マッタリ土曜日

なつかしい味が

口の中に広がって

噛むたびに

目に涙がうかんだ。

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ふるさとの景色

母が台所に立つ姿

トントントン…

野菜を切るリズミカルな包丁さばき


運ばれてくるのは
いつもの白い楕円のお皿に
ざっくりとのったナポリタン。

ナポリタンにはこのお皿と
決まっていたよう

土曜日の昼御飯

学校を午前中で終わって帰ると

焼きそばやナポリタンが多かった

あの頃はなんの有り難みもわからない子供で

私はそのナポリタンがあまり好きじゃなかった

まずいわけじゃない。おいしい。

でも、好きじゃなかった…

なんか普通で当たり前で素朴で…

うちでスパゲティがでてくるといえば
ミートスパゲティかナポリタンだった。


ふるさとを離れてひとりになると

カルボナーラやクリーム系パスタが
私の好きなスパゲティになった。

サーモン、いくら、かに、えび
そんな系のパスタばかり

このxx年、選んできたのは
見た目が白いスパゲティ。

同じようなのを選び
当然のように満たされ…

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この世に絶対はないと父は言うけど

私は絶対ナポリタンを食べることは
もうないと思っていた…

だって好きじゃないから

選ぶわけがない、、、

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今日接骨院の予約をしていた。

私が通う接骨院は普通の接骨院ではない。

そこへ行かないとできないから
そこへ通っている。

ある日の朝突然首に激痛が走ったあの時から…

今は一ヶ月に一度のペースで谷町九丁目まで
ポテポテと電車と歩きで行く。

夜には忘年会が日本橋である。

谷町九丁目の横が日本橋。

家へ帰らずぶらついたほうが
時間が無駄にならないし
ゆっくりできると思って

私は時間を潰すことにした。

接骨院を終えると
いつも全身の力が抜けて眠くなる。

力が抜けるからか足取りは軽やかに
上本町までポテポテ歩いてきた。



どこかでお昼ご飯…

静かでゆっくりできそうな…

といってもこのへんはサッパリ

右も左も分からない。

ポテポテ、ポテポテ。


通りがかった一軒の喫茶店

表のボードをみるとなんだか良さげ


ガチャン
カランカラン

見渡して気に入る席に座る


なにを食べようかな…

ってランチメニューは
パスタセット1000円か
ピザサンドのなんたら900円
しかない。

両方コーヒーor紅茶つきだけど

ピザサンド？よくわからないな…

パスタは何ですか？

おばちゃん一人がやっているらしく
私の前に３人連れが入ったから
忙しくなったおばちゃんは

ちょっと眼鏡をずらして無愛想に

｢ナポリタンだよ｣と言った…


ナポリタンかぁ…がっかり

でもピザサンドなんて気分じゃないし


３人連れはみんなナポリタンだったから
今頼めばおばちゃんも手間ないかと思い

スパゲティにした。


ハァ

やっぱり違う店にしたら良かったかなぁ

と不満をおさえられない心を
沈めてくれたのは

店のど真ん中にある大きなストーブと
形もデザインもバラバラの椅子たち。

なんか素敵。

バラバラの椅子嫌いじゃない。


私は３脚に座って心地を確認して
一番気に入った椅子で待った。

普通の人から見れば
あの人せわしないとか変わってるとか
思うんだろうなぁなんて考えながら…


トントントン…

トントントン…


ピーマンやら玉ねぎを刻む音

パスタをゆがきながら

炒めて、混ぜて、味付け…


まぶたの奥に母の背中が浮かぶ


３人連れのとこへ三つ運ばれたあとすぐ
私のとこへも運ばれてきた。


タイミングは当たりだったナ～





この絵…いつぶりに見ただろうか


ナポリタン…



この一口を食べるまで

間違いなく、
間違いなく
私の気持ちはイマイチであった。。


あれ？

よくみると麺がもちっとやわらかそうで
ナポリタンのソースがよくからんでる…

フォークで巻き付けて口に運ぶ


なつかしい味が

口の中に広がって

噛むたびに

目に涙がうかんだ。



口当たりがやわらかくて

あたたかくて…


おいしい…



ナポリタン…

母が作ってくれていたナポリタン

こんな、味だったかもしれない。




イマイチだった私の気持ちは
どこかへ消えて


なんだか…


なんだか・・・