2016年のMotoGPは、2015年とは別の意味で非常に面白いシーズンになった。
シーズンプレビューのブログで書いた通り、2016年の大きな変化はミシュランへのタイヤの変更と、共通ECU導入だった。結果的にこの2つがチャンピオンシップに極めて大きな影響を与えた。各ライダー、メーカーともタイヤやECUに苦労し、様々なコース、シチュエーションで如何に合わせ、パフォーマンスを引き出せたかが勝負を決めた。これが2016年のレースを混沌とさせることとなった。
2016年のMotoGPは全18戦を戦い、史上最多、何と9人ものウイナーが誕生したのだ。
M.マルケス 5勝
V.ロッシ 2勝
J.ロレンゾ 4勝
C.クラッチロウ 2勝
V.ヴィニャーレス 1勝
A.ドヴィツィオーゾ 1勝
D.ペドロサ 1勝
A.イアンノーネ 1勝
J.ミラー 1勝
これは2015年、2014年、2013年と3年連続で同じ4人(ロレンゾ、ロッシ、マルケス、ペドロサ)しかウイナーとなっていないことと極めて対照的である。2009年まで遡っても3人か4人しかウイナーになれなかったのだ。
この混戦を生んだ大きなファクターがタイヤだった。ミシュランは復帰初年度とは思えない良いパフォーマンスのタイヤをサプライしたが、フロントの過渡特性が悪く、特にグリップ限界が分かりにくいことが多くの転倒を生んだ。2016年の転倒回数のランキングは以下のようになっている。この転倒回数は決勝だけではなくフリープラクティスでの転倒も含んでいるが、転倒回数を見るとホンダライダーのクラッシュが多い。
ライダー(メイクス) 転倒回数
C.クラッチロウ(ホンダ) 26回
J.ミラー(ホンダ) 25回
M.マルケス(ホンダ) 17回
A.イアンノーネ(ドゥカティ) 13回
J.ロレンソ(ヤマハ) 11回
D.ペドロサ(ホンダ) 10回
A.ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ) 6回
M.ビニャーレス(スズキ) 5回
V.ロッシ(ヤマハ) 4回
MotoGPにおける転倒回数は毎年徐々に増えているのだが、2016年は特に多かったと言える。
2016年: 288回 (18戦) / 1戦平均16回
2015年: 215回 (18戦) / 12回
2014年: 206回 (18戦) / 11.4回
2013年: 205回 (18戦) / 11.4回
2012年: 186回 (18戦) / 10.3回
2016年は天候が不安定なレースも多かったのは要因の一つだが(4戦/18戦がウェットレース)、
ドライのレースにおいてもクラッシュが多かった。また、転倒のほとんどがハイサイドではなくフロントからのローサイドだったことを考えれば、電子制御の問題よりはタイヤのキャラクターが影響を及ぼしていたと言える。このように各レースとも何が起こるか分からない、誰が勝ってもおかしくない、というのはある意味レースが非常に興味深いものになったと言えるが、チャンピオンシップという点ではシーズン半ばにして大勢が分かってしまったというのは興を削いだろう。しかし、全体的にラップタイムが拮抗し、随所でシビれるようなバトルが多く展開された昨シーズン、非常に面白いレースが多く最高のシーズンの一つとなったのは間違いない。
2016年のチャンピオンとなったのはM.マルケス。シーズン前のテストでホンダの苦戦が確実なものであると分かっていたが、勝てないレースでも確実にポイントを稼ぐことで夏には圧倒的なポイント差を稼いでチャンピオンとなった。シーズン序盤のホンダは特にコーナー立ち上がりでのトラクションに大きな問題を抱えており、レースを観ていても加速で他車に置いていかれる場面が多く、故にトップスピードも伸びないという状況だった。しかしその状況にも関わらずマルケスの類い稀なセンスと努力(そして幸運)で第2戦、第3戦と連勝、対照的にロッシとロレンゾはそれぞれ1度転倒。それ以降も勝てるレースでは勝ち、勝てないレースで表彰台を逃しても4位、5位に踏ん張るというレースを続け、2016年でノーポイントで終わったのはチャンピオンを決めた後のオーストラリアGPただ一つ。(フランス、マレーシアでも転倒したが、再スタートしてポイントを獲得)
こうしてチャンピオンシップ2位のロッシに50ポイント近くの差を付けてチャンピオンとなった。2013年、2014年とチャンピオンになった時はホンダのマシンがアドバンテージを持っていた。しかし2016年はマシン的には不利(少なくとも序盤は)な中、ライダーで勝ち取ったチャンピオンと言える。
ランキング2位となったロッシは4レースでクラッシュ。それ以外ではほぼ全てのレースで優勝争いに絡んでおり表彰台に登るシーズンだったが、2回しか勝てなかったことで分かる通りレース後半において競り負けることが多かった。また、ポールポジション獲得が2回だけだったことからも速さも一歩譲るところがあっただろう。
3位のロレンゾは随所で速さを見せたが、3レースでクラッシュ、さらに完走しても10位以下に沈んだというレースが3レースもあった。ロレンゾの繊細なライディングにマッチするタイヤ、セッティングが出来るかどうか(そしてフロントタイヤに自信が持てるかどうか)によって非常にムラの大きなシーズンだった。特にウェットでは本当に前年のチャンピオンかと思うほど酷いレースも多く、ロレンゾ自身も自信を失うほどだった。しかしセッティングが決まった時の純粋なスピードはマルケスも敵わない今でも最速ライダーの一人だ。
それ以外のライダーで躍進したのはC.クラッチロウだろう。ウェットのチェコ、ドライのオーストラリアで2勝を挙げたイギリス人は第6戦のイタリアまでは転倒ノーポイントが3レース、それ以外も16位、11位、11位という散々なレースで全く良いところがなかったが、ミシュランの改善、電子制御のセッティングが進むと徐々に速くなり、第12戦のイギリスから新フレームに変更してさらにスピードを発揮しランキング7位、サテライトライダーのトップでシーズンを終えた。ホンダのトラクション不足に苦労して不調だったペドロサに代わって実質的にホンダのNo.2ライダーだった。
マシンの点ではシーズン序盤から後半にかけて開発が進んだマシンと伸びなかったマシンで差がついた。ホンダが序盤の不調から開発が徐々に進んだのに対し、ヤマハ、スズキは後半戦では苦戦することになった。ホンダは1次旋回でのアドバンテージがあったのに対して立ち上がりのトラクションが課題で、後半戦はそこが改善された一方、サテライトへ共有された新型フレームではフロントのフィーリングも向上したらしい。ヤマハは旋回性とトラクションのバランスに優れていたが、相変わらずトップエンドの伸びは課題だった。エンジン開発が凍結されている現在、シーズン途中でトップスピードを伸ばすのは至難の技で、今シーズン一番開発が進まなかったマシンと言えるだろう。スズキはヤマハに近いキャラクターで優れた旋回性とコーナリングスピードは最速と言われたが、タイヤへの依存度が高く、コースやタイヤのマッチングによってはスピードが発揮出来なかった。ドゥカティはシーズンを通してトップスピードと良好なトラクションによる立ち上がり加速が大きなアドバンテージとなったが、2次旋回に大きな課題を抱えており高速コーナーやロングコーナーが多いレイアウトでは苦戦。また、ウイングによるダウンフォースを多く利用したこともあって切り返しが多いレイアウトではライダーが体力を消耗しレース後半のペースに課題を抱えていた。
一方サテライトのドゥカティは型落ちながら全体的に速かったのが印象的で、これは共通ECUを数年以上使うことでセッティングが煮詰まっていたことが要因ではないかと思う。ホンダ以外でシーズン後半で開発が進んだのはアプリリアで、序盤はサテライト・ドゥカティにも敵わない状況だったが後半ではエンジン、シャシーとも開発が進んで戦闘力が上がってきていた。
5メーカーがファクトリーチームを送り込み、随所でバトルが繰り返され、9人ものウイナーが生まれた2016シーズンは将来クラシックと呼ばれるシーズンの一つになるのは間違い無いだろう。そして2017年からはKTMも参戦し6メーカーのファクトリーチームによるさらに激しい戦いになる。
Never Say Never in MotoGP
Posted at 2017/02/19 13:07:27 | |
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