動植物は何十億年も、嵐で傷んだ木々は新しい技を生やし、動物の切傷は自然と治る。
都市も自己修復できる様になれるだろうか?(第13章 持続・・都市を自己修復するテクノロジー)
舗装道路の
アスファルトコンクリートはアスファルトに砕石を加えた液体と固体の複合材料で、石の強さと固さがアスファルトの上を走る車の重量を支え、且、むき出しによる損傷に道路が抗えるようにしている。
道路に過加重が加わり亀裂が生じると、液体のアスファルトが砕石間に流入し亀裂を塞ぎ白己修復する。
しかし、道路もいずれ古くなって傷みだす。気温が20℃以下では液体アスファルトの粘性が高まり、亀裂に流入修復できない。又、時間経過につれ空中の酸素がアスファルト表面の分子と反応し特性が変化して粘性を高め亀裂を塞ぐ力を奪っていく。時間経過と共に路面の色が変わったり流れにくくなり、小さな窪みができ対処を怠れば次第に大きくなり、遂には路面がすっかり傷む。
オランダの工学研究グループが、
鋼鉄の微小繊維をアスファルトに混ぜる効果を調べている。交番磁界をかけると、鋼繊維に電流が流れ温度が上がり、この鋼熱がアスファルトを熱してその部分の亀裂を塞ぐ。道路の機械的特性に影響無く、アスファルトの自己修復機能が強化されるうえ、冬の低温への対策にもなる。
オランダでは現在、走りながら道路に磁界をかける特殊車両を使い、高速道路の一部区間でこの技法を試験中だ。将来、この様な装置をどの車両にも取付け、道路を走る誰もが道路の蘇生に一役買う様にと目論まれている。
アスファルトの流動性を維持するには失われる揮発性成分の分子を補充する事で、路面に特殊なクリームを塗る。アルバロ・ガルシア博士率いるノッティンガム大学のチームが試験中で、彼らはアスファルトにヒマワリ油の微小カプセルを混ぜる。無傷のカプセルは、アスファルトに亀裂ができると壊れて油を放ち周りのアスファルトの流動性を高め、流れて自己修復する機能の発揮を促す。
彼らの研究によると、亀裂の入ったアスファルト試料はヒマワリ油が放たれてから2日後に元の強度を取り戻した。この成果は大きい。推定では、この機能を用いると道路の寿命がわすかなコスト増で12年から16年に延びる。
*アスファルトは化石燃料の重油からガソリン等石油品抽出後の残存物質(ピッチ)で、高温で液体,低温で半固体となり道路舗装用アスファルトコンクリート(骨材(砂利や砂、一部融解スラグ等)やフィラーを混合接着)で使用される。
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『Liquid 液体』 マーク・ミーオドヴニク (著), 松井信彦 (翻訳)
初版2021年4月20日『タイム』紙による英国で最も影響力のある科学者100人に選ばれたほどの著者の本。
身近にありながら意識することの少ない液体材料の話など科学に興味のある人間にとっては面白い内容が詰まっています。ユーモアを交えながら飲料としての液体、燃料としての液体、地球の核やマントル、ゴムやジェル等「粘弾性」、ボールペンのインク、接着剤、染料、ディスプレイの表示物質としての液体などなど、難しくなりがちな分子工学的な話をかみ砕いて解説してくれます。
Liquid液体 この素晴らしく、不思議で、危ないもの