一般私人でも、要件を満たせば大半の道路交通法違反の現行犯人を逮捕することが可能です。
以下の文章、メモですので、オチはありません。
あれはもう何年も前のことですが、夜間、住宅街で一時不停止を繰り返す車に出くわしたことがあります。
住宅街の交差点で、その車は直交道路を、私から見て左側から進行して来ていました。進行して来たその車は、そこで一時停止しなければならないのですが、そこを一時停止せずに目の前をそのまま走り抜けたわけです。
こちらはその車が近づいてくるのを認識し、交差点の直前でハイビームにしたのですが、そんなことは気にも留めていない様子。
もともとその近所はやばいと認識していまして、こちらも速度は制限速度の半分くらいしか出していない （だから、よく、おばちゃんの運転する車に煽られます） し、事故にはならずに済んだのですが、ヒヤッとしました。
その当時、そのあたりの住宅街では、一時不停止による事故が多発していて、私も所轄に具体的な危険箇所の指摘、態様を報告しに行った頃でした。
そうしたら目の前に、まさにその典型の様な違反車が現われた訳です。
私は交差点を右折してその車の後ろに付きました。その次の交差点でも一時停止しなければならない訳ですが、先程と同様に再び一時不停止で右折していきます。
その次も交差点、ここも一時停止しなければならないのですが、そこでも一時不停止で左折。
前を走る車が一時不停止を犯す度、こちらはパッシングしますが、そんなことにはお構いなしに、次々と一時不停止をしてゆきます。
どうやら、このまま逃亡を図っているようです。
その日はこちらにも時間的余裕がありましたので、その違反車を追跡してみました。もちろんこちらは道路交通法を順守し、一時停止の箇所ではきちんと停止して、です。
一時不停止を繰り返すその車の有様が余りにも酷く、これは非常に危険な運転手だと思い、ハンズフリーで110番通報しながら車種・塗色・登録ナンバーと共に状況を逐一報告、幹線道路に入った後、途中でいったん見失ったものの、違反者の行動を予測して再度住宅街へ入り、幸い、その違反車を再び捕捉することが出来ました。
違反車が住宅街で停止したので、こちらは回転灯を回してその前へ （その違反車両の動きを封じるため） 斜めに自車を停車させ、車から降りて車内にいる運転手に声掛けをしました。
見ると、運転手は若い女性でした。
「貴女は一時停止箇所でも全く停止せずに通過していましたね。名前と住所を教えてください」
車内の女性は （当然？）ガン無視です。
「継続して一時不停止を繰り返したのを目撃し、ドライブレコーダーにも一部始終が記録されています。貴女を逮捕します。」と女性に告げました。
その女性はひきつったような顔をしていました。
どうやらその違反車が停止した箇所は、その車を運転する女性の家のある （ミニ開発のような？） 一角へ入る道の前だったようで、その娘、または同乗していた別の娘が親に電話したのか、一人の男性が奥の方から出てきました。
その男性が「いったい、なんですか？」というので、その娘さんの運転状況を説明。同様の事例による事故が多発していることと、悪質な運転手ですから貴女を逮捕しますと伝えました、と (男性に) 伝えました。
違反を繰り返した運転手本人には度重なる違反の度にパッシングをしても無視して走行を続け、停止後に名前と住所を確認しようとしても黙秘、こちらは名前も住所もわからず、現行犯人は逃亡の虞あり、という状況ですから。
男性：「貴方に逮捕なんかできませんよ。」
私 ：「現在の状況は、逮捕できる状況です。」
男性：「出来ませんよ。私は法学部出身です。」
私 ：「法学部出身ならなおさら現在の状況が逮捕の要件を満たしていることがわかるのではないですか？」
男性：「警察の方ですか？」
私 ：「違います、一般人です。」
男性：「一般人に逮捕なんか出来ませんよ。」
私 ：（こいつ…、アホだ。）
私 ：「もうナンバーも110番通報してあります。」
男性：「…。」
その後の会話で、この男性が娘の父親であること、その娘と父親の家がこの小道を入ったところであることはわかりましたので、警告による指導をして終わりにすることにしました。
男性：「いい車乗っているのに、こんなことして…。ボランティアですか？」
私 ：（こちらが乗っている車は関係ないでしょう。ほんとにアホだな、こいつ。）
私 ：「ボランティアじゃありません。一般市民です。普通に走行していただけです。」
最後に「今回撮影した違反行為を記録した動画は警察に提出します。」と伝えてその場を後にしました。
あの父娘がその後どうなったかは知りません。
根拠法 （下線は筆者による）
刑事訴訟法 ＞ 第二編 第一審 ＞ 第一章 捜査
（現行犯逮捕）
> 第二百十三条 現行犯人は、
何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
（私人による現行犯逮捕）
> 第二百十四条 検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。
（軽微事件と現行犯逮捕）
> 第二百十七条 三十万円（刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、
二万円）以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する。
道路交通法 ＞ 第八章 罰則
> 第百二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、
二万円以下の罰金又は科料に処する。
刑法 ＞ 第七章 犯罪の不成立及び刑の減免（第三十五条―第四十二条）
> （正当行為）
> 第三十五条
法令又は正当な業務
による行為は、罰しない。
刑法 ＞ 第三十一章 逮捕及び監禁の罪（第二百二十条・第二百二十一条）
> （逮捕及び監禁）
> 第二百二十条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
犯罪捜査規範 ＞ 第一章 総則 ＞ 第一節 捜査の心構え（第一条―第十四条）
> （この規則の目的）
> 第一条 この規則は、警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え、捜査の方法、手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。
犯罪捜査規範 ＞ 第十二章 交通法令違反事件に関する特則（第二百十八条―第二百二十二条）
> （身柄拘束に関する注意）
> 第二百十九条 交通法令違反事件の捜査を行うに当たつては、事案の特性にかんがみ、犯罪事実を現認した場合であつても、逃亡その他の特別の事情がある場合のほか、被疑者の逮捕を行わないようにしなければならない。
道路交通法第12１条で定められている罰則以外 (⇒道路交通法違反の大部分) は、刑事訴訟法第217条での (軽微事件) 適用による 除外はされず、現行犯逮捕の要件を満たせば現行犯逮捕が可能です。 （つまり、大半の道路交通法違反は軽微事件では無いので、
私人による現認の場合、仮に犯行後、犯人が氏名・住所を明かしたとしても現行犯逮捕は可能。）
参考：
本件事案の一時不停止なら、
> 第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
(略)
> 第二項、第三十八条（横断歩道等における歩行者等の優先）、第四十二条（徐行すべき場所）又は第四十三条（指定場所における一時停止）の規定の違反となるような行為をした者
とあるように、罰金なら5万円以下となります。
また、罰金と反則金は異なります。
交通反則通告制度運用の状況
> 交通反則通告制度である。この制度は，道路交通法違反事件の処理手続の特例として，「道路交通法の一部を改正する法律」(昭和四二年八月法律第一二六号)により設けられたもので，昭和四三年七月一日から施行されている。この制度は，自動車等の運転者がした運転に関する違反行為であって，危険性の高い違反行為等を除いたものを反則行為とし，これを犯した者を，特定の場合を除いて反則者とし，そして反則者(少年を除く。)に対して，警視総監または警察本部長が法令に定める定額の反則金の納付を通告し，その通告を受けた者が，一定の期日までにこれを納付したときは，その違反行為の事件について，公訴が提起されなくなり，納付がなかったときは，刑事手続が進行することを骨子とするもの…
※この制度に基づき反則行為の告知を行なうのは警察官または交通巡視員であって、私人は含まれません。
関連リンク：
一般人による逮捕 | 逮捕の弁護士相談
※但し、一部の解釈に誤りが認められるので注意。
道路交通法違反を現認した私人による現行犯逮捕
