さて,いよいよブレーキ性能比較をしてみます。
といっても,式の計算ばかりではイメージしにくいので,YZサーキット東コースの1コーナー進入を事例に検討します。
ブレーキはご存知のように,走行している車を止める装置ですが,エネルギー的に言えば,車の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する装置と言えます。
ここで言う熱とは,パッドとローターの摩擦熱です。
運動エネルギーが熱エネルギーに変換されることにより,運動エネルギーは小さくなり,車速が下がるということになります。
**********以下計算内容なんて見てられないよって方は飛ばして頂いて結構です。********
まずは,運動エネルギーを求めます。
運動エネルギーE=0.5×M×v^2です。ここで,Mは車重[kg],vは車速[m/s]です。
YZサーキット東コースの順走インコースでの実際の走行データを使用します。
ブレーキング直前の車速は
134 km/h です。
(遅いとか言わないでください。(ToT))
計算のため単位を変換すると,
134 km/h = 37.2 m/s です。
ここからブレーキングし,クリップ通過時点での車速は
51 km/h = 14.2 m/s。
今回の計算では使用しませんが,この減速に要した時間は5.6秒です。
S15の車重は
1300kgとします。
ブレーキング直前の運動エネルギーE1 = 0.5×1300 kg×37.2^2 = 900 kJ
クリップ通過時の運動エネルギーE2 = 0.5×1300 kg×14.2^2 = 130 kJ
運動エネルギーの減少量はE1-E2 = 900-130 = 770 kJ
(kJはエネルギーの単位で,キロジュールと読みます。)
この770kJが全て摩擦熱に変わり,ブレーキローターの温度上昇をさせると仮定します。
(実際にはエンジンブレーキとか空気抵抗とかありますが,ここでは無視します。)
次に前輪2つ,後輪2つのブレーキがありますから,その分担を決めないといけません。
そうです。ブレーキバランスです。
軸荷重からすると,前軸:700kg,後軸600kgなので,54:46なんですが,ブレーキングでの前荷重もありますから,そんなにリアブレーキは効かないと思います。
ここでは,仮に
7:3とします。
フロントブレーキは左右ありますから,フロントブレーキ1箇所に加わる熱量Qfは
Qf= 770 kJ×0.7(ブレーキバランス)÷2=
270 kJ
リアブレーキ1箇所に加わる熱量Qrも同様に
Qr=770 kJ×0.3(ブレーキバランス)÷2=
112 kJ
となります。
それではいよいよこの熱が加わったときにローター温度が何度上昇するのか見てみます。
質量mの物体に熱量Qが加わったときの温度上昇Δtは,物体の比熱をCとすると
Q=m×C×Δt
で表せます。これを式変形して,温度上昇Δtを求める式にすれば,
Δt=Q÷m÷C
です。
熱量Qは先ほどまでに計算した
Qf=270 kJと,
Qr=112 kJです。
質量mは,昨日のブログで記載した
ローター重量です。
比熱Cは,ブレーキローターは鋳鋼なので,
0.6 kJ/kgKを使います。
以上より,ECR33のフロントブレーキの温度上昇は,
Δtf=270÷8.5kg÷0.6=53℃
となります。他も同じように計算すると以下のような結果になりました。
今回求めたのは,134km/hから51km/hまで減速した場合,どれだけ温度上昇するかです。当然,ブレーキングする前にはローター温度は200℃とか300℃とかになっているでしょうから,200℃ならECR33フロントブレーキの場合,200℃→253℃になるということです。
計算式からも明らかですが,要するに
「ローターの重量が増加した分だけ,温度上昇は小さくなる」
ということです。
ローター研磨した場合も同様に,研磨により重量が軽くなった分だけ,温度上昇します。
ECR33の場合,1mm研磨で8.5kgが8.1kgになり,4%重量が軽くなりましたが,温度上昇も53℃から56℃と,4%上昇しています。
しかし・・・S15のリアブレーキは貧弱ですね。。。7:3のブレーキバランスでも97℃も上がってしまうのですから。。。
ここまで読んで頂いて,「じゃぁ,ブレーキローターは何でも重くすればいいんだな?」と思われるかもしれませんが,単純にそうではないんです。
ブレーキローターの質量を上げれば,ローター温度は上がりにくくなりますが,同時に上がった温度が下がりにくくもなるんです。(なかなか冷えない)
そこで,次回は熱くなったローターが冷却されていく過程を説明しようと思います。
Posted at 2011/04/07 00:35:43 | |
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ブレーキ強化(ECR33化) | 日記