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奈良の旅で遣り残したことは、奈良絵で有名な赤膚焼を観ることでした。奈良絵は、出張で宿泊した奈良ホテルのロビーで初めて見て、可愛いなと気になっていたのですが、高価なので買うことは考えていませんでした。

カミさんが、同じ赤膚焼で燈火器も作っている寧屋工房（ねいやこうぼう）というところがあるのを見つけたので、行って来ました。

赤膚焼の歴史は奈良時代の瓦、祭器から始まるようですが、秀吉が茶器の製作に力を入れた頃から大きくなったようです。そして奈良絵は、東大寺の絵因果経という絵巻物に端を発し、それを茶器に写したもので、今は可愛いマークとして雑貨にプリントされることもありますが、本来は仏教説話なのでした。

現在8窯あるという赤膚焼の一つ、寧屋工房が始めたのが燈火器。製作した器に小刀で模様をくり抜くわけですが、最終作品は壁に映る光と影なので、小刀の切り口は光源に向うようにして、その陰影の美しさが計算されています。

ご主人は、この燈火器を作るようになってから、様々なイベントにも協力することで、空間演出を学んだと言います。店の奥の暗くした部屋には大小さまざまな燈火器が置かれ、桜、菊、竹などの柔らかい光が微風と共に壁で揺れているのを観ました。

器が大きく、くり抜かれた模様が大きいほど美しさが増しますが、価格も高くなるので、下から三番目くらいの、それでいて部屋に置いた時に違和感がない大きさのものを頂いて来ました。

もちろんご主人が描く奈良絵も素晴らしかったのですが、燈火器の美しさに心打たれ、燈火器こそがご主人オリジナルの作品であることに敬意を表して。

飛鳥時代の仏像や奈良時代からの赤膚焼、そして現代の珈琲やパン。いずれも、製作者の生活哲学や姿勢に触れることが出来た、充実の旅となりました。カミさん、ありがとね。

奈良最終日の今日は、パン好きのカミさんが行きたいと言っていた「ノモケマナ」で朝食を取ろうと、東大寺二月堂裏参道を自転車で巡ることからスタート。この裏参道はひっそりしていて好きな場所ですが、大仏殿の周りには朝から小学生の修学旅行の大群がいるのには驚きました。

目当てのノモケマナは、おそらくナマケモノの逆の意と思われますが、店のつくりも珈琲の淹れ方も、小さなところがキッチリしていて気持ちが好い。そんなご夫婦の店です。

もちろん、それはパンに一番表れていて、チャバタ、メロンパンの表情の美しさ！そしてバターを少なめにしているクロワッサンは、小麦粉の味も楽しめるものでちょっと感動もの。一番日持ちしそうなカンパーニュを自宅用に買いました。

店の奥にある石臼で挽き立ての全粒粉と天然酵母を使って焼き上げているようですが、こういう基本をキッチリ出来ることこそが一番大事という気がしますね。

東京にもこういう店はきっとあるでしょうが、あまりにたくさん店や情報がありすぎて疲れてしまうのに対して、相対的に奈良は人間サイズのものしかなく、無理をしない姿勢がいま目に新しいのかもしれません。