今をさかのぼること15年前の2002年3月。当時のルノー・ジャポンから初代カングーが日本市場で販売開始しました。
このことについて以前ブログに取り上げました。
(参照:
カングー日本導入当時の新聞広告に見るルノー・ジャポンの意気込み )
カングーの導入に踏み切ったのは、FTS戦略の仕掛け人でもある、ルノー・ジャポンの大極司CEOかと信じていたのですが、よくよく調べてみたら、大極氏がCEOに就任したのは2009年のこと。
2002年のカングー導入当時にCEOを務めていたのは、ロベルト・パロタ氏という人物。
≪ロベルト・パロタ氏≫
当時のロベルト・パロタ氏のインタビュー記事を見つけました。興味深いことが書かれてあったので以下引用します。(見やすくするため、一部表記を変えています。)
今年(2002年)投入を予定しているのは、小型乗用車「新型ルーテシア」、小型商用車「カングー」、ハッチバックとワゴンの「ラグナII」、上級クーペ「アヴァンタイム」だ。さらに、2003年には上級車種「ヴェルサティス」も投入する。
輸入車に限っていえば、日本の市場ではハイクラスの方が売れている。ルノーのラインナップに高級車が加わったため、日本市場で展開しない手はない。新車種の投入で販売台数を大幅に引き上げる。
ブランド戦略は変わる。ただ、高級車であっても、「他とは違う斬新さ」や「ルノーらしさ」を訴求ポイントに置くことは、基本的には既存の車種と同じだ。というのも、すでに一定のシェアがある同一クラスの競合車種と同じようなポジションを得ようとしたら絶対に勝てない。高級車に、他とは全く違う新たなカテゴリーを形成していかなければならない。
当面の課題はルノー車のブランドの確立だ。日産自動車との提携で社名の認知度はあがったが、各車種ごとのブランド認知がまだまだ低い。車種名を積極的に訴求していく。
(引用終了)
(引用先:
読売ADリポート OJO(オッホ)2002.4 GLOBAL Interview ルノー・ジャポン代表取締役社長 ロベルト・パロタ氏 ~ルノーらしさをブランド戦略の中核に据え、高級車市場へ参入する~ )
一部だけ引用しました。アヴァンタイムやヴェルサティスといった上級モデルを日本市場に積極的にラインナップに加えることを高らかに宣言しています。現在のルノー・ジャポンの販売戦略でもあるFTS戦略とは大きく違うことが一目瞭然ですよね。
それにしても、ヴェルサティスが日本導入予定だったとは知りませんでした。結局導入は幻に終わりましたが、もしヴェルサティスが計画どおり市販されていたら、どうなっていたでしょうね。かつては25やサフランといったフラッグシップを導入していただけに残念でなりません。
ところで、ル・ボラン(2017年3月号)特集記事「売れ続ける秘密をズバリ直撃! ロングセラーの理由」には、ルノー・ジャポン大極司CEOがルノー・ジャポンの販売戦略のこれまでの経緯について、興味深いことを述べています。以下引用します。
私が現職に就いたのは’09年からですが、率直にいいますとそれ以前のルノー・ジャポンには明確なマーケティング戦略の類は存在していませんでした。
(中略)
そこでルノー・ジャポンとしては完全な戦略の転換を図りました。それまではフルライン化に代表される正規インポーターの王道を行くスタンスでしたが、私自身は日本におけるルノー、あるいはフランス車はニッチ(隙間)な存在という認識でしたから、ニッチの頂点を目指すことにしました。
(引用終了)
ロベルト・パロタ氏はルノー本社から招聘された人物であり、日本市場の特殊性を完全に理解はしていなかったでしょう。
それに対し、ドイツブランドが強いことを知る大極氏は、他と同じ戦略では太刀打ちできないことを十分理解していたので、ニッチモデルを戦略の柱にして打ち出したわけです。言わずもがなですが、FTS戦略こそニッチ商法そのものですね。
≪大極司CEO≫
ル・ボラン誌の記事を読み進めていくと、2002年当時のカングー日本導入について興味深いことが書かれてありました。以下引用します。
現地法人を作るなら日本にマッチしたフルラインナップを揃えるのは当然だろう、と。そこでまず、ルノーのどのモデルが輸入できるかを検討してみるとカングーが条件に合致することがわかりました。初代カングーには、当時から右ハンドルのAT仕様が存在していたからです。
カングーは幅広い用途を想定した商用車ですから、欧州の各市場向けに豊富なバリエーションがあります。その中にスウェーデンの郵便配達仕様があったのですが、それが右ハンドルのATだったのです。スウェーデンは左ハンドル圏ですが、配送の利便性を考慮した結果この組み合わせがまとまった台数でオーダーされていて、それをベースにすれば日本にも輸入できる、と。
つまり日本導入モデルのフルライン化という話が最初にありきで、カングーが人気車になるという確信、あるいは明確な戦略があって導入が決定されたわけではないのです。
(引用終了)
他国向けにすでに右ハンドル&AT仕様が存在したからこそ、カングーが日本市場向けに導入されたのは必然だったと言えそうです。
右ハンドル&ATのスウェーデンの郵便仕様が日本仕様のベースだったとは! カングーオーナーさんの間では常識なのかもしれませんが、ルノー事情に疎い私にとってまったく知りませんでした(^_^;)
スウェーデンの郵便仕様のカングーってどうなんだろう。とても気になったのでスウェーデンまでちょっと旅に出掛けてみましょう。
≪画像は拝借しました。≫
すぐ見つかりました! 彼の地ではたしかに右ハンドルのカングーが採用されているよう。ボディカラーがイエローなんですね!
カングー日本導入に際して、右ハンドル&AT仕様は存在していたわけで障壁はなかったように思います。でも、カングーという商用モデルを日本市場にどのように売り込んでいくか、相当検討されたことでしょう。
2002年3月日本導入当時のカラーバリエーション。
ボディカラーではあえて商用車らしさを消していることがわかります。これらのカラーと日本車にはない新鮮なボディスタイルが却って興味を惹いたのかもしれませんね。
最後にまとめると、カングーが日本市場に導入されたことは右ハンドル&AT仕様が偶然存在したに過ぎず、明確な販売戦略はなかったということです。
そのカングーが現在のルノー・ジャポンの主力の一つになろうとは、当時の首脳陣は当然予想などしなかったでしょう。今の売れ行きをどんな思いで見ているのかということはとても興味があります。
Posted at 2017/02/15 22:42:07 | |
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ルノー | 日記