• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

英美佳のブログ一覧

2009年02月26日 イイね!

いちばんわるい洋服

校長先生は、トモエの生徒の父兄に、
「いちばんわるい洋服を着せて、学校によこしてください。」
と、いつもいっていた。
というのは、汚したら、お母さんにしかられるとか、
破けるから、みんなと遊ばないということは、子どもにとって、
とてもつまらないことだから、どんなに泥んこになっても、
破けても、かまわない、いちばんわるい洋服を着させてください、というお願いだった。
トモエの近くの小学校には、制服を着てる子もいたし、セーラー服とか、
学生服に半ズボン、という服装もあった。
だけど、トモエの子は、ほんとうに普段着で学校にきた。
そして先生のお許しがあるわけだから、洋服のことを気にしないで、もうできるだけ遊んだ。
でも今のように、ジーンズなど丈夫な布地のない時代だったから、どの子のズボンも、
つぎがあたっていたし、女の子のスカートも、できるだけ、丈夫な布で作ってあった。
トットちゃんの、もっとも大好きな遊びは、よその家の垣根や、
原っぱの垣根の下をくぐることだったから、洋服のことを考えなくていいのは、
都合がよかった。
そのころの垣根は、子どもたちが「テツジョウモウ」と呼んでいる有刺鉄線というか、
バラ線が、柵のまわりに張りめぐらしてあるのが多かった。
なかには、地面につくくらい下のほうまで、しっかり、からんでいるのもよくあった。
これに、どうやってもぐりこむか、といえば、この垣根の下に頭をつっこんで、
テツジョウモウを押しあげ、穴を掘って、もぐる、ちょうど、犬と同じやりかただった。
そしてこのとき、トットちゃんも、気をつけてはいるのだけど、どうしても、
トゲトゲの鉄線に洋服がひっかかって、破けてしまうのだった。
いつかなどは、かなり古くて「しょう」の抜けているメリンスふうの布地の
ワンピースを着てるときだったけど、このときは、スカートが破ける、とか、
ひっかかった、というのじゃなく、背中からお尻にかけて、七か所くらい、
ジャキジャキに破けて、どうみても、背中にハタキを背負っている、
というふうになってしまった。
古いけど、ママが、この洋服を気に入ってる、と知っているトットちゃんは、
一生懸命に考えた。
つまり「テツジョウモウをもぐってて破けた」といっては、ママに気の毒だから、
なんかうそをついてでも、「どうしても破けるのはしかたがなかった。」
というふうに説明したほうがいい、と考えたのだった。
やっと思いついたうそを、家に帰るなり、トットちゃんは、ママにいった。
「さっきさ、道歩いてたら、よその子が、みんなで、わたしの背中にナイフ投げたから、
こんなに破けたの。」
いいながら、ママが、いろいろくわしく聞いたらこまるな。と思っていた。
ところが、うれしいことに、ママは、
「あら、そう、たいへんだったわね。」
といっただけだった。
ああ、よかった。と、トットちゃんは安心して、これなら、
ママの好きな洋服が破れたのもしかたがなかった・・・ってママにもわかってもらえた。
と思った。
もちろん、ママはナイフで破けたなんて話を信じたわけではなかった。
だいたい、うしろからナイフを背中に投げて、体に怪我もしないで、
洋服だけビリビリになるなんてことは、ありえなかったし、だいいち、
トットちゃんが、全然、こわかった、というふうでもないのだから、すぐうそとわかった。
でも、なんとなく、トットちゃんにしては、いいわけをするなんて、いつもとちがうから、
きっと洋服のことを気にしてるにちがいない、と考え、いい子だわ。と思った。
ただ、ママは、前から聞きたい、と思っていたことを、この際、
トットちゃんに聞いてみようと思って、いった。
「洋服が、ナイフとか、いろんなもので破けるのは、わかるけど、
 どうして、パンツまで、毎日、毎日、ジャキジャキになるの?」
木綿のレースなんかがついているゴム入りの白いパンツのお尻のあたりが、
毎日、破けているのが、ママには、ちょっとわからなかった。
パンツが泥んことか、すれてる程度なら、おすべりとか、しりもちとかで、
そうなった、とわかるけど、ビリビリになるのは、どうしてかしら?
トットちゃんは、すこし考えてからいった。
「だってさ、もぐるときは、絶対、はじめはスカートがひっかかっちゃうんだけど、
 出るときはお尻からで、そいで、垣根のはじっこから、ずーっと、
 ごめんくださいませと、ではさようなら、をやるから
 パンツなんか、すぐ破けちゃうんだ!」
なんだかわかんないけど、ママは、おかしくなった。
「それで、それはおもしろいの?」
ママの質問に、トットちゃんは、びっくりしたような顔で、ママを見て、いった。
「ママだって、やってみれば?
 絶対におもしろいから。
 でさ、ママだって、パンツ破けちゃうと思うんだ!?」
トットちゃんが、どんなにスリルがあって楽しいか、という遊びは、こうだった。
つまり、テツジョウモウの張ってある長い空き地の垣根を見つけると、
はじのほうから、トゲトゲを持ちあげ、穴を掘って中にもぐりこむのが、
まず「ごめんくださいませ」
で、つぎに、いま、もぐった、ちょっと隣のトゲトゲを、今度は中から持ちあげ、
また穴を掘って、このときは、「では、さようなら」
といって、お尻から出る。
このとき、つまりお尻から出るときに、スカートがまくれて、
パンツがテツジョウモウにひっかかるのだ、とママにも、やっとわかった。
こんなふうに、つぎつぎと、穴を掘り、スカートやパンツもひっかけながら、
「ごめんくださいませ」そして「では、さようなら」をくり返す。
つまり上から見ていたら、垣根の、はしからはしまで、ジグザグに、
入ったり出たりするのだから、パンツも破けるわけだった。
それにしても、大人なら、疲れるだけで、なにがおもしろいか、
と思えるこういうことが、子どもにとっては、ほんとうに楽しいことなんだから、
なんて、うらやましいこと・・・。
ママは、髪の毛はもちろん、つめや耳の中まで泥だらけのトットちゃんを見ながら思った。
そして、校長先生の「汚してもかまわない洋服」の提案は、
ほんとうに子どものことを、よくわかっている大人の考えだ、
といつものことだけど、ママは感心したのだった。


トットちゃんはいいママに育てられて幸せでしたね^^
退学になった時も責めたり怒ったりせずに、本当のことを告げたのは
トットちゃんが20歳をすぎたころ、なにげなく話してくれたのだそうです。
Posted at 2009/02/27 01:22:55 | コメント(1) | トラックバック(0) | 日記
2009年02月25日 イイね!

落語

トットちゃんは、きのう、とても、がっかりしてしまった。
それは、ママが、
「もう、ラジオで落語を聞いちゃダメよ。」
といったからだった。
トットちゃんのころのラジオは、大きくて、木でできていた。
だいたいが、たて長の四角で、てっぺんが、丸くなっていて、
正面はスピーカーになってるから、ピンクの絹の布などが張ってあり、
まん中に、からくさの彫刻があって、スイッチが二つだけ、ついている、
とても優雅な形のものだった。
学校に入る前から、そのラジオのピンクの部分に、耳をつっこむようにして、
トットちゃんは、落語を聞くのが好きだった。
落語は、とてもおもしろいと思ったからだった。
そしてきのうまでは、ママも、トットちゃんが落語を聞くことについて、
なにもいわなかった。
ところが、きのうの夕方、弦楽四重奏の練習のために、
パパのオーケストラの仲間が、トットちゃんの家の応接間に集まったときだった。
チェロの橘常定さんが、トットちゃんに、
「バナナを、おみやげに持ってきてくださった。」
と、ママがいったので、トットちゃんは、大喜びのあまり、
こんなふうにいってしまったのだ。
つまり、トットちゃんは、バナナをいただくと、ていねいに、
おじぎをしてから、橘さんに、こういった。
「おっ母あ、こいつは、おんの字だぜ。」
それ以来、落語を聞くのは、パパとママが留守のとき、秘密に、ということになった。
噺家が上手だと、トットちゃんは、大声で笑ってしまう。
もし、だれか大人が、このようすを見ていたら、
「よく、こんな小さい子が、このむずかしい話で笑うな。」
と思ったかもしれないけど、実際の話、子どもは、どんなに幼くみえても、
ほんとうにおもしろいものは、絶対にわかるのだった。


この話を読んだ時は、大笑いしてしまいました^^;
しかし学校に入る前から落語のおもしろさがわかるなんてすごいです!
Posted at 2009/02/25 15:01:54 | コメント(1) | トラックバック(0) | 日記
2009年02月24日 イイね!

校長先生

トットちゃんとママが入っていくと、部屋の中にいた男の人が
いすから立ち上がった。
その人は、頭の毛が薄くなっていて、前のほうの歯がぬけていて、
顔の血色がよく、背はあまり高くないけど、肩や腕ががっちりしていて、
ヨレヨレの黒の三つぞろいを、キチンと着ていた。
トットちゃんは、いそいで、おじぎをしてから、元気よく聞いた。
「校長先生か、駅の人か、どっち?」
ママが、あわてて説明しよう、とする前に、その人は、
笑いながら答えた。
「校長先生だよ。」
トットちゃんは、とってもうれしそうにいった。
「よかった。じゃ、おねがい。わたし、この学校に入りたいの。」
校長先生は、いすをトットちゃんにすすめると、
ママのほうをむいていった。
「じゃ、ぼくは、これからトットちゃんと話がありますから、
 もう、お帰りくださってけっこうです。」
ほんのちょっとの間、トットちゃんは、すこし心細い気がしたけど、
なんとなく、この校長先生とならいいや。と思った。
ママは、いさぎよく先生にいった。
「じゃ、よろしく、お願いします。」
そして、ドアを閉めて出ていった。
校長先生は、トットちゃんの前にいすをひっぱってきて、
とても近い位置に、むかい合わせに腰をかけると、こういった。
「さあ、なんでも、先生に話してごらん。
 話したいこと、ぜんぶ。」
「話したいこと!?」
なにか聞かれて、お返事するのかな?と思っていたトットちゃんは、
「なんでも話していい。」
と聞いて、ものすごくうれしくなって、すぐ話し始めた。
順序も、話しかたも、すこしグチャグチャだったけど、
一生懸命に話した。
いま乗ってきた電車が速かったこと。
前に行ってた学校の受け持ちの先生は、顔がきれいだということ。
その学校には、つばめの巣があること。
家には、ロッキーという茶色の犬がいて、お手と、ごめんくださいませ、と
ごはんのあとで、満足、満足ができること。
幼稚園のとき、ハサミを口の中に入れて、チョキチョキやると、
「舌を切ります。」と先生が怒ったけど、
何回もやっちゃったってこと。
はなが出てきたときは、いつまでも、ズルズルやってると、
ママにしかられるから、なるべく早くかむこと。
パパは、海で泳ぐのが上手で、飛び込みだってできること。
こういったことを、つぎからつぎと、トットちゃんは話した。
先生は、笑ったり、うなずいたり、「それから?」
とかいったりしてくださったから、うれしくて、
トットちゃんは、いつまでも話した。
でも、とうとう、話がなくなった。
トットちゃんが、口をつぐんで考えていると、先生はいった。
「もう、ないかい?」
トットちゃんは、これでおしまいにしてしまうのは、残念だと思った。
せっかく、話を、いっぱい聞いてもらう、いいチャンスなのに。
なにか、話は、ないかなあ・・・。
頭の中が、いそがしく動いた。
と思ったら、「よかった!」話が見つかった。
それは、その日、トットちゃんが着てる洋服のことだった。
たいがいの洋服は、ママが手製で作ってくれるのだけれど、
今日のは、買ったものだった。
というのも、なにしろトットちゃんが夕方、外から帰ってきたとき、
どの洋服もビリビリで、ときには、ジャキジャキのときもあったし、
どうしてそうなるのか、ママにも絶対わからないのだけど、
白い木綿でゴム入りのパンツまで、ビリビリになっているのだから。
トットちゃんの話によると、よその家の庭をつっきって垣根をもぐったり、
原っぱの鉄条網の間をくぐるとき、「こんなになっちゃうんだ。」
ということなのだけれど、とにかく、そんなぐあいで、
けっきょく、今朝、家を出るとき、ママの手製の、しゃれたのは、
どれもビリビリで、しかたなく、前に買ったのを着てきたのだった。
それはワンピースで、エンジとグレーの細かいチェックで、
布地はジャージーだから、悪くはないけど、衿にしてある、
花の刺繍の、赤い色が、ママは、「趣味が悪い。」といっていた。
そのことを、トットちゃんは、思い出したのだった。
だから、いそいでいすから降りると、衿を手で持ち上げて、
先生のそばに行き、こういった。
「この衿ね、ママ、嫌いなんだって!」

それをいってしまったら、どう考えてみても、ほんとうに、
話は、もうなくなった。
トットちゃんは、すこし悲しいと思った。
トットちゃんが、そう思ったとき、先生が立ち上がった。
そして、トットちゃんの頭に、大きくて暖かい手を置くと、
「じゃ、これで、君は、この学校の生徒だよ。」
そういった。
・・・そのとき、トットちゃんは、なんだか、生まれて初めて、
ほんとうに好きな人にあったような気がした。
だって、生まれてから今日まで、こんな長い時間、
自分の話を聞いてくれた人は、いなかったんだもの。
そして、その長い時間のあいだ、一度だって、あくびをしたり、
退屈そうにしないで、トットちゃんが話してるのと同じように、
身をのり出して、一生懸命、聞いてくれたんだもの。
トットちゃんは、このとき、まだ時計が読めなかったんだけど、
それでも長い時間、と思ったくらいなんだから、もし読めたら、
ビックリしたにちがいない。
というのは、トットちゃんとママが学校に着いたのが八時で、
校長室でぜんぶの話が終わって、トットちゃんが、
この学校の生徒になった、と決まったとき、
先生が懐中時計を見て、「ああ、お弁当の時間だな。」といったから、
つまり、たっぷり四時間、先生は、トットちゃんの話を聞いてくれたことになるのだった。
あとにも先にも、トットちゃんの話を、こんなにちゃんと聞いてくれた大人は、
いなかった。
それにしても、まだ小学校一年生になったばかりのトットちゃんが、
四時間も、ひとりでしゃべるぶんの話があったことは、ママや、
前の学校の先生が聞いたら、きっと、びっくりするにちがいないことだった。
このとき、トットちゃんは、まだ退学のことはもちろん、
まわりの大人が、手こずってることも、気がついていなかったし、
もともと性格も陽気で、忘れっぽいタチだったから、無邪気に見えた。
でも、トットちゃんの中のどこかに、なんとなく、疎外感のような、
ほかの子どもとちがって、ひとりだけ、ちょっと冷たい目で見られているようなものを、
おぼろげには感じていた。
それが、この校長先生といると、安心で、暖かくて、気持ちがよかった。
この人となら、ずーっといっしょにいてもいい。
これが、校長先生、小林宗作氏に、初めてあった日、トットちゃんが感じた、
感想だった。
そして、ありがたいことに、校長先生も、トットちゃんと、同じ感想を、
そのとき、持っていたのだった。


トットちゃんてば、四時間も話しつづけたなんてビックリですね^^;
そしてその間、しっかり聞いてくれた校長先生もすごい!
こうして、トットちゃんは無事トモエ学園に入ることができたのでした。
Posted at 2009/02/24 17:05:22 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記
2009年02月23日 イイね!

窓ぎわのトットちゃん

これも子供のころくりかえし読んだ本です^^
でも、子供のころはトットちゃんの行動がおもしろくて読んでたんですが
大人になってから読むとトットちゃんの通ったトモエ学園は
なんて素晴らしい学校なんだろうかと思います。
これから何日かにわけて、いくつかお話しを紹介していきます^^
よかったら読んでみてください♪

窓ぎわのトットちゃん
新しい学校の門をくぐる前に、トットちゃんのママが、
なぜ不安なのかを説明すると、それはトットちゃんが、
小学校一年なのにかかわらず、すでに学校を退学になったからだった。
一年生で!!
つい先週のことだった。
ママはトットちゃんの担任の先生に呼ばれて、はっきり、こういわれた。
「おたくのお嬢さんがいると、クラスじゅうの迷惑になります。
 よその学校にお連れください!」
若くて美しい女の先生は、ため息をつきながら、くり返した。
「ほんとうにこまっているんです!」
ママはびっくりした。
いったいどんなことを・・・。
クラスじゅうの迷惑になる、どんなことを、あの子がするんだろうか・・・。
先生はカールしたまつ毛をパチパチさせ、パーマのかかった
短い内巻きの毛をなでながら説明にとりかかった。
「まず授業中に、机のフタを、百ぺんくらい、開けたり閉めたりするんです。
 そこで私が、用事がないのに開けたり閉めたりしてはいけません。
 と申しますと、おたくのお嬢さんは、ノートから、筆箱、教科書、
 ぜんぶを机の中にしまって、ひとつひとつ取り出すんです。
 たとえば書き取りをするとしますね。
 するとお嬢さんは、まずフタを開けて、ノートを取り出した、と思うが早いか、
 パタン!とフタを閉めてしまいます。
 そして、すぐにまた開けて頭を中につっこんで筆箱からアを書くための
 鉛筆を出すと、いそいで閉めて、アを書きます。
 ところが、うまく書けなかったり、まちがえたりしますね。
 そうすると、フタを開けて、また頭をつっこんで、消しゴムを出し、
 閉めると、いそいで消しゴムを使い、つぎに、すごい早さで開けて、
 消しゴムをしまって、フタを閉めてしまいます。
 で、すぐ、また開けるので見てますと、アひとつだけ書いて、
 道具をひとつひとつ、ぜんぶしまうんです。
 鉛筆をしまい、閉めて、また開けてノートをしまい・・・というふうに。
 そして、つぎのイののときに、また、ノートから始まって、
 鉛筆、消しゴム・・・そのたびに、私の目の前で、目まぐるしく、
 机のフタが開いたり閉まったり。
 私、目がまわるんです。
 でも、一応、用事があるんですから、いけないとは申せませんけど・・・。」
先生のまつ毛が、そのときを思い出したように、パチパチと早くなった。
そこまで聞いて、ママには、トットちゃんが、なんで、学校の机を、
そんなに開けたり閉めたりするのか、ちょっとわかった。
というのは、はじめて学校に行って帰ってきた日に、トットちゃんが、
ひどく興奮して、こうママに報告したことを思い出したからだった。
「ねえ、学校ってすごいの。
 家の机の引き出しは、こんなふうに、ひっぱるのだけど、
 学校のはフタが上にあがるの。
 ごみ箱のフタと同じなんだけど、もっとツルツルで、いろんなものがしまえて、
 とってもいいんだ!」
ママには、今まで見たことのない机の前で、トットちゃんがおもしろがって、
開けたり閉めたりするようすが目に見えるようだった。
そして、それは、そんなに悪いことではないし、だいいち、
だんだんなれてくれば、そんなに開けたり閉めたりしなくなるだろうと考えたけど、
先生には、
「よく注意しますから。」
といった。
ところが、先生は、それまでの調子より声をもうすこし高くして、こういった。
「それだけなら、よろしいんですけど!」
ママはすこし身がちぢむような気がした。
先生は、体をすこし前にのり出すといった。
「机で音をたててないな、と思うと、今度は授業中、立ってるんです。
 ずーっと!」
ママは、またびっくりしたので聞いた。
「立ってるって、どこにでございましょうか。」
先生は少し怒ったふうにいった。
「教室の窓のところです!」
ママは、わけがわからないので、続けて質問した。
「窓のところで、なにをしてるんでしょうか?」
先生は、半分、叫ぶような声でいった。
「チンドン屋を呼びこむためです!!」

先生の話をまとめてみると、こういうことになるらしかった。
一時間目に、机のパタパタを、かなりやると、それ以後は、机を離れて、
窓のところに立って外を見ている。
そこで静かにしていてくれるのなら、立っててもいい、と
先生が思ったやさきに突然、トットちゃんは、大きい声で、
「チンドン屋さーん。」
と外にむかって叫んだ。
だいたい、この教室の窓というのが、トットちゃんにとっては幸福なことに、
先生にとっては不幸なことに、一階にあり、しかも通りは目の前だった。
そして境といえば、低い、いけ垣があるだけだったから、
トットちゃんは、かんたんに、通りを歩いてる人と話ができるわけだったのだ。
さて、通りかかったチンドン屋さんは、呼ばれたから教室の下までくる。
するとトットちゃんは、うれしそうに、クラスじゅうのみんなに呼びかけた。
「きたわよー。」
勉強してたクラスじゅうの子どもは、全員、その声で窓のところにつめかけて、
口々に叫ぶ。
「チンドン屋さーん。」
すると、トットちゃんは、チンドン屋さんにたのむ。
「ねえ、ちょっとだけ、やってみて?」
学校のそばを通るときは、音をおさえめにしているチンドン屋さんも、
せっかくのたのみだからというので盛大に始める。
クラリネットや鉦やタイコや、三味線で。
その間、先生がどうしてるか、といえば、一段落つくまで、ひとり教壇で、
じーっと待ってるしかない。
この一曲が終わるまでの辛抱なんだから。
と自分にいいきかせながら。
さて、一曲終わると、チンドン屋さんは去って行き、生徒たちは、
それぞれの席にもどる。
ところが、おどろいたことに、トットちゃんは、窓のところから動かない。
「どうして、まだ、そこにいるのですか?」
という先生の問いに、トットちゃんは、大まじめに答えた。
「だって、またちがうチンドン屋さんがきたら、お話しなきゃならないし。
それから、さっきのチンドン屋さんが、また、もどってきたら、たいへんだからです。」
「これじゃ、授業にならない、ということが、おわかりでしょう?」
話してるうちに、先生は、かなり感情的になってきて、ママにいった。
ママは、なるほど、これでは先生も、おこまりだわ。と思いかけた。
とたん、先生は、またいちだんと大きい声で、こういった。
「それに・・・。」
ママはびっくりしながらも、なさけない思いで先生に聞いた。
「まだ、あるんでございましょうか・・・。」
先生は、すぐいった。
「まだ、というように、数えられるくらいなら、こうやって、
 やめていただきたい、とお願いはいたしません!!」
それから先生は、すこし息をしずめて、ママの顔を見ていった。
「きのうのことですが、例によって、窓のところに立っているので、
 またチンドン屋だと思って授業をしておりましたら、これが、また大きな声で、
 いきなり、なにしてるの?と、だれかに、なにかを聞いているんですね。
 相手は、私のほうから見えませんので、だれだろう、と思っておりますと、
 また大きな声で、ねえ、なにしてるの?って。
 それも、今度は、通りにではなく、上のほうにむかって聞いてるんです。
 私も気になりまして、相手の返事が聞えるかしら、と耳をすましてみましたが、
 返事がないんです。
 お嬢さんは、それでも、さかんに、ねえ、なにしてるの?を続けるので、
 授業にもさしさわりがあるので、窓のところに行って、
 お嬢さんの話しかけてる相手がだれなのか、見てみようと思いました。
 窓から顔を出して上を見ましたら、なんと、つばめが、教室の屋根の下に、
 巣を作っているんです。
 その、つばめに聞いているんですね。
 そりゃ私も、子どもの気持ちが、わからないわけじゃありませんから、
 つばめに聞いていることを、ばかげている、とは申しません。
 でも、授業中に、あんな声で、つばめに、なにをしているのか?
 と聞かなくてもいいと、私は思うんです。」
そして先生は、ママが、いったいなんとおわびしよう、と
口を開きかけたのより早くいった。
「それから、こういうことも、ございました。
 はじめての図画の時間のことですが、
 国旗をかいてごらんなさい、と私が申しましたら、ほかの子は、画用紙に、
 ちゃんと日の丸をかいたんですが、おたくのお嬢さんは、
 朝日新聞の模様のような、軍艦旗をかき始めました。
 それなら、それでいい、と思ってましたら、突然、旗のまわりに、ふさを、
 つけ始めたんです。
 ふさ。
 よく青年団とか、そういった旗についてます、あの、ふさです。
 で、それも、まあ、どこかで見たのだろうから、と思っておりました。
 ところが、ちょっと目を離したスキに、まあ、黄色のふさを、机にまで、
 どんどんかいちゃってるんです。
 だいたい画用紙に、ほぼいっぱいに旗をかいたんですから、
 ふさの余裕は、もともと、あまりなかったんですが、それに、
 黄色のクレヨンで、ゴシゴシふさをかいたんですね。
 それが、はみ出しちゃって、画用紙をどかしたら、机に、
 ひどい黄色のギザギザが残ってしまって、ふいても、こすっても、とれません。
 まあ、幸いなことは、ギザギザが三方向だけだった、ってことでしょうか?」
ママは、ちぢこまりながらも、いそいで質問した。
「三方向っていうのは・・・。」
先生は、そろそろ疲れてきた、というようすだったが、それでも親切だった。
「旗ざおを左はじにかきましたから、旗のギザギザは、三方だけだったんでございます。」
ママは、すこし助かった、と思って、
「はあ、それで三方だけ・・・。」
といった。
すると、先生は、つぎに、とっても、ゆっくりの口調で、
ひとことずつ区切って、いった。
「ただし、そのかわり、旗ざおのはじが、やはり、机に、
 はみ出して、残っております!!」
それから先生は立ちあがると、かなり冷たい感じで、
とどめをさすようにいった。
「それと、迷惑しているのは、私だけではございません。
 隣の一年生の受け持ちの先生もおこまりのことが、あるそうですから・・・。」
ママは決心しないわけには、いかなかった。
たしかに、これじゃ、ほかの生徒さんに、ご迷惑すぎる。
どこか、ほかの学校をさがして、移したほうが、よさそうだ。
なんとか、あの子の性格がわかっていただけて、みんなといっしょに
やっていくことを教えてくださるような学校に・・・。
そうして、ママが、あっちこっち、かけずりまわって見つけたのが、
これから行こうとしている学校、というわけだったのだ。
ママは、この退学のことを、トットちゃんに話していなかった。
話しても、なにがいけなかったのか、わからないだろうし、
また、そんなことで、トットちゃんが、コンプレックスを持つのも、
よくないと思ったから、いつか、大きくなったら、話しましょう。と、きめていた。
ただ、トットちゃんには、こういった。
「新しい学校に行ってみない?いい学校だって話よ。」
トットちゃんは、すこし、考えてから、いった。
「行くけど・・・。」
ママは、この子は、いまなにを考えているのだろうか。と思った。
うすうす、退学のこと、気がついていたんだろうか・・・。
つぎの瞬間、トットちゃんは、ママの腕の中に、とびこんできて、いった。
「ねえ、今度の学校に、いいチンドン屋さん、くるかな?」
とにかく、そんなわけで、トットちゃんとママは、新しい学校にむかって
歩いているのだった。
Posted at 2009/02/23 15:28:35 | コメント(1) | トラックバック(0) | 日記
2009年02月22日 イイね!

最近、本読みまくってます

子供のころから読書は大好きなんですけどね^^;
ひさしぶりに本棚から赤毛のアンシリーズと
大草原の小さな家シリーズを取り出し読み直しました。

赤毛のアンは舞台はカナダの美しいプリンスエドワード島で
孤児の少女アンが孤児院から
手違いでグリーンゲイブルスの兄妹マリラとマシュウにひきとられ
グリーンゲイブルスで成長してひとり立ちして結婚して
最後はアンの娘が主人公になって
娘がプロポーズされるところでおわります。

大草原の小さな家は舞台はアメリカ、開拓農民の娘ローラが
少女から母になるまでのお話で
最後は娘が遠くの学校へ行ってしまうところでおわってます。

アンはグリーンゲイブルスにひきとられてからは
マリラとマシュウのもと食べるものも不自由ない生活を送り、
結婚してからも医者の妻として子供たちにも恵まれ
お手伝いさんもいて裕福な生活を送れますが、
ローラは厳しい自然と闘う開拓農民の生活で、
長い冬という本では、半年ものあいだ吹雪のために
鉄道が通らず食料も燃料も届かなくなってしまい、
脱穀していない小麦をコーヒーひきでひいて粉にして
一日わずかなパンと紅茶だけで生き延びたり、
せっかく収穫できそうになっても
いろいろな自然災害でだめになってしまったりします。
結婚してからも苦労の連続で、借金をかかえ利息を返す生活でした。
裕福な生活が送れるようになったのは作家になってからだと思います。
でも本のお金が入るようになってもローラは娘のローズから
ミンクのコートを買ったら、とすすめられても断り
今まで通りの生活を送ったようです。

赤毛のアンを読むとなんか幸せな気分になりますが、
大草原の小さな家を読むと生きるって大変だと思います^^;

ローラの母キャロラインは生きるっていうことは闘うことなのよ、とローラに言いますし、
ローラが結婚してからのお話しの中でも
一難去ってまた一難とか、
人生はたまねぎの皮をむくようなもの、
みんな涙を流しながらむいていると書かれてます。

でもどっちも大好きな本ですね^^
Posted at 2009/02/23 00:52:44 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記

プロフィール

タイトル変更しました♪ あの、子猫も好きですけど猫全般好きなんですよw でも、やっぱり猫が好き、だと某ドラマとかぶってしまうので♪つけました^^;
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

過去のブログ

2012年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2010年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2009年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2008年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation