2017年 春
男はかつて炭鉱で栄えた夕張の街に別れを告げ、北海道一の都市である札幌へ車を走らせていた。
運転が好きな男は北海道の開放的な道路を運転する事が好きで、いつもはハンドルを握るだけで幸せな気分に浸れていた。
だが、その日だけは違った。
不安と希望が混じった気持ちに支配されていた。
そんな心を落ち着かせるかのように、いつもより意識的に運転に集中していた。
今日の生徒達は授業をしっかり受けてくれるだろうか。
男は全国の学校を渡り歩く非常勤講師だった。
担当科目は決まっていない。
その時その時に当てがわれる生徒に合わせて教える科目を替えるのである。
一番多いのは保健体育の実技であった。
男はセコマで買った缶コーヒーを飲みながらこう呟いていた。
「…今日は元気になるかな。」
学級崩壊、モンスターペアレンツ、教師による不祥事、PTA問題、いじめ…等。
現在の教育現場ではありとあらゆる問題が発生している。
それらをひとまとめにして「親がダメだから、先生がダメだから、社会がダメだから」とゆうのは簡単である。
男はそうゆう事に対して「一つ一つ、一人一人、地道に対応していくのが教育者としての務め」と考えていた。
今回は札幌市内のすすきのとゆう街にある「とある学校」へ非常勤講師として来た。
事前に得た情報によると「会いに行けるアイドル系~」となっている。
なるほど、分からん。
そんな状況の中、男は在籍している生徒をスマートフォンを駆使して入念に情報収集を行った。
そして一番問題がありそうな生徒を事前に探し出していた。
写真にボカシが入っていたがこんな感じだった。
どうやら素性を隠さなければならない事情があるらしい。
親が政府の高官、もしくは政治家であるとか。
恐らくそのような事情なのだろう。
このような場合は深く詮索するのはご法度である。
俺も命は惜しいからな。黒服さんに店の裏路地でボコされる。
背は146㎝とある。
胸は小さめだが良い形だった。
少し小柄だが身体的には問題無いようだった。
いや、むしろイイ。
やったね。
趣味は「マンガ・アニメを見るのが好き」とある。
そして犬が好きであると自己紹介していた。
男は迷う事無くこの生徒の指導を引き受ける事にした。
性職者としての義務感に心の中が熱く感じ初めていた。
あと身体の一部も。
札幌市内は殺伐としていた。
GW中とはいえ平日。
通勤車両が所狭しとひしめいていた。
皆が皆、前の車を煽り倒しながら走行しているのである。
比較的交通マナーが悪いと言われる愛知県から来た男でさえも、あの情景には閉口していた。
…こんな修羅のような場所で学んでいる彼女達はさぞ心が荒んでいるのだろう…。
だからと言って指導に手心を加えてはならない。
常に全力で。持てる力(金)を出し惜しみしてはならない。
彼の師である
「鍋本舗」の言葉を男は愚直に守り続けている。
午前9時。
近くの立体駐車場に愛車を停め、その学校へと向った。
相棒のクマーに「ちょっとお仕事済ませてくるからね」と伝えると「またか」と察して寝てくれた。
良い相棒である。
お土産にジャーキーでも買ってくるか。
目的地の学校はパーキングより徒歩で数分の距離にあった。
だが男はすぐに肌で感じていた。
この街は…ヤバイ…と。
「お兄さん~もう決めてるの~?イイ所教えるよぉ?」
「今からなの?スグに入れる所あるけどどぉ??」
細身のスーツを着て髪の毛が酷い寝ぐせのようなヘアスタイルそした男や、どう見ても人間の1人くらいは消した事あるだろう?みたいな目つきの男がしつこく声を掛けてくるのである。
ふぇぇ~こわいよぉ。
「あ、予約してあるんで」
そう告げて目的地であるビルジングへと足早に掛け込んだ。
赴任先の学校は4階にある。
5~6人程度が限界であろう狭いエレベーターを使用して4階へと上がる。
(早く…早く…)
何かもう色々と限界。
ドアが開くとやたらパステルカラーで彩られた店舗…じゃ無かった、校舎が現れた。
パッと見は荒れ果てた様子は無い。
それどころか明るく清潔な感さえある。
校門で受付して奥へ通される。
L字のソファが2脚ある待合室で、ボーイさんから本日の授業について説明を受ける。
事前に担当生徒と授業時間は伝えてあったので、確認とゆうのが大部分だった。
「それで…オプションはどういたしますか?」
どうやら別途1000円で授業内容を変更出来るらしい。
セーラー服、体操服、スクール水着…
「スク水で」
10分程待っただろうか。
感覚的にはもう30分くらい待っている感じになっていた。
そこへようやく「こちらへ」とボーイさんが声を掛けて来た。
そして通路の奥へと案内される。
そこで今回指導する生徒が待っていた。
「今日はお願いします」
な…
ななな…
なんなんだこれは。
ボカシの向こう側に想像していたよりも遥かに可愛くて男の好みにドストライクな女生徒だった。
男は焦っていた。
これはアカン、アカン、アカン…予想以上に可愛過ぎて緊張して授業に集中出来ないのではないだろうか、と。
…と、思いながらも気が付いたらせっせと服を脱がせて授業の準備をしていた。
最初はAK○のようなアイドルが着るような制服を着用していた。
赤や青に黒、チェック柄のそれは清楚系(に見える)彼女にとてもよく似合っていた。
CD1000枚買ってセンターにしてあげたいレベル。
それも悪くは無いのだが、今回は水泳の授業なので指定したスク水を着てもらう事にした。
「スクール水着は初めて着たけど、どうかな?」
男は一瞬で殺された。
即死だった。
幸いにも5秒ほどで息を吹き返した。
理性の息を。
だめだ、状況に飲まれるな。
落ち着いて…落ち着いて天国へとイクんだ。
「それでは授業を始めます。」
まずは準備体操から始めた。
首、胸、下腹部。
全身をゆっくりとほぐしていく。
120分の授業なので焦る必要は無い。
何回かポジションを入れ替えながらお互いに準備運動を繰り返した。
程良くほぐれて汗で濡れて来た。
汗で。
(いよいよ…ここの部分をズラすのか…)
グイッ、とな…
「っ!!!」
男は一瞬で殺された。
即死だった。(2回目
幸いにも0.5秒で息を吹き返し、何も阻む物が無いそのツルツル滑るプールサイドで準備運動の続きをした。
無茶苦茶した。
もう止まらなかった。
それからかれこれ15分は準備運動を続けただろうか。
もう十分に思えた。
女生徒も「もう大丈夫です。泳ぎましょう。」と申し出て来た。
男も意を決してスイミングキャップを片手に、プールサイドへと腰を降ろし…
降ろし…
ん?
男はそこでようやく気が付いた。
いや…薄々気が付いてはいた。
重大な問題が発生していたのである。
しかし泳ごうとすればその気になるだろうと問題を先送りにしていた。
頭の中では教育的欲求が燃え上がってマグマが噴き出さんばかりになっていたにも関わらず、身体の方がどこかでプッツリと伝達機能が切れてしまっているかのように無反応だったのである。
これでは泳ぐどころの話では無かった。
女生徒にも協力してもらい、問題解決に向けて試行錯誤した。
ダメだった。
悩んだ末に男は決断した。
(もう無理して泳がなくていっか。風呂に入ってゆっくりしよ。)
時間を半分程残して授業放棄をしたのである。
「そう言えば、マンガとか好きなんだよね?どんなの読むの?」
「え~、結構マニアなの読むよ~。」
「タイトル言ってみて。俺も結構読むから多少マニアックでも知ってるかも。」
「んーとね、ワンピとか?」
ワンピとか?
ん~、ちょっとオジサン海賊王になって色々酷いことしたいなって思っちゃったかな。
肝心なアレがゴムゴムの棒だから無理だけど。
とは言え。
ワンピはともかく、東京喰種( トーキョーグール)やスクールデイズは好きらしい。
他にも数作上げていたが、ある共通点がある事に気が付いた。
全部グロ描写まみれじゃねーか。
そして授業終了の鐘が鳴った。
女生徒と手を振り別れた。
泳ぎの指導は出来なかったが、充実した時間は過ごせた…と思う。
しかし男はウキウキしながら着任した時とは正反対に、モヤモヤした気持ちで校門をくぐり抜けている事に悔しさがこみ上げて来ていた。
(今回は失敗か…)
外に出ると強い陽の光に視界が一瞬真っ白になった。
その瞬間に師の言葉が男の頭に浮かんだ。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」
(そうだ、このまま帰れるはずが無い!)
このまま引き下がるのは教育者としてのプライドが許さなかった。
しかしこのまま次の授業を担当する自信は無かった。
また同じような現象になったらどうしよう…と。
そこで男はその手の専門家が常駐している研究施設へと足を向けた。
その施設は驚く事に都合良く学校の目の前にあったのだった。
2話へ続く