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2012年02月10日

「スープラの系譜」 第08回 ~“トップガン”~

「スープラの系譜」 第08回 ~“トップガン”~  「時速300kmで手放し運転が出来る直進安定性と、コーナリングで意のままに操れる運動性能」

相反する二つの要素を両立させること。さらには、『動力性能・運動性能』と『省資源性・快適性』。『パフォーマンス』と『優しさ』を高いレベルで融合させること。それが、都築功の考えるニュー・スープラであった。

 長年にわたり、「スポーツカー」の名称を使用することを避け続けてきたトヨタ。そんなトヨタが作る「スポーツカー」との姿とはどうあるべきなのか。いかにすれば具現化できるのか。そして、それを可能とするためには、どのような人材が必要だったのか――

~自動車開発におけるテストドライバーの重要性~

 優れたクルマの開発には、優れたテストドライバーが必要となる。それは、単純にクルマを速く走らせることができるいうだけでは決して勤まらない。

 1cm、1秒、1/10G単位でマシンをコントロールし、且つそれを何度でも再現できるテクニック。マシンを構成する細かな部品の一つ一つの欠点を感知し、それを指摘できる能力。さらには、その解決策までも提示できることが求められるのだ。

 優れたテストドライバーありきのクルマと言えば、1990年に登場したNSXが、その代表例である。NSXの開発テストドライバーを一手に引き受けたのは、希代の名ドライバー・黒沢元治であった。黒沢は、NSXのコンセプト立案からNSX開発に従事。テストコースとしてのニュルブルクリンクの推挙から、テストドライブも担当した。

 そして、NSXは自然吸気エンジンながらも280psを達成、アルミモノコックによる軽量で高い剛性を有するボディを手に入れ、ニュルを8分16秒で走行する性能を手に入れた。黒沢は、尻込みするエンジニアを散々にどやしつけ、徹底的にサスペンションやブレーキをブラッシュアップさせたという。

 結果、NSXは、フェラーリやランボルギーニと言ったスーパーカーの老舗を慌てさせ、そして本気にさせる運動性能とハンドリングを手に入れることになった。

 現代でも、「陸の王者」と称される日産のR35型GT-Rにおいては、鈴木利夫。「公道最速の戦闘機」と畏れられる三菱のランサーエボリューションシリーズにおいては、中谷明彦が。名車と呼ばれるスポーツカーの陰には、常に優秀なテストドライバーの存在があるのである。

~“トップガン” トヨタの精鋭テストドライバーたち~

 新型スープラを最高ランクのスポーツカーとして造り上げるには、優秀なテストドライバーの存在が必要不可欠であった。ある時、スープラ開発の議論の場において、居並んだ十数人のエンジニアの中で『私に任せなさい。自信がある』と言ってのけた者がいた。その人物の名は、成瀬弘と言った。

 成瀬は『トヨタ2000GT』や『トヨタ7』と言った、伝説的、かつ自動車の歴史に残るトヨタのスポーツカーのメカニックも務めた、叩き上げの技術者であった。成瀬は、黒沢元治の薫陶も受けた人物であり、そのドライビングテクニックは、300人に及ぶトヨタのテストドライバーの中でも頂点に位置するものであった。

 初代MR2開発の際、トヨタは初めてニュルブルクリンクサーキットで開発テストを行ったが、そのステアリングを握ったのも成瀬だった。MR2開発のテストドライバーにおいて、マシンの味付けを決定する権限が成瀬に与えられたことが、後のマスタードライバー制度の始まりでもあった。

 都築が成瀬と出会ったのは1980年代のグループB仕様MR2開発の時であった。その時、成瀬は、10メートルから20メートル車を転がしただけで、『都築さん、このクルマはココが悪いよ』と指摘してみせたという。

 それは、単に車の挙動がどうこうというだけでなく、その挙動がどういう原因で発生しているのか、それをどう調整したらいいのかまで的確に分析したものであったと言う。

「私が横に乗ってテストコースに出ていくと、コーナーで『いまこういう挙動が出たでしょ? これはここが悪いからだ』と言うわけ。車の重心やサスペンションの動き、遠心力の働きまで考えた理屈を言うんです。それを聞いてこの人は並みの人じゃないなと思っていたわけです」

 都築は、その記憶からスープラ開発のテストドライバーとして、成瀬弘を起用。さらに、トヨタの運転技能ライセンスの中でも、10人しかいない最上級のS2ライセンス保持者の中から、テストドライバーを選抜する。そして、選び抜かれた精鋭たちは、アメリカの映画になぞらえて『トップガン』と呼ばれた。

 「ガードレールに5mmのスキマを開けてドリフトして見せた」

 「普通のドライバーなら分からないような左右のコーナリングの違いを感じ取り、調べてみたら空気圧が左右で違っていた、あるいはブッシュの硬度が違っていた」

 「サスペンションのセッティングを決める際。ダンパー無しのバネだけを取り付けて路面を走り、そこから計算して必要なダンパーの減衰値を導き出してみせた」

 トップガンたちは、レーシングドライバーよりも速く走れるテクニックと、エンジニア顔負けの知識を持つ者たちであった。それだけでなく、メカニズムの機構と仕組みと実際の影響を体感で把握することが出来、それの改善策までも指摘できる。『出来る・分かる・言える』を兼ね揃えた人材だった。

 中でも成瀬の自動車評価スキルは群を抜くものがあり、「全身がセンサー」と称されるほどで、1000分の1Gの違いですらも見逃さなかったという。

 また、世界で最もニュルブルクリンクを走りこんだ人物として世界中から「マイスター・オブ・ニュルブルクリンク」と賞賛されることになる成瀬は、20km以上にも及ぶ長大なニュルにおいて、8分という規定タイムに対して1秒以内の誤差で収めることまでできたという。


 ※生前、レクサスLFAのステアリングを握る成瀬弘。2010年6月23日、死去。

 トップガンに選ばれたのは、成瀬弘、原口哲之理、大道政義の3名。彼らには、「Disignated Panelist (指名された評価者)」として大きな権限が与えられ、開発スタッフは全員、この3名の言葉を聞かなければならないシステムが採用された。

 ※トップ画像は、中谷明彦と対談するトップガンのメンバー。左から、大道政義、成瀬弘、中谷明彦、原口哲之理、荻野優。荻野はDPとしては数えられることがないが、トップガンと同等かそれに近い立場にあったと思われる。なお、このトップガン制度は現在にも続いており、2010年時点では成瀬弘を頂点として、下に3名、さらに下に5名の9名構成であったという。また、現・トヨタ社長の豊田章夫も、彼らに匹敵するドライビングスキルの持ち主であるとされている。

 トップガンの3人は、テストドライブを行うだけでなく、北米から欧州まで世界中を飛び回り、世界各地の著名レーシングドライバーや技術者たちと非常に多くの議論を交わし、共にサーキットを走ったという。その中には、元F1レーサーのダン=ガーニーや、ポール=フレールも居たという。

 アメリカで求められるのはどのようなスポーツカーか。ヨーロッパで求められるのはどのようなスポーツカーか。地域によって求められるスポーツカー像も異っており、具体例としてD・ガーニーはフォードGTを、P・フレールはアルピーヌルノーやポルシェを挙げたと言う。

 アメリカではエネルギッシュで爆発的、突き進む感じが大事であり、一方でヨーロッパでは正確で繊細なステアリング感覚が求められていた。そんな中で、ニュー・スープラの目指すべき姿として、DPたちは一つの疑問と答えを得る。


「ヨーロッパとアメリカの代表的なスポーツカーに、それぞれのサーキットと環境の中で乗ってきた。著名なレーサーとも一緒に走り、互いにコミュニケーションを図りながらディスカッションもした」 (荻野優)

「アメリカの何か、ヨーロッパの何かがあるときに、日本は? ということになる。が、それは我々がつくり出すしかない」 (原口哲之理)

「タイトコーナーはこう、高速コーナーはこうと、場面に対しては意見をいってくれる。でも、本音としてはみんな一緒なのではないかと思う」 (大道政義)

「ハッキリ言ってポルシェでもフェラーリでもない。あくまでも目指すのは我々の世界」(成瀬弘)


 北米でも欧州でもない。作るべきはジャパナイズされたスポーツカーであり、日本のスポーツカーであった……

(文中、敬称略。第8回へ。)


参考文献:

省略。第3回までのを参照して下さい。

Special Thanks:

正岡貞雄 様
黒沢元治 様

関連リンク:

「スープラの系譜」 第01回 ~スープラの系譜~
「スープラの系譜」 第02回 ~ソアラとスープラ~
「スープラの系譜」 第03回 ~70型のパッケージング~
「スープラの系譜」 第04回 ~トヨタ2000GT、そしてスープラ~
「スープラの系譜」 第05回 ~“トヨタ3000GT” A70型スープラ誕生~
「スープラの系譜」 第06回 ~「JZA」 70から80へ~
「スープラの系譜」 第07回 ~SPORTS OF TOYOYA~

ブログ一覧 | スープラの系譜 | 日記
Posted at 2012/02/10 14:49:53

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この記事へのコメント

2012/02/10 18:23:07
優れたクルマには優れたテストドライバー・・・・・

確かに走りの部分を煮詰めていくには実際に走らせて指摘する側が必須ですよね。

それこそ何度も何度も走り込み煮詰められた「クルマ」を自分たちが乗る。

考え深いものがありますね。
コメントへの返答
2012/02/11 11:01:50
NSXなんかは、値段も含めて色んな意味で別格なクルマですけど。

あれこれネガティヴな意見を言われてるようなスポーツカーでも、乗る人よりは優秀なテストドライバーが命がけでテストして。使用できる素材や予算、値段と相談して最良の解を出した結果なんですよね。

200km/hオーバーでわざとスピンさせて挙動をチェックしたりもするらしいですし、ある意味レーサーよりも凄い人たちです。
2012/02/10 20:31:36
どんなにうまく設計してもほんのちょっとの違いが走ったときに乱れとして出てしまう。
鉄のかたまりの車に血を通わせられるのはやっぱり人なんですね。

しかしトップガンの人たちの技量は凄すぎます(笑)
コメントへの返答
2012/02/11 11:08:43
今はクルマづくりのノウハウも蓄積されてきて、新車開発にかかる期間は随分と短縮されて来ているそうです。

でも実際、人間が乗ってみて確かめなけりゃ分からないポイントも多いですしね……。

トップガンの人たちは、もう神懸り的だったそうです。どんな世界にも超一流の職人ってのがいるもんなんですね(汗)
2015/09/17 23:53:05
始めまして。
私も小さな頃、よく話をしてもらいました!
っと政義さん…私の親父の兄貴だったりします!(笑)
世の中は狭いですね!
コメントへの返答
2015/09/18 04:49:04
初めまして、コメントありがとうございます!

な、なんと……大道さんの甥にあたるお方でいらっしゃるとは……どこにどんな方がおられるか分からないものですね(汗)

現場の最前線に立っていたテストドライバーの方のお話を直に聞いてお育ちになったとは、本当にうらやましい限りです……!
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