第4話 同世代
田中雄一 38歳。食品会社の経理主任。
二児の父。趣味はクルマと夜景撮影。最近のエコとか節電というコトバが嫌い。
子どもたちに手を振り、玄関を後にした雄一の頬が緩む。
空は雲ひとつなく澄みわたっている。
絶好の「ガレージ日和」だ。
今日は待ちに待ったオトコの休日。
3週間も前から美香に申請してひとりで出かける許しを得た。
もちろん、2人の悪ガキを任せちゃったことに後ろめたさがない
と言えばウソになる。埋め合わせを考えとかないと・・・後が怖い。
「お、来てる来てる・・・・」
「ガレージ」には既にSDX氏、498氏がシルバーと白のトラヴィックを
並べ、その両方がボンネットを天高く開けている。
その横には、お、幸田さんが何やら大笑いしているぞ。
「あ、どうも、TXこと田中です。」
一同「おはようございまーす。」
TXはボクのハンドルネーム。東京エックスという豚肉の名前から来てるんだけど
よくつくばエクスプレスが由来だろうと間違われる。
恥ずかしくて訂正するのも面倒だから、そのままにしている。
ここは通称「ガレージ」。
ザフトラ専門の中古車屋さんだ。
本来、ザフトラをはじめとする中古車販売がメインなんだけど、
修理や車検も快く引き受けてくれること、店主の幸田さんの圧倒的な知識と
ザフトラへの深い愛情、そしてなによりも人懐っこいフランクな人柄に魅了された
人たちの口コミから徐々に知れ渡る様になったらしい。
一度メンテナンスをお願いしたユーザーのリピーターが続出。
本来の性能を取り戻したザフトラに「幸田マジック」という言葉さえ生まれたのは記憶に新しい。
今や全国に知れ渡る「ザフトラの聖地」となってしまったのは言うまでもない。
もちろんボクも幸田さんに愛車の面倒を見てもらっている。
「いやいや、ご無沙汰です。タイヤ、換えたんですか?」
「あ、気づきました?それがねぇ。GRXTってちょっと硬いみたい。ねえ幸田さんどう思う?」
「そうねぇ。レグノも少し変わったよね。ケース剛性がちょっと高すぎるかもねぇ。」
「やっぱりミシュランでしょ。迷ったらミシュラン。」
「トーヨーも捨てたもんじゃないですよ。トランパスとか本当なんだから。」
「あ、そうそう、ザックスのマウントの話、聞かせてくださいよ。」
「いや、その話は勘弁でゴザルよぉ。」
一同 爆笑
分かる人にはワカル、分からない人には何を話してるのかサッパリな
超マニアックな話がマシンガンの様に繰り広げられる光景は、
きっと奥方には理解されないだろうな・・・だからオトコの休日。
奇しくも同世代のお父さんたちは時を忘れて話し込む。
その横顔は誰もが少年のようにキラキラと輝いている。
(こんなに無邪気に笑ったのは・・・・どれくらいぶりかな)
雄一はふと、子どもたちを大声で怒鳴り散らす美香の顔を思い浮かべた。
つづく
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トラヴィックの話 | 日記
Posted at
2011/08/07 06:42:35