2015年08月18日
リーフの駆動用モーターは2012年末のマイナーチェンジにて変更されているのは良く知られている話ですが、社会的背景と合わせて考えないとこの仕様変更は理解できない。
EM57(マイナー後) EM61(マイナー前)
最大出力 80kW 80kW
最大トルク 254Nm 280Nm
最終減速比 8.1938 7.9377
交流電力消費率 114Wh/km 124Wh/km
スペックだけ眺めていると、高回転型にし常用域の効率を上げる一方、低回転時のトルクの減少分を減速比の変更によって補っているということがわかります。
メーカーによると発進加速タイムやレスポンスはマイナー後の方が若干すぐれているとのことだが、乗り比べてみると停止状態からドンとアクセルを踏んだ時の加速感はマイナー前の車に軍配があがります。明らかにモーターの低速トルクの差を感じるのです。
さて社会的背景とは、ネオジム、鉄、ホウ素などの希土類を主成分とする磁石材料の高騰にあります。 磁石に使う磁性体は焼結によって固めますが、せっかく保持力の高い磁性体を使っても固めるときの熱で保持力が失われてしまう。 そこで保持力の低下を抑えるためにジスプロシウムという希土類を混合させるのですが、この材料は中国のある場所で独占的に産出されるため中国が戦略物資として輸出を規制し価格が10倍以上高騰したのです。こりゃたまらん。。。。と焦った日本のメーカーはジスプロシウムの使用量を削減せざるをえなくなった。当然磁石の特性は悪化し、モーターの出力にもネガティブだが、そこは基礎研究に優れる日本です、素材の構成を一部変更することで特性の低下を最小限に抑える仕組みを開発しました。 EM57型はEM61型に比べてジスプロシウムの使用量を40%も削減しながら、極端な性能低下を防止することができた。
このような研究成果に加え、大陸以外でもジスプロシウムが産出できることが発見され、ジスプロシウムの輸出価格は大幅に下がりました。従って現在ではジスプロシウムの削減に目の色を変えて取り組む必要はなくなりました。 次世代のモーターではジスプロシウムをふんだんに使った強い磁石が復活するかもしれませんね。
磁石の世界では多くの研究の積み重ねがあり日本の得意分野となっていますが、モーター理論の分野では海外の先進国に負けていたりします。残念ながら日本には電磁界理論に関してすぐれた研究者が存在しないし、シミュレーション技術もエンジン開発ほど完成していない。 また電磁石製造に必要な方向性電磁鋼板は日本のオリジナル商品でその製造技術は国内鉄鋼メーカーの機密事項だったのですが、ポスコという韓国のメーカーに製造技術を盗まれ、そこのコストが安いので日本のメーカーは苦戦しています。
モーターは一見すると枯れた技術のため、いまさら基礎研究を手掛けようという研究者は存在しないのですが、実はまだ未解明の部分が多く、特に3次元回転磁界の理論はまったく暗中模索、モータの新規開発はいきあたりばったりとなっているといわざるを得ない。 EUの某大学が最先端の研究開発をしているらしいのですが、基礎研究にはさまざまなアイディアや仮定をたくさん出した上で、徹底的に試行錯誤を繰り返すことが必要です。そのための研究者が全世界的に圧倒的に不足していると思う。
エンジン1基の開発には100億円以上かけるのに、モーターの開発にはその100分の1もかけていないというのが実情であろうと推測します。
Posted at 2015/08/24 00:48:27 | |
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