、というような声は以前から聞かれるものであり、それは一般のドライバーのみならず自動車ジャーナリストを称する人々からも挙がっている声です。
しかし、日本の交通社会について考えたとき、そう簡単に結論を出せる問題ではないことは明らか。社会情勢や経済活動との兼ね合い、法律論などについて、様々な角度から検証する必要があり、あまり一方的なドライバーの目線からのみ語るべき問題ではないと思っています。