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Ernie_Legのブログ一覧

2008年06月15日 イイね!

スライド・ドアの功罪

今度発売になるエクシーガは、スライド・ドアが採用されていない。このことは、先月発売のMag.Xの記事写真からも明らかであるから周知の事実として、今回は“スライド・ドア”の是非について少し考えを述べたい。

率直に言って、スライドドアは便利である。昔のクルマのスライドドアは、もともとが営業バンなどのメカと共用であったこともあり、かなり勢いをつけないと閉じないとか、ドアが重たいとか、手などを挟みやすいとか、ちょっと考えるだけでもいくつもの問題点があった。しかし、現代のスライドドアの多くは電動式になり、安全装置がいくつも装備されて、「便利」な道具となった。特に、身体的弱者(小さな子供や身体の不自由な方、お年寄りなど)にとっては、開口部が十分大きく開くことでスムーズな乗り降りができるし、荷物の積み下ろしもしやすい。狭い駐車場でも、隣のクルマやコンクリート柱にうっかりぶつけてしまうミスもおきにくい。

1BOXスタイルの場合、ヒンジ式にしてしまうと開けるドアが大きすぎて邪魔になってしまう、という物理的な問題もあるだろう。バン発祥の地米国でも、フルサイズ・バンはほとんどがスライド式である。ただしこの場合は“よっこらしょ”と足で乗り込むスタイルになるため、乗用車のような腰を下ろして乗り込むサイズのクルマとは区別して考えねばならないだろう。その点、ミニバン、特に乗用車スタイルのミニバンやそれよりさらに小さい(日本的な発想の)ミニミニバンの場合、“便利”という理由でのスライドドアという選択は、本当に正しいのかどうか?

私は、このようなドアのセッティングはクルマの作り手とそれを買う乗り手の“メッセージ”だと思っている。スライドドアは便利だ、という理由でそれを要求するユーザー、それに応える設計者、そしてそれを買うユーザーがいる。それはそれでいいと思う。ただ、そのユーザーは「クルマは道具、便利であればそれでいい」という思想の持ち主であると私は感じる。一方で4ドア・セダン(ピラード・ハードトップなども含む)の世界では、スライドドアの採用例は非常に希である。物理的に設計が難しい(あるいは高コストになる)ということもあるが、世の中に無いわけではないので、ユーザーからの要求が強ければそういうクルマが流行っても決しておかしくはない。現実はそうではない、というところに、4ドア・セダンを選択するユーザーの要求とスライドドア付きミニ(ミニ)バンを選択するユーザーの要求は明らかに違う方向性である、ということが見えてくる。その一つは、後部座席に人(特に小さな子供やお年寄り)を乗せる機会の多少であり、もう一つは、おそらくはデザインやスタイル・イメージなどの感覚的なものであろう。

そういった観点とは別に、スライドドアは便利だがある意味で危険なものである、ということを私は以前から感じている。というのは、ヒンジ式ドアの場合、乗り降りする際は習慣的に“細心の”注意を払って開け閉めを行うが、スライドドアの場合はそういった注意を払う割合が極端に落ちるように思うのだ。ドアがガバッと開くと、子供も大人もうれしくなってしまうのか、ぽーんと飛び降りる(あるいは走って飛び乗る)傾向がある。どんなシーンでも100%安全ということはないから、そこへ急に歩行者や自転車、極端な場合は右側にクルマが・・・ということだってあるのだが、そういうことへの注意喚起・危険予測を極端に損なわせるような構造にあるように思うのだ。そればかりではない。いったん乗り込んでしまうと、ドアをスライドさせるだけという安心感があるのか、周囲を確認せずについ「バタン!」としめてしまったり、電動式ドアでは何の意識もなくリモコンボタンを押すだけ、ということになってしまったりする。私は、そういったスライドドアが閉じられるシーンであやうく自分の車のドアと自分の身体を押しつぶされるところであった。私が駐車場にクルマを入れ、ドアを開けた直後に、隣車スライドドアのリモコンスイッチが遠方から押され、閉じられ始めたのである。いざ接触すれば安全装置で難なく停止はしたかもしれないが、警報音で察知した私が慌ててドアを閉めなければ、少なくとも接触は免れなかったであろう。

私は、スライドドアに単に慣れていないだけかもしれない。しかし、“スライドドアは便利だ”というメッセージを設計者と共有するユーザーが、単なる“便利”から“ルーズ”な感覚へと感性をいつのまにかシフトさせ、その挙げ句が、後席に乗せた小さな子供を立ち回らせたり、チャイルドシートの装備すらしていない常態を晒すことに繋がっているのでは、と危惧する。スライドドアのクルマに乗せられてルーズに育った子供たちが、将来、さらにルーズな感覚でクルマを運転し、悲惨な事故を起こすようなことにならないよう、切に願っている。
Posted at 2008/06/15 02:42:39 | コメント(2) | トラックバック(0) | メカニズム | クルマ
2008年03月05日 イイね!

4WDの解説ムック

4WDの解説ムック本屋で見つけてしまった「Motor Fan illustrated VOL.6 4WD最新テクノロジー」(三栄書房)。カラーで各社4WDメカの解説をしてくれているので、つい買ってしまった。ここに書かれた解説によれば、“トルク配分”という概念は、一般によく言われているものは少し間違っている部分があるということらしい。

“トルク配分”があらかじめ決まるのは、いわゆる「センターデフ」方式の機械式トルク分割機構だけで、多板クラッチ機構などを用いたトルクスプリット式の機構では、直結~空転の間で「トルク配分」を決めているのではなく、クラッチの結合度に応じたトルク容量までの「最大の駆動伝達力」を決めていることになるのだそうだ。

スバルACT-4の場合、60:40 というトルク配分が基本だと書かれるが、これは、前後重量配分とほぼ同じであるから、クラッチを完全結合した状態、すなわち「直結4WD状態」にした場合の“駆動力”の配分であることがわかる。この状態で加速をすれば、荷重は当然リアに寄るから、駆動力の配分もそれに応じて変化する(リア側が増える)。いずれにせよ「直結4WD状態」だから、“トルク配分”というものは存在しない。

一方、クラッチが少し緩められ、後輪駆動軸があるレベル以上のトルクで「すべる」状態になれば、前後輪が同一速度で回っている時は事実上「直結4WD状態」となっているが、回転差が発生すると「すべる」ことで駆動力が調整される。すべっている最中は一応“トルク配分”というものを考えることができるが、これは時々刻々のタイヤに掛かる荷重にも依存するため、クラッチの結合状態だけでは決まらない。結合状態が決めるのは、あくまでも「最大の伝達トルク」だということである。

イメージがしにくければ、最初から「すべっている」状態で考えてみるといいかもしれない。前輪の方が後輪よりわずかに速く(あるいは遅く)回っている場合(直進走行時は概ねそんな状態であろう)は、クラッチの結合状態に応じたほぼ最大の伝達トルクが伝わるであろう。通常“トルク配分”と言っているものは、おそらくこの状態の前後トルク比と考えられる。

以前に測定したACT-4制御ソレノイドの電圧は、定常走行時にフルデューティーの半分程度の電圧が掛かっていた。このときの制御油圧はフルの4割程度であるから、クラッチの結合度もそんなものと考えていいだろう。この時の「最大伝達トルク」がどの程度になるのかはわからないものの、ハイギア(3,4速)が紡ぎ出すトルクの1~3割程度に当たるのではないかと推測する。ローギア(1速)での加速時にデューティーがめいっぱいまで上がるのは、出力トルクが増大するために伝達すべき後輪へのトルク容量も増大しなければならないからであって、決して「加速に必要だから」という訳ではないのであろう。むろん、加速時は後輪軸に荷重がかかるので、直結状態にして最大限のトルク伝達を行うことで、力を発揮することができるのには違いないのだが。

4WD(AWD)メカニズムは、思っていた以上に奥が深いようである。

余談だが、同ムックシリーズの「サスペンション」の特集では、レガシィの3・4代目採用のマルチリンクサスペンション(後輪側)はかなり渋い評価(いわく「難しい脚」だそうだ)がなされていた。初代、2代目のマクファーソン・ストラットが良かったのに・・みたいな雰囲気が匂わせてあった。ビル脚のようなガス封入型の単筒ダンパーに対しても、デメリットが強調されていて“どんな状況でもいい訳じゃない”みたいな書かれ方をしていた。

レガシィ脚の世代間の違いを乗り比べてないのでなんとも言えないが、前車は前後ともマクファーソンだった経験から言うと、荷室の広さからいえばマルチリンクに軍配が上がるし、応答の良し悪しで言えば、やっぱりセッティングに強く依存するんじゃないかなぁと思う。私としては、前車は少し荒れたオンロードの中速セクションにベストマッチで、現車は純オンロード高速セクションにベストマッチな感じはした。ダンパーの善し悪しを評価できるほど感性も腕もないけれど、前車のフニャ脚よりは現車のよりツッパり気味な脚の方が好みではある。荒れた路面では、路面からの入力がちょっとキツいかもしれないけれど。(笑)
Posted at 2008/03/05 01:35:29 | コメント(2) | トラックバック(0) | メカニズム | クルマ
2008年02月23日 イイね!

各社アクティブ制御式4WDの仕組み比較

スバルのアクティブトルクスプリットAWDと似たような仕組みをもつAWDないし4WD機構は、車両メーカー各社から出ている。勉強のため、HPの情報などから少し整理してみた。

その前に、4WDのメカニズムを簡単に整理しておく。4WDのメカニズムには、現在よく用いられている方式として主に以下の3つに分類することができる。

1)ビスカスカップリングないし油圧を利用したパッシブ型4WD
2)電子制御クラッチ機構を利用したアクティブトルク制御型4WD
3)センターデフ機構を利用したトルク固定型4WD

それぞれに一長一短はあって、メーカー各社においてもそのクルマの持つ性格や持ち味に応じてどれを用いるかを選択しているようであるが、この3種類の中では、クラッチの制御の仕方によってもっとも性格が変わるのが2の機構ということになる。

2の機構を採用したメカニズムとしては、各社にこんなものがある。

トヨタ:アクティブトルクコントロール4WD
日産:アテーサE-TS、ALL MODE 4x4
ホンダ:SH-AWD
三菱:電子制御4WD
マツダ:電子制御アクティブトルクコントロールカップリング4WD

これらのうち、アテーサE-TSとSH-AWD以外はいずれも後輪トランスファーの後ろに電磁式電子制御多板クラッチ機構を設けている。アテーサE-TSは前輪のデフ部分に電磁式電子制御多板クラッチ機構を、SH-AWDは後輪のデフ部分に電磁式電子制御多板クラッチ機構を設け、それぞれFR/FFを基本とするパワートレーンに4輪駆動のメカニズムを付加したような形になっている。

こうしてみると、スバルのACT-4は唯一後輪トランスファーの前部にトランスミッションと一体になった油圧制御式多板クラッチ機構を配置する方式であり、大変にユニークな方法であることがわかる。

むろん、ユニークであることがイコールもっとも優れた技術ということにはならない。後発の各社は電磁式制御を用いているが、一般には油圧式より電磁式の方が制御応答性に優れると言われる。また後輪トランスファー前部にクラッチがあることから、後輪側の転がり抵抗は必然的に後輪トランスファーの回転までを含んだものとなり、完全なFF状態にするには若干不利と言われている。しかし、ATと一体化したトランスファークラッチ機構は、油圧を利用することで余計な電力を食うこともなくメカもコンパクトにできるため、パワートレーンの軽量化と理想的な前後軸重量配分に貢献する。先発メーカーであるにもかかわらず、非常によく考えられた、優れたメカニズムであると思う。

ところで、前後輪トルク配分をアクティブ制御できるということは、ドライバーが要求する「理想的なライントレース」を実現するためには他の方式より有利である。こういった制御はあらかじめ想定された状況に応じてコンピュータにプログラムされ、センサーで検出された車速や加速、舵角などに応じてフィードバック制御される。たまたま、こういった制御システムを設計するソフトウエアでのシミュレーション例をみつけた。後輪軸へのトルク配分を制御することで、FF,直結4WDのいずれより旋回制御性が高まる様子が示されている。あくまでもシミュレーション結果だが、こうしたアクティブ制御がドライバビリティーを向上させ、より安定・安全な走行を実現することがわかる。
Posted at 2008/02/23 00:13:08 | コメント(0) | トラックバック(0) | メカニズム | 日記
2008年02月20日 イイね!

AWDの動作チェック

SSMのいじり方をいろいろ検討してみたのだが、結局、ATの動作をモニタするにはAT制御ユニットであるTCMという装置と通信をする必要があるということが分かり、そのためにはどうやってアクセスすればいいのか分からず断念。でも、ECUをモニタするSSMプログラムを自分で書けるくらいには勉強したつもり。こんなの、どうやって解析してプロトコルを見付けるんだろうな・・・・結構凄い。人柱で討ち死に(笑)したチャレンジャーもさぞ沢山いらっしゃることであろう。そういった多くの人の努力の上に、こういったプログラムは成り立っている訳で、ただただ有り難いばかりである。

で、本当は何をやりたかったかというと、アクティブトルクスプリットAWDの走行時の動作を解析したかったのだ。トルクを伝達する多板クラッチを制御するソレノイドのdutyがSSMでもモニタできる筈なのだが、上記のごとくTCMにアクセスしないといけないようなので、いまのところどうにもならない。

ということで、この件は物理的手段(爆)に訴えることにした。といっても大したことではなく、TCMから出力されているMP-T制御ソレノイド行きの制御信号を電圧計でモニタするのである。SSMが無い場合の診断方法として整備マニュアルでも認められている方法らしいので、それを拠り所にチャレンジである。

調べ方をここに書くと長くなるのでそれはいずれ整備手帳の方に書くことにして、とりあえず結果の解釈だけ報告しておく。私の結果の解釈が正しければ、通常時の公称トルク配分F:R=60:40 というのは概ね正しいようである。なぜ「概ね」かというと、モニタしているものはトルクそのものではなく、多板クラッチをドライブしているソレノイドの負荷量(電圧)だからである。巡航時のソレノイド負荷は概ね50%前後で、フルに働いている=完全直結状態からすればかなり“緩い”結合ではあるが、多板クラッチによる結合であることを考えると、まぁこんなものなのかな?というところであった。

加速時にはさらにリア側にトルクが配分されるが、アクセルを結構派手に踏んでも、ソレノイド負荷は60~70%程度までであった(1速での、停止状態からの加速の場合を除く)。マックスと思われる電圧(~4V)に達するのは一瞬だけで、通常の走行時は常にクラッチが半結状態となっているようだ。しかし、逆に街中での低速コーナリングでは負荷が減少することもなく、ほぼ常時50%程度のソレノイド負荷でAWD状態を維持しているようである。ということで、以前の記事に「(曲がるときは)FF車のような挙動と思えばいい」と書いたのは言い過ぎで、曲がっている間もやはりAWD車だと思って運転しなければいけないということが解った。

また、もう一つの新たな発見として、強制FF状態ではソレノイドには全く電圧が掛からない、ということが分かった。以前のモデルでは強制FF状態にするとソレノイド負荷が100%になる仕様だった筈で、つまり、ソレノイドの動作方向がいつのまにか逆になっているようだ。

現行モデルの方式はある意味合理的である。例えば、万一ソレノイドが故障(断線など)した場合でも、FF状態にはなるがとりあえずの走行に支障は出ない。ところが以前のモデルの場合では、ソレノイドが故障したら常時“完全直結”状態になってしまい、タイトコーナーブレーキング現象などが発生して走行に支障が出ることになるだろう。

そういえば、(前の記事にも書いたように)以前のモデルではタイヤチェーン装着時には強制FF状態にしなければならなかった、という話を聞いたが、今のモデルでその必要がないのは、この動作モードの違いによるものかもしれない。以前のモデルだと、回転差を吸収するためにはソレノイドが常時フルに近い状態で働き続けるような状態になってしまうが、現行モデルでは逆にソレノイドが働かない方向の動作となるので、問題が出にくいということではないだろうか?もっとも、以前のモデルで強制FF状態にすると、ソレノイドには常時フルの負荷が掛かることになるのだが・・・。今ひとつよくわからないところではある。

ところで、ここまでに書いたことがもし正しければ、これはある種の「設計思想の逆転」を示している気がする。というのも、以前のモデルは“デフォルトがAWD,ソレノイド動作時にFWD”という設計であるのに対して、現行モデルでは“デフォルトがFWD,ソレノイド動作時にAWD”という設計だからだ。中間的な状態ではどちらも大差はないが(そしてこのAWD機構はほとんどその状態で動作しているようだが)、デフォルトの状態が真逆というのは基本的な設計変更である。もちろんおそらくは、様々な問題を検討した結果なのであろう。

もともと初期MP-Tの時代から、多板クラッチはATの油圧で動かしていた(だから、アクセルオフで油圧が下がると自然にクラッチが抜ける→トルクが抜けることでFF状態になるという仕組みだったそうだ)。油圧を使ってクラッチの結合状態を制御しているのは今でも変わっておらず、ソレノイドの動作を電子制御にしたというだけのことなので、この変更はあくまでもソレノイドバルブの動作方向の変更に過ぎないが、細かいところでチョコチョコと仕様変更がなされているのは興味深い。

いずれにせよ、もう少し測定を続けて様子をみてみたい。
Posted at 2008/02/20 01:49:44 | コメント(1) | トラックバック(0) | メカニズム | クルマ
2008年02月11日 イイね!

「スバル・メカニズム」

「スバル・メカニズム」本屋でブラブラしていたら、こんな本をみつけてしまった。「スバル・メカニズム」(三樹書房)である。帯には「この一冊の本は、スバルのクルマが大好きな人たちが、最初の読者である。」というキャッチコピーが書かれている。帯の赤地が少々焼けていたので、かなり長い間書棚に並んでいたものであろう。奥付は「2006年1月30日 第5刷発行」となっている。2年近く放置されていたのかもしれない。

中身は、スバルの独自技術に関する解説と、各章の扉にそのメカの美しいカラー写真が載せられているといった趣向の本。発行年が2004年で、4代目レガシィ発表直後ということもあり、「等長等爆エキゾースト・マニホールド」や「リアゲートのアルミ化」、「軽量5ATの開発」といったスバルの長い技術開発史の中でも最新の技術に関する解説がふんだんに盛り込まれている。いずれも、エンジン効率の向上や走りを犠牲にしない軽量化として省燃費やハイパワー化に貢献する素晴らしい技術である。

しかし私がもっとも興味を引かれたのは、1997年に開発されたという「LFピストン」である。この話は以前にもこのblogで紹介した「スバル水平対向エンジン40年の歴史」(山海堂)にも出てきたが、保守的・経験工学的になりがちな最重要部品であるピストンの変革にチャレンジしたそのスピリットには、何よりも深い感銘を覚える。このピストンにより、走行時で0.5%、アイドリング時で2.3%の燃費向上ができたそうだ。ユーザーが四苦八苦しなくても、技術の力でこれだけの改善が出来るというのは、素晴らしいことである。

それにもう一つ、この本を読んでいて気がついたことがある。低負荷・中回転時(クルージング時)における効率改善のために、最近のエンジンでは排気ガス還元(EGR)という方法を用いるのがごく普通ということだ。アクセル開度が小さく新鮮な空気を吸気する量が少ないときに、ほぼ不活性なガスとして排気側からガスを戻して吸気側へ送り込むことで、吸排気に関わる熱力学的なロスを減らすことができる。

この本の中ではこのことが「帳尻を合わせる」と表現されていたが、これは例の「ポンピングロス」の低減の話であり、要するに、排気側からガスを還元することで「ポンピングロス」を下げる効果が出るわけである。こういうことも、単に「吸気効率」にこだわって理解しようとすると全く不明の話になってしまう。ただしEGRの場合は、新鮮な空気を吸う場合と異なり比較的高い温度のガスを吸うことになるから、吸気ガスの充填効率は新鮮空気ほどは稼げないし、排ガス中に含まれる様々な物質が燃焼にも影響するから、大量のEGRは燃焼制御をより難しくする、という弱点はあるのだが・・・。

いずれにせよ、この本はスバルが現在用いている技術を感動的に識るには、大変良い本である。(残念ながら、Amazonには新品在庫は無いようである。興味のある方は、中古出品を利用する、もしくは版元に在庫を確かめてみてはいかがだろうか。)

余談だが、この本に挟まっていた“書籍案内”に品切れリストがついていて、その中に「栄光への5000キロ」が含まれていた。この本は、私が子供の頃、クルマによるレースというものに興味を持つきっかけとなった、ダットサン・チームによるサファリ・ラリーへのチャレンジのドキュメンタリーであった(当時は別の出版社から出ていた・1969年には石原裕次郎主演で映画化もされたそうだ)。40年以上も前のサクセス・ストーリーだから品切れもやむを得ないと思うが、そんな本でもリストにきちんと載せているあたりが、この出版社のクルマへの思い入れを感じさせた。
Posted at 2008/02/11 20:22:06 | コメント(2) | トラックバック(0) | メカニズム | クルマ

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