ホンダの初代フィットは、当時における「ダウンサイジング需要」の担い手として、一躍大ヒット車になりました。当初は1300ccエンジンのみで登場し、スポーティーグレードとして1500ccSOHC4バルブVTECエンジンを搭載した、「1.5T」が追加されました。これにはMTも用意され、「ほどほどスポーティー」な、面白いグレードとして存在しました。
二代目は、1300ccを基本とするものの1500ccにも標準グレードを用意し、1.5Tは「RS」として、GTカートしての性格を持たされました。後期モデルではハイブリッドが登場、シリーズの主役がハイブリッドになっていく一方、RSはさらにスポーティーな雰囲気をまといました。グレード展開が進むと、当初の1300ccは廉価グレードのような雰囲気になりました。この頃になると、コンパクトカーを求めていた層は軽自動車へと移行し、市場が大幅に縮小、ホンダ自身もNシリーズへと力を入れるなど、フィットの1300ccグレードは難しくなっていきました。
そしてフルモデルチェンジを受けると。シリーズの主力はハイブリッドへと移行し、RSも影が薄くなりました。ましてや1300ccは、どうしても軽自動車は嫌な層やフリートユーザー(社用車)などの需要を受けるだけとなり、初代が持っていた崇高な精神は、かなり薄くなってしまいました。
エンジン
エンジン型式こそ「L」ですが、初代からモデルチェンジの度に変更を受けています。初代がエンジンの低回転化の傾向を受けて「SOHC2バルブ2点点火」、二代目が「SOHC4バルブ」、そして今モデルでは、「DOHC4バルブ連続可変バルブタイミング」となりました。初代の「低速トルク重視」の思想は一体どこに行った?というところですが、ここは可変バルブタイミングの方が有効であった、ということでしょう。当時も可変バルブタイミング機構はありましたので、ホンダの説明というのは実に「その時だけ」のものです。
エンジンは、公式には発表されていなかったように思いますが、どうやら「アトキンソンサイクル」になっているように感じられます。おかげで、低回転時のパワー感はさっぱりありません。アクセルペダルを踏んでパワー不足を補おうとするのですが、これが「常時エコモード」のようで、アクセルペダルを踏んでもさっぱりパワーが出てきません。アクセルペダルを踏み込んで待っていると、パワーが出てくるかのような印象です。エンジンノイズも大きい方で、タペットノイズのような音がかなり車内に入ってきます。
パワーが不足していてしかもうるさく、今風なのはアイドルストップがついているだけ、という、全く良いところが見られないエンジンです。
トランスミッション
現代の車ゆえ、CVTを採用しています。旧型で登場した、トルクコンバーターを用いる方式です。CVTは、エンジンの出力を効率よく取り出すことに優れるトランスミッションですが、この車について言えば、エンジンの出力不足を補わない変速制御のCVTです。エンジンの出力不足とは無関係に、すぐに高い変速比へと移行させようとします。そして定速走行に移行するとその変速比を落とそうとしません。
ステアリング
電動パワーステアリングです。これはホンダの美点の一つで、アシストや中立付近のしっかり感について、概ね違和感がないステアリングです。
ブレーキ
こちらもステアリング同様、踏み応えがしっかりした、信頼に足りる操作感のブレーキとなっております。ハイブリッドとは方式が異なるブレーキなのですが、面白いことに操作感が似ています。
サスペンション
初代フィットの初期モデルも「ただ硬いだけ。褒めるのはレーサー系評論家のみ」のサスペンションでした。このモデルも初代を思わせる乗り心地で、芯がある硬さを感じます。なるべくストロークをさせないようにしているようで、スプリングが硬いのではないか、と思われます。
他社には、「動き出しが硬く、動き出すと柔らかすぎる」サスペンションや、「街中では柔らかいが、山道では柔らかすぎてロール角が大きく、車酔いを引き起こす」サスペンションの車があります。どちらも困ったものですが、この車は「硬くてお尻や腰が痛くなることはあっても、車酔いはしないサスペンション」ではないか、と思われます。また、スポーティーな走行にもある程度耐えることでしょう。ホンダらしい考え方のサスペンションです。
家族に乗り物酔いをしがちな人がいたり、少しはスポーティーな感覚を求めたい人には、注目に値します。
ボデー
旧型の後期型の頃には、他車と比較して見劣るボデー剛性でしたが、やや追いついてきた印象があります。タイヤが突起を乗り越える際の、「ミシリ」と車体が音を立てたり、空間の変動を感じるようなことはなくなっています。
内装は、グレードの都合なのか、面白みも何もない内装です。コンパクトカークラスが登場してしばらくの間は「若々しい内装」や「しっかりした内装」を用意するものですが、モデルを重ねて「フリートユーザー」が現れてくるとだんだんつまらない内装になってくるものです。販売台数の上で見過ごせないフリートユーザーとはいえ、こういうことが起こってくるのは困るものです。
まとめ
「フィットよお前もか」という印象しかありません。初代のキビキビとした走りもなければ、若々しさも薄まった、そんな印象です。コンパクトカーならではのキビキビとした感じは、ハンドリングにしか残っていません。「そういうご希望の方は、RSをどうぞ!」というところでしょうが、以前は標準グレードでも味わえたものです。ラインナップの充実といえば聞こえは良いのですが、どうも全体的に薄味になってしまっているような気がします。余談ですが、旧型のハイブリッドRSなどは「オンリーワン」な性格を持っていましたが、それも今やありません。
先のハイブリッドのリコール多発問題で、ホンダでは「人手不足」を原因に挙げていましたが、商品の魅力のなさは1300ccグレードにも現れています。このグレードは「特に考えず、車を足として選ぶ」人に買われるのでしょうが、それにしても寂しい車です。パワーもさっぱりですし、一般ユーザーであれば、この車は全くお勧めできません。
参照して欲しい記事
トヨタ
ラクティス(前期型)
ヴィッツ(前期型)
日産
ノート(前期型)
マーチ(初期型)
ホンダ
フィットハイブリッド
スズキ
スイフト(前期型)
スイフト(後期型)
VW
UP!
ブログ一覧 |
試乗 | クルマ
Posted at
2014/12/20 18:22:28