私をスキーに連れてって ＃１０

　
「ＦＯＢなんかで計算してどうするんだ。何の意味があるんだ。
　　　　　　ん～、保険料はどうしたんだ、運搬費はどうなってんだ？」


　常務に呼び出された矢野は課長と並んで、常務の怒った声を聞いていた。常務が向かいのソファーに腰掛けた時、部屋をノックする音が聞こえた。


「はい」


　秘書がお茶を持って入って来たようだ。矢野はさっきからずっとうつむいたままだ。


「ＣＩＦで計算しなきゃ意味が無いだろうが、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　もぅこれ、基本の基本だろうが」

「どうも、申し訳ございません」


　目の前に置かれたお茶の礼に頭を下げ、それを運んでくれた秘書の顔を見て驚いた。


「儂が直接お得意に持ってく見積もりを、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　なんだと思ってるんだ。あぁ？」


　もう、常務の声は耳には入らない。矢野は自分の目を疑った。


　　　そこには優がいた。



「あっ、もうできたのぉ」


　　ゼファー・インにいつもの仲間が集まっている。矢野もそろそろ来る頃だ。


「いいかぁ」


　小杉が出来上がって来た写真を、丁寧にそろえて手に持った。


「あたし、ブタじゃん…」

「最高だよ」

「これ良いね、これ」

「こいつ…」

「あっ、真理子もブタ！」


　次の写真は矢野と優のツーショットの写真だ。二人とも笑顔で写っている。


「　ちょっとマズイんじゃない。
　　これ以上傷つけたら、ヤツ、出家しちゃうぜ　」


　小杉の後ろから手が伸びて、その写真を抜いていった。


「　この娘だ…。間違いない　」

「おい、お前いつ来たんだよ、お前。来たなら来たって言ってよ、ホントにもう…」


　他の四人が顔を見合わせる。厭な空気を断ち切るように、泉が大きな声で言った。


「おい！過去は忘れろ、過去は！今夜は聖心だぞ！聖心女子大」

「　過去じゃないんだ。会っちゃった　」

「えっ？」


　今度はみんなが矢野の顔を見た。矢野の言った言葉の意味が、まだ良く理解できない。


「　ウチの…、ウチの秘書課の娘だったんだ　」


　みんなが矢野の言葉を理解しようとした時、声が聞こえた。


「ごめんなさい、遅れて…」

「あぁ、こっちこっちこっち。早く早く、ほら」


　一人の女の子が心細そうに佇んでいたが、泉の顔を見つけると笑顔になった。


「皆さん、聖心のゆみちゃん」

「よろしくおねがいします」

「ちょっと待っててね」


　思い詰めたように写真を見ている矢野以外の四人が顔を寄せた。


「　どっちにする？　」

「　聞くまでもないでしょ！　」

「　盛り上がる方、優先だ！　」

「　オーケー　」


　ヒロコと泉があたりを見渡し、矢野の代わりを見つけ出した。


「ハ～イ」

「ヨロレイホ～」

「聖心のゆみちゃん、ちょっと行こう」

「行こう」


　二人はゆみちゃんを連れて店の奥に向かった。