アフターファイブ。私はお気に入りの五階ナースステーションのカウンターに設置してあるパソコンでカルテを書いていた。ステーション内は申し送りのナースが発する声でかまびすしい。
巨根カプセル
隣のパソコンでは後輩の井上真由美が同様に作業をしていた。
「どうもお久しぶりです」
突然の声に私と真由美は顔をあげた。カウンターの向こうには数か月前にリハビリテーション病院に転院していった患者の姿があった。偶然にも私と真由美が共同で担当した患者だ。
「ああ! これはどうも、お久しぶりですねぇ」
「わぁ! 元気でしたか?」
私と真由美は口々に歓待の言葉を発した。
退院した患者が挨拶に来る――決して珍しいことではない。これもすべて私の人徳の致すところであろう――と言いたいところだが、この患者に関していえば私というよりも真由美に会いに来たのだろう。真由美は素晴らしい女性だ。私が患者でも、やはり退院後に会いに来ると思う。
「お仕事の方は順調ですか? どんどん新製品を開発してくださいよ」
私は言った。
「私もね、最近テレビを買い替えたんですけど、やっぱりピャナショニック製のを買いましたよ」
威哥王
真由美も後に続く。
繰り返すが、退院後に顔を見せてくれる患者は決して珍しくはない。だが、私たちもすべての患者を記憶しているわけではない。印象に強く残る患者もいれば、まったく印象に残らない患者もいるのだ。だが、このおじさんは前者だ。私も真由美もよーく覚えている。このおじさんは世界に冠たる家電メーカー・ピャナショニックの開発エンジニア。確か右側頭葉に生じたラクナ梗塞で入院してきた。そう、ちゃんと覚えている。
基本的に印象に残る患者というのは病態が重い患者だ。軽症の患者は印象に残らない。だが、このおじさんは軽症にも関わらず私たちの印象に強く残っていた。それというのも、このおじさんは私の人生でナンバーワンと言っていいほど話が面白い人だったのだ。どんな話題をふっても打てば響くというように話が返ってくる。知識も豊富で、洒脱に富み、それでいて上品なおじさんだ。
このおじさんが入院している時に真由美と話したことがある。
巨人倍増
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2016/10/01 16:21:47