• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

ノイマイヤーのブログ一覧

2016年06月24日 イイね!

1990年式デリカ・スターワゴンLINKS感想文

●いま三菱と暮らす

2016年の黄金週間前に端を発した燃費偽装騒動。
さらに突然の買収劇は世間を驚かせた。
そんな時期に友人N氏が海外へ輸出されかけたデリカスターワゴンを保護したとのことで
光栄にも長期間レンタルしていただける運びとなった。
2週間ほどこのクルマと生活を共にした。



2代目デリカスターワゴンはモデルライフが1986年~1999年(日本)と
私が物心つく頃から成人するまでの間に売られて車で、
どこに言っても見かけることが出来たクルマだった。

とくに4WDモデルはモデルライフ途中でディーゼル車にATを追加し、
アウトドアブームの時流に上手に乗れたことで
販売台数を伸ばしたため、後継車であるスペースギアが
発売された後も根強い人気に押されて併売されるようなモデルだった。

街中でグリルガードをつけ、リアにはラダーを付け、
「熊出没注意」とか「OFF ROAD EXPRESS」のステッカーを
バックドアガラスに貼り付けたデリカスターワゴンを数多く見てきた。
当時は都会で4WDなんて無意味、なんて声もあったが
当人たちは耳を貸さず、デリカスターワゴンの
本格的なオフロード性能をファッションとして楽しんでいたように感じる。



時々、京都南部の木津川の河原に行くとアウトドアを楽しむ
パジェロやランクルに混じってデリカスターワゴンを良く見かけた。
1BOXカーでありながら河原を不自由なく走れて
カッコがつくモデルの代表はやはりデリカだった。
(子供の頃、川を渡ろうとしてスタックして救援されているデリカを見た)
ライバルのタウンエースやバネットも4WDモデルを持っていはいたが、
世代を追うごとにオフロードイメージよりも生活4駆としての性格を強めていった。

モデル末期の2000年頃、ブームとしてのRVブームも終焉を迎えつつあり、
デリカはすっかり時代遅れの車になっていた。
当時、入り浸っていた2ちゃんねる掲示板では「嫌いな車スレ」では
デリカが上位にランクインしていた。
「背が高くて前が見えない、邪魔」「黒煙だらけの排ガスが汚い」と
街でよく見かけたデリカスターワゴンを叩く声を良く見かけた。
それくらいデリカが街にあふれていたと言うことだ。

2007年、FFベースのD:5がデビューしたが、初代スターワゴン、
スペースギアから続くタフネスさを魅力と感じるファンが
現在までデリカブランドを支えてきた。
我が家でもD:5はライトエースノアの買い替え候補になったが、
やはりデリカといえば2代目スターワゴンがすぐに目に浮かぶ。

1994年当時、我が家は日産バネット・セレナを愛用していた。
1991年に弟が産まれて5人家族となりスターレットでは手狭になったのだ。
3列シートにしようと決めたのだが、
1BOXはクラッシャブルゾーンがないので避けたいし、
バンみたいな見た目もかっこ悪い。
エスティマはかっこいいが3ナンバーで高過ぎる。
シャリオは狭くて埼玉への帰省の荷物が載らない。
そんな理由でデビュー直後のバネット・セレナを購入した。
その後、我が家は2000年にはライトエースノアを購入し、
2007年にはステップワゴンに買い換えて現在に至っている。

●多人数乗車=1BOXだった時代

三菱の代表的な1BOXカー、デリカ。
デリカのスリーサイズは4285×1690×1955とコンパクト。
5ナンバーサイズの大衆車クラスのランサークラスで
当時の1BOXの標準的なサイズだ。




四角い箱だが、プロジェクター式ヘッドランプや台形のリアコンビランプは
充分に個性を発揮している。
試乗車は1994年モデルだが、基本は1990年にフェイスリフトを受けたモデルと同一だ。

2WD最上級グレードのみバンパーも大きかったが、
グリルガード無しの2WDに採用が拡大されて前期モデルよりも表情がついた。
LINKSはグリルガードがないため乗用車然としている。
また、ブルー×シルバーの2トーンカラーだが
これも90年代の乗用車の流行そのものである。

1994年といえば、既にエスティマ、バネットセレナ/ラルゴが世に出ており、
デリカ自身もスペースギアを世に出している。
ミニバンが1.5BOXスタイルへと変貌を遂げる過渡期であった。

単純に全長と室内長のスペース効率で考えれば
キャブオーバータイプの1BOXの方が有利である。

デリカを始めとする1BOXカーは商用車も兼ねているため、
スペース効率を最大限に重視することは必須であった。
RVブーム前夜はこの手の1BOX乗用ワゴンは、
商用バンを元に設計し、味付け違いのワゴンをラインナップするのが常識だった。

販売台数を考えれば当然であったし、貨物用途を考えれば
無理なく多人数乗車可能なワゴンは1BOXになるのが普通であった。

今回試乗したデリカは2Lの電子制御キャブ仕様のエンジンとMTを組み合わせたFR車だ。
デリカといえば2.5Lディーゼルターボの4WDという印象がありながら、
N氏は敢えてガソリンのFRという点に惹かれたのだと言う。
エンジンはあのランエボのエンジンと同じルーツを持つ
G63B型「シリウス80エンジン」だ。
1979年にデビューした鋳鉄ブロックを持つエンジンで水冷直列4気筒OHC、
ボアストロークが85×88とロングストロークタイプ、
電子制御キャブレター採用で最高出力91ps/5500rpm、
最大トルク15.4kgm/3000rpmという非常に大人しい特性が与えられている。
ちなみに10モード燃費は9.7km/Lであった。

多人数乗車を基本とするデリカには華々しい最高出力は必要ないが、今回試乗した1994年頃ではいささか旧式に過ぎるという印象は拭えない。

サスペンション形式も1BOXの定石ともいえる
Fr:トーションバー式ダブルウィッシュボーン/Rr:リーフ式リジッドアクスルであった。
スペース効率とタフネスさを考えると最善の選択ともいえるが、
乗用ワゴンのみRrを5リンク式のコイルばねを採用するモデルがある一方で
デリカは潔ささえ感じた。

つまり、デリカスターワゴンLINKSに採用されているメカニズムは
1994年当時としてはパワートレーン/シャシー共に
時流に対して若干遅れ気味ともいえる立ち位置であった。
むしろ、1980年代の一般的な乗用1BOXカーを体験させてくれる
タイムマシーン的な1台と考えるのが良いのかも知れない。

さて、デリカスターワゴンLINKSに乗り込んでみたい。

H11系ミニカがクルマ原体験の私にとって懐かしいキーでまず興奮する。
安定感のある台形のキーで開錠し、ドアアウトサイドハンドルに手をかける。
手が30年前の記憶を覚えていた。「ミニカと同じ感触がする」
画像検索で見てみるとどうやら類似した形状をしていた。
デリカとH11ミニカは登場年が近く、流用していた可能性は高い。



ドアを開け、デリカに乗り込むためには右足をステップに、
右手をAピラーのアシストグリップにかけて
「どっこいしょ」という掛け声ともによじ登らなければならない。

なぜならばデリカの運転席はFrタイヤとエンジンの直上にあるからだ。

「トラックみたい」
現代人なら口をそろえてこういうだろう。
事実、会社の人や妻を最初に乗せると驚かれた。
どうやって乗るのか?と真面目に尋ねられることもあった。
熱狂的なデリカファンやキャブオーバー型1BOXカーのファンなら
軟弱者のそしりを受けかねないが、足腰の弱った
おっさん、おばはんには少々大変かもしれない。



そうして乗り込むと観光バスのような見晴らしと乗用者的なインパネが広がる。
手触りの良いシート、ソフトパッドのインパネ、
タコつき透過照明式メーター、2本スポークウレタンステアリングなど
当時の小型セダン以上の質感が広がっている。

バンと共通設計ということで空調噴出口などは若干チープさを感じる
(しかしH11系ミニカに似ていて個人的には萌える)が装備内容で
差別化を図っていて実用的には問題ない。

上にも述べたとおりヒップポイントが高く、見晴らしが広大である。
シート位置を合わせるが、ヒールヒップ段差がしっかり取られていて
しかも、足引き性が良い。そして何よりも足元の広さがとても良い。
セダンと違いホイールハウスやダッシュに邪魔されない広大な足元スペースは
キャブオーバー型1BOXならではの美点だ。
その分ペダルは上から踏みつける形になり、ステアリング角はずいぶんと立っている。
チルトステアリングがあるものの、ステアリングをセダンライクに寝かせると
メーターが見えず実用的ではない。



ステアリング自身は運転席の座上センターからの
オフセット量が大きいことが気になる。
特にデミオのような優秀なモデルが存在する現代では気になってしまう。
現行プリウスのようにオールニューのP/Fが与えられても
オフセットしている位なので車を作るうえでどうしてもオフセットしてしまうのだろう。
片手運転するには丁度良いなど諸説あるが、
こういう位置関係は辻褄が合っているに越したことはない。
特にLINKSの場合は1列目が2人乗車だが、グレードによっては
3名乗車のベンチシートがある関係で運転席と助手席の
カップルディスタンスが一般的なセダンと比べて随分と余裕がある。
ドアトリムとの隙関係を考えると、相当外側に座らせているが、
これも変に内側に座らせると乗降性を阻害するのでこれも
キャブオーバー故に仕方ない部分ではある。



2列目シートはコンベンショナルな2人掛けベンチシート+折りたたみ補助席。
特にベンチシートにセンターアームレストが装備されていたり、
ヘッドレストが全数装備されている辺りは豪華だ。
補助席があるのは、3列目へのウォークスルーを考慮した結果と推測する。
デリカのように回転対座が使えて応接間感覚を味わえるという点は
この時代のどのメーカーでも訴求していた。
3列シートは今回は使用できなかったがリクライニングが可能で
タンブル機構でスペースアップが可能であった。
荷物を積む為には跳ね上げ式の方が優れるが、
3人座らせるという意味ではこちらが優れる。

この手のモデルで最も重要なのはエアコンである。
お盆の帰省渋滞でRrの子供がぐずりだすような快適性では
民族大移動を乗り切れない。
特に居住空間が広く、グリーンハウスが広大な1BOXカーでは
空調性能の確保は死活問題と言えた。

デリカも抜かりなくRrにもマニュアルエアコンを装備。
試しに使用してみたが前後ともよく利いた。

●市街地

自宅付近でデリカを走らせる。



乗り込むためには鍵をキーシリンダーに入れて開錠する。
1986年はおろか1994年時点ではキーレスエントリーのようなものは
標準装備されて居らず、高級車や最上級グレードの専用装備位でしか
見かけることはなかった。
集中ドアロックがあるので実用上充分だ。
特にデリカではバックドアロックは集中ドアロックの系統から分かれており、
インパネのシーソースイッチで施錠開錠が出来るようになっている。

クラッチを踏み、アクセルを半分踏み込みながらキーを捻ると
エンジンがかかる。電子制御キャブなので
電子制御式燃料噴射装置のようにキーを回るだけではエンジンは始動しない。

アイドリングはごくごく静か。
調子が悪くなってきた自車よりも快適なアイドリングだ。

経年劣化と思われるギア入りの渋さを除けば
快調そのもので発進は非常に容易だ。

デリカはシンプルなキャブ車なのでワイヤー引きの
スロットル操作に対するエンジンの反応が俊敏でリニア。
だから、繊細な操作を受け付けて繊細に反応する。

ローギアードなので住宅地の狭い路地を走るときでも3速に入ってしまう。
タコメーターは6000rpmまで刻まれているが、
エンジンは低速型なので平坦な市街地なら2000rpm周辺で
次々シフトチェンジして1000rpm~1500rpm位で走るのが丁度良い。

視点が高いし、ボディサイズはコンパクトなので死角が少ない。
スタイリッシュな可倒式ドアミラーは若干天地方向に寸法が欲しいが、
グレードによってはカリフォルニアミラーも選べる。

1BOXカーで注意が必要なのは交差点を曲がるような操舵時だが、
セダンの感覚ではステアリングを早く切りすぎてしまうので、
自分がFrタイヤの直上に座っていることを充分意識して走る必要がある。
最小回転半径は4.5mと相当に小さい。
片側2車線の県道のUターンは得意科目だ。
ただ、ステアリングはスローなので操作量が多く、
ぐるぐるぐるぐるステアリングを回す印象になる。

また、路面状況の悪い道路ではガタガタと振動が容赦なく入る。
乗り心地重視とは言え、あらゆるシーンで1名乗車から
8名乗車までの性能を保証する事を考えれば堅めのセッティングとなるのも無理は無い。
特に運転席が前輪の真上に位置するレイアウト上、最も振動的にきつい位置になる。

例えば主婦がちょっとスーパーへ、ホームセンターへ、ちょっと送り迎え・・・
という使い方を想定した場合は毎回「どっこいしょ」を繰り返す事になってしまう。

●高速道路

週末に妻と高速道路を使って遠出を企てた。
ETCをくぐり、加速車線へ向かうがデリカは
充分な加速性能がある。



60km/hで2000rpm近傍、80km/hで2500rpm近傍、
100km/hで3100rpm近傍を指すようなギアレシオは
車格を考えればローギアードだが、走りっぷりは悪くない。
全開加速も試みたが、充分な加速を見せる。
そもそも、当時のFF小型乗用車の5速でも似たような回転域を使っていて
その意味ではデリカも商品性上問題が無い範囲の回転数だ。
現代のドラビリを無視したCVTのように低回転に貼り付くようなことはなく、
ひたすら右足とタイヤがくっついたようなリニアなMTならではの美点が楽しめる。
エアコンを使用してもさしたる出力低下を感じないのはローギアード故か。

高速道路でのデリカは観光バス感覚が楽しめる。
高い視点が気持ちよく、遠くが見渡せ、
グラスエリアが広いから視界も広くパノラマ感覚。
運転していても充分にその魅力が享受出来る。

例えば伊勢湾岸道の名港付近を夜に走れば右手に工業地帯、
左手に名古屋駅周辺の高層ビル群が楽しめる。

デリカの車高の高さは開放感に貢献しているが、
横風安定性という面ではどうしても不利なのは止むを得ない。
特に開放的な暴風壁がない地域では
車線の中にとどまる為にステアリング操作が常に必要な状態だ。
その傾向は車速が上がるほど強まり、
追い越し車線でセダンに伍して走る為にはそれなりの度胸が必要だ。
スピードメーターは160m/hまで刻まれており、
取扱説明書では4速で150km/hまで引っ張れると記載されているので、
無風状態なら目盛りを振り切れる可能性もあるが、
相当肝が据わった人でなければこの速度域まで到達することは出来ないだろう。

80km/h付近で走行車線を流しながら同乗者と会話を楽しむと、
高い視点が気持ちよく、遠くが見渡せ、
グラスエリアが広いから視界も広く観光バス感覚が楽しめる。
運転していても充分にその魅力が享受出来る。

つまり、目を三角にして追い越し車線で頑張るような性格ではない。

●山道


週末に愛知県の高原道路をドライブした。
国道153号線を長野方面に走行したが、
①信号がなく②適度な山道で③追越し禁止50km/h制限
という快適国道三原則を遵守したこの路線はかつて
スギレン企画でカリーナサーフのドライブでも使用したことがある。

1BOXカーであるデリカもローギアードさを活かして
相当活発に走るポテンシャルを秘めている。
上り坂で登坂車線に避難する様なシチュエーションにはならない。
低速域でのトルクが充分にあるためエンジンスペックから
想像するようなもっさりした走りにはならない。
コーナリングも充分整備されたクロソイド曲線で線形が引かれていれば、
綺麗にカーブをクリアできる。

ただ、重心の高さもありハイレベルなコーナリングを誇るモデルでもないので
下り坂の手前では充分に減速する必要があるし、ブレーキも現代のモデルの感覚としては
少々頼りないのでシフトダウンでエンジンブレーキを強めながら
しっかりと車速を管理して急のつく操作を避けねば、グラリと急に車体が傾いて
同乗者からのクレームを受けることになる。
限界性能としてはまだ先があるが、ビビリミッターが早めに作動する感覚だ。
ヘアピンコーナーではスローなステアリングが災いして操舵量が大きくなり少々忙しい。

別の日には一人で広域農道を運転した。
ギアは5速に入れ、窓を全開にすると気持ちのよい風がキャビンに入ってくる。
少しスポーティな走りも試みたが、良路であれば
ある程度攻め込んだコーナリングも可能だ。
ロールはするもののトルクの厚さを感じながらリズミカルに走ることができた。

一方で、路面がうねっていると大きく振られるので
たとえサスストロークが充分とってあったとしても、
個人的には恐怖を感じるほどキャビンが上下動した。

デリカのような1BOXを綺麗に走らせるには
コーナリング前に充分速度を落とす、
という当たり前の動作を徹底することが必須だ。

●なぜ1BOXカーは3列乗用車の主流から外れたのか

かつての日本では多人数乗車を目的としたモデルは1980年代末までは
キャブオーバー式の1BOXカーであることが多かった。

1980年代にセダンライクなミニバンとして
三菱はFFベースのシャリオを擁していたし、
日産もプレーリーをラインナップしていたが、
1BOXの圧倒的なスペース効率と比較すると、
エンコパの分だけキャビン全長が犠牲になっていた。

足元スペースを犠牲にして3列シートを成立させたとしても、
今度はラゲッジスペースが狭く多人数乗車目的には中途半端だと判断された。

1990年代初頭にはキャブオーバー式1BOXカーの居住性を確保しながら
キャブオーバー式1BOXのネガを潰す車種が多数企画された。

上の試乗記で既に述べているが、
キャブオーバー式1BOXのメリット/デメリットを整理して考えたい。



1990年頃のセダンに対するメリット
1)全長に対する室内が広く効率が良い
2)W/Bが短いので最小回転半径小
3)床が高いので見晴らしが良い
4)運転席足元が広い


1990年ごろのセダンに対するデメリット
1)前輪の直上に座る為、乗降性が劣る
2)上記理由で乗り心地が悪い(揺すられる)
3)全長に対しW/Bが短いので直進安転生に劣る
4)エンジンが1列目席下にあるためにNVに劣る
5)エンジンの真上にシートがある為整備性に劣る
6)クラッシャブルゾーンが短く衝突安全に劣る
7)車高が高く、横風安定性に劣る


まとめて見ると、デメリットの方が多くなってしまった。
先にデメリットについて考えてみたい。

1BOXは前輪/エンジンの真上に運転席を設け、
Frオーバーハングに足元スペースを確保する。
このため、乗降性がセダンと比べると著しく劣る。
ドアを開け、ステップに足を乗せ、アシストグリップで身体を支えながら
「どっこいしょ」の掛け声の共によじ登る。
慣れの問題だが、小柄なドライバー(主に女性)や老人にはハードかも知れない。

また、タイヤの直上という乗員の配置は乗り心地上セダンに劣る。
セダンは前輪と後輪の間に運転席があるため、最も揺れにくい場所に座っている。
前輪の真上は突き上げるような動きや、ブレーキング時のノーズダイブをもろに食らう。
さらに地上からも高い位置に座っている関係でロールに対しても敏感で
ロールさせすぎると乗員が大きく傾き恐怖感を抱きやすい。

またドライビングポジションもステアリング角が水平に対して大きく、
トラックを運転するようにステアリングを抱えるようになることも違和感と言われた。

ホイールベースの短さに関しては、
人間の座る位置(前輪)から足元スペース(=前オーバーハング)が決まる。
また、荷物の積載性を考えると
後のオーバーハングも決まる為、全長に対してホイールベースが短くなってしまう。
最近の例でもマツダアテンザがワゴンとしての積載性を優先して
W/Bをセダンより短縮している例もある。
ゆえに全長が決まればホイールベースが決まるが、デリカスターワゴンの場合、
全長4.2m級ランサーのセダンと比べて200mmほどホイールベースが短くなる。

NVに関しては一般的なFrエンジンのセダンのようにダッシュパネルで
隔てられて乗員の耳と音源が離れている構造と比べると
どうしても不利であることは感覚的に分かりやすい。
事実、今回のデリカスターワゴンもセダンと比べれば
加速時の騒音は大きめであった。

整備性に関してはセダンと比べる顕著である。
フードを開ければ比較的簡単に各部を点検整備できるセダンに対し、
1BOXは運転席or助手席をハネ上げて狭いスペースからしか点検することが出来ない。
しかもキャビン内から作業する為、汚さないように作業しなければならない。

クラッシャブルゾーンという視点も当初は問題にならなかったものの、
1990年代に日本車の衝突安全性能に対する世間の目が厳しくなったことを契機に
鼻が無いからキャブオーバー式1BOXを避けるケースもあった。
事実、過去の1BOXカーは衝突試験をパスすることが出来た事もあり、
比較的安全性は軽視されてきたといっても過言ではない。
ただし、デリカの場合は下面を覘くと強固なY字型フレームが設定されて
衝突安全性に対して配慮もなされているが、安全ブームの中では
鼻が無いだけでフルキャブオーバー式1BOXを敬遠する人も居た。



そしてドライバーを嵩高いエンジンの上に座るように配置すると、
車両の全高が一意的に決まってしまうが、セダンと比べて
横風安定性やコーナリング性能に劣るのは自然の摂理から言っても仕方のないことであった。
また、都市部に見られたタワーパーキングに止められないという弱点があった。

上記のデメリットがありながら、1BOXカーが作られつづけてきた理由は何か?
それはデメリットよりもメリットの恩恵が大きいからに他ならない。
そのメリットとは、スペース効率の高さだ。

一例としてデリカスターワゴンの車体の全長に対する室内長の比率を
同年代の三菱車と比べてみたい。

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
--------------------------------------
3代目ミラージュ(3ドア):1700/3950=0.43
3代目ギャランΣ(H/T):1935/4725=0.41
初代シャリオ:2435/4490=0.54
初代スタリオン:1590/4410=0.36


上記の結果からも限られた車体寸法の中で最大限の
キャビンスペースが確保できる点がキャブオーバー式1BOXの存在意義であった。
特に稼ぐ為のツールとしての車として考えれば、
少しでも荷室が広い方が優れているのは自明だ。
2016年現在でもハイエースやキャラバンというキャブオーバー式1BOXカーが
商用ユースとして残っている理由が分かる。

1986年にデリカスターワゴンがデビューし、
モデルとして円熟味が出てきた1990年ごろは
空前のRVブームを迎え、クロカンと呼ばれていた
トラックペースのフレームつきSUVが持て囃され、
更に多人数でレジャーで出かけられる
3列シートのモデルが注目され始めた。

デリカスターワゴンに限らず、
数多くのメーカーがキャブオーバー式1BOX商用車ベースの
乗用ワゴンをラインナップに持ち、需要に応えていた。
6人以上で快適に移動したい、という要望に沿う乗用車は
1BOXしかない、という状況だが、
徐々に1BOXを検討するユーザーが増え、
更なる3列シート車の拡販を考えるときに、
キャブオーバー式1BOXのネガを潰そうとする試みが
1980年代から徐々に行われてきた。

先にも述べたとおりキャビンが広く取れるFFセダンをベースに
3列シートを実現した元祖ミニバンであるシャリオとプレーリーが1982年にデビューしている。
1988年にはマツダがルーチェのコンポーネントを利用して作った
MPVがデビューしたが、いずれも爆発的なヒットには至っていない。


●セミキャブという思想を切り拓いたエスティマ


そこに一石を投じたのが1990年のトヨタエスティマである。
キャブオーバー式1BOXのエンジンの影響を最小限にとどめる為、
当初は小型高出力の2ストロークエンジンまで研究して
ミッドシップ型低床ミニバンの世界を切り拓いた。



キャブオーバー型1BOXの前輪位置を思い切って車両前方へ追いやった。
こうすることで運転感覚がセダンに近づき、ホイールベースも稼げる。
前方には冷却系やブレーキマスターシリンダーなどの補機類を集約。
更にエンジンを75度傾けて搭載してよじ登る感覚の乗降性を実現した。
特筆すべきは前後ウォークスルーを実現したという事実だ。
エンジンの天地方向のコンパクトさ、3ナンバーの余裕ある車幅を活かして
キャブオーバーでは大きなエンジンルームにより1列目と2列目の距離感の遠さが
気になることもあったが、上記レイアウトにより各列を最適に配置でき、
更に叶わなかった前後席の移動の自由を獲得した功績は大きい。
さらに前:ストラット/後:ダブルウィッシュボーンという
従来の1BOXカーでは考えられないほどの高級な足回りを奢って
セダン感覚、場合によってはセダンを超えるの乗り味が与えられたエスティマは
F1と同じミッドシップ方式の1BOXカーとして大きな注目を浴びた。
先に掲げた計算式によるスペース効率は

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
エスティマ:2810/4750=0.59


スペース効率としてはデリカスターワゴンには及ばなかったが、
エスティマにはセダン感覚の操縦安定性と乗降性、未来的スタイリングが備わった。
ただし、エスティマのデメリットは車体の大きさと専用設計の多さによる価格の高さ
(スタート価格は300万円近傍)が災いして爆発的な普及には至らず、
大衆向け1BOXの主流派はフルキャブ式であった。
エスティマ以降、前輪を前方へ押し出したモデルをセミキャブ式と呼び、
前輪の上に座らせるフルキャブ式と区別した。



大衆向け1BOXカーの変化は1991年の日産がバネットをフルモデルチェンジさせた、
バネット・セレナの発売まで待たねばならない。
セレナはエスティマのようなセミキャブ式でありながら、
旧来のFR方式のエンジンレイアウトを踏襲している。



前輪は前に出しているのでプロポーションはキャブオーバー式1BOXとは
一目見て違いが分かる。エンジンの上に座る感覚は変わらないが、ヒップポイントを少しでも下げようとして1列目シートのクッションが極薄になっていた。

実家の初代セレナで育った私に言わせれば
長時間座るとすぐにお尻が痛くなる残念なシートであった。
前輪を前出しし、ノーズのスペースにテンポラリータイヤ、
冷却系部品を配置できた為にエンジン部分の張り出しは前後方向に縮めることができた。
エンジン部分の張り出しは小さく、特に1列目の足引き性能を犠牲にしたため、
2列目の間のデッドスペースは小さく、全長に対する室内長は大きく採れている。
サスペンションも前:ストラット/後マルチリンクを採用し、
専用部品が多いエスティマほど攻めた設計ではないが、
旧来の1BOXカーとの違いは十分に感じることができた。
また、商用のカーゴモデルも用意し、企画台数を稼ぐことで収益にも配慮したが、
セレナカーゴはスペース効率の悪さが祟り、フルキャブ式のバネットと併売された。

1993年にはセレナの上級車としてラルゴがデビューし、
1995年にはマツダがボンゴフレンディを発売した。
どちらもセレナ式のセミキャブオーバー式1BOXである。
乗降性は改善しないものの衝突安全面や、操縦安定性の面で改善が期待でき
RVブームに乗って順調に販売を伸ばし、1990年代中盤には
フルキャブオーバー式1BOXは旧態依然とした車という見方をされていた。

結婚して家族が増えて、或いは子供とのレジャーや
サッカー少年の試合の送迎に最適なこの手のセミキャブ式1BOXは
引っ張りだこの状況になった。

1990年代の我が家も家にバネットセレナがある事で
親戚一家を乗せてディズニーランドへ行ったり、
家族5人で奈良から埼玉へ帰省したりする場面で3列シートの居住性を
大いに活用していたし、道が狭い奈良の路地では居住性の割りにコンパクトで
最小回転半径が5.2mだったセレナは大活躍していた。

大衆向け1BOXカーがセミキャブ式に移行した1992年、トヨタは
当時としては巨大だったエスティマを5ナンバーサイズに縮小した
エスティマ・ルシーダ、エミーナを追加発売した。
エスティマの革新的なミッドシップレイアウトをそのままに
全長を縮め幅を狭めるというプラットフォーム的には大工事を行った。

さらに、2列目ベンチシートの8人乗りの設定、
普及グレードのRrサスを安い車軸式に変更、
燃料費が安いディーゼルターボ車の設定を行うことで、
大衆向けセミキャブ式に近い価格設定を行い販売台数を伸ばした。

90年代以降、一斉に普及したセミキャブ式であったが、
メリット/デメリットは表裏一体であるがゆえに、
キャブオーバー式から失ってしまったものがある。
それは、①スペース効率と②コンパクトなボディサイズ、
そして③足元スペースの広さ
である。

スペース効率を下記にまとめた。

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
----------------------------------
エスティマ:2810/4750=0.59
バネット・セレナ:2765/4315=0.64
ボンゴ・フレンディ:2815/4585=0.61
エスティマ・ルシーダ:2890/4690=0.61


フルキャブオーバー式1BOXカーは概ね7割のスペース効率を誇っているのに対し、
セミキャブオーバー式は最良のセレナでも0.64と1割ほど効率が悪い。
絶対的な室内長もセミキャブ式は軒並み3000mmを切っている。
前輪を前出しした影響で車両全長も伸びてしまっている。

大きなデメリットは最後に挙げた足元スペースの狭さである。
前輪は操舵を行う為、ホイールハウスは大きな張り出しが必要になる。
フルキャブ式の場合、縦置きエンジンの両脇に前輪があり、
大きなスペースがあるのでタイヤ切れ角を大きくとっても
室内スペースに何の影響もなかった。
ところがセミキャブの場合、張り出しが
そのままキャビン足元スペースを圧迫してしまうのだ。
ホイールベースが伸びた分タイヤ切れ角を大きくしようとしても、
1列目フロアスペースを食ってしまう為、タイヤ切れ角にも限界があった。

右ハンドル車の運転席で考えると、右足が自然に存在する位置には
ホイールハウスが陣取っており、アクセルペダルは左側、車体中央に追いやられる。
このため、不自然なドライビングポジションを強いられる。
特にエスティマ系以外のセミキャブ車(具体的には我が家のバネットセレナ)は
エンジンが大きく、室内長を取る為にフルキャブ式よりも
エンジンが前配置されており足引き性が非常に悪かった。

前輪を前出しする「セミキャブ化」によって
フルキャブのネガを改善したが、
エスティマ以外のモデルでは
嵩高いエンジンの上に座ることによる
乗降性のデメリットは消えずじまいであった。

●セミキャブFRと悪路走破性で勝負を挑んだスペースギア

パジェロが絶好調で勢いのあった三菱は
1986年のデリカスターワゴン発売から
8年後の1994年、後継モデルであるスペースギアを発売した。
従来型からの好評点だったタフさをそのままに
当時求められていたセミキャブ化を実施した。
スペースギアは前輪だけではなく
エンジンをも前出しし、完全なFR車となった。





いわばボンネットバスのようなパッケージングを採用したのだ。
好評点である土臭さはそのままにセダン的なレイアウトを採用し、
衝突安全性を向上させ、運転感覚やステアリング角度などをセダンに近づけた。
デリカスターワゴンといえばパジェロ譲りの悪路走破性と
タフなイメージを連想させるが、外観面ではグリルガードの存在が大きい。
実はこのグリルガード対応バンパーは全長がいたずらに伸びることを避ける為、
短めのバンパーと組み合わされている。
一方、今回試乗したリンクスでは大型バンパーが採用されており、
中にはクラッシュボックスが仕込まれており衝突安全性は後者が優れる。
今回のフルモデルチェンジではそうした劣勢を跳ね返すべく
存在感のあるフロントセクションに構造部材を配置している。

FR化のメリットはエスティマのように
大きな投資をする事無く床をフラットに出来ることであり、
エスティマのように前後ウォークスルーを実現した。
床がフラットなのでキャブオーバー式では広くはなかった
2列目足元のスペースを大きく確保できた。
その分、2列目の位置を前出しして実質的な居住性を確保できる。
室内長は当時のライバルと比べると

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
----------------------------------
デリカスペースギア標準:2915/4730=0.61
デリカスペースギアロング:3050/4995=0.61
----------------------------------
エスティマ:2810/4750=0.59
バネット・セレナ:2765/4315=0.64
ボンゴ・フレンディ:2815/4585=0.61
エスティマ・ルシーダ:2890/4690=0.61


スペース効率ではセレナに劣るものの、
他のセミキャブ競合車と同等の数値を確保している。
特にスペースギアでは荷室スペースが
十分にあるロングボデーもラインナップに加えて
積載性や室内長に拘る1BOXユーザーにも訴求した。

ただのFRミニバンというだけではMPVも既に世の中にはあったが、
デリカスターワゴンの悪路走破性を引き継ぎ、
フラットフロアを実現し、結果的に高い位置に座らされるが
これをも「スターワゴン譲りのアイポイントの高さ」と解釈して
従来のセミキャブとは違うパッケージング形式として世に問うこととなった。

エンジンの上に乗員を座らせるタイプよりもフラットなフロアが
手に入るという特徴はボディを商用車と共用せざるを得なかった
ミニバンに対しては大きなメリットであった。
デリカスペースギアも商用車バージョンをラインナップしていた。

デリカスペースギアは硬派なアウトドア志向のユーザーに受け入れられ、
更にハードなユーザー向けにフルキャブオーバー式のスターワゴンも
併売されていたが、大多数のミニバンを欲しがるユーザーは
多人数乗車できるミニバンとしては少々マニアックに過ぎると判断し、
積極的には選ばなかった。
アウトドアというライフスタイルは継続して人気ではあったが、
昔と比べてデリカやパジェロほどのオフロード性能がなくても
十分楽しめるように敷居が低くなっていた為、
エスティマやボンゴフレンディでも十分にアウトドアレジャーが楽しめた。
3列シート車を欲しがる一般ユーザーは圧倒的な見晴らしよりも乗降性を選んだ。

アウトドアユースには最適の個性的な車ではあったが、
個性的ゆえにクラスの覇者にはならなかった。

ところが、フラットフロアのFRミニバンスタイルを実現した
スペースギアのメリットを理解し、学んだメーカーが他にあったのだ。

それはエスティマを開発したトヨタ自動車だ。
トヨタは理想主義を掲げて乗用車専用のエスティマを世に問うた。
革新的なメカニズムは大いに賞賛されたが、流用が利かず
投資の嵩むこのシステムは非効率であった。
エミーナ・ルシーダを開発して多少は元を取ったが、
エスティマシリーズのほかは乗用/商用兼用の
ハイエース、タウンエース、ライトエースといった
旧態依然としたフルキャブオーバー式1BOXをラインナップしていた。



1995年のグランビア、1996年のライトエース・ノア/タウンエースノア、
1997年のハイエース・レジアスはデリカスペースギアに倣って
立て続けにFRを採用し、全てに商用モデルを設定した(グランビアの商用は輸出のみ)。
これらのモデルは構成部品の多くをフルキャブオーバー式のモデルと共用しながらも
前輪を前出しし、ホイールベースを延長し、ウォークスルー可能な3列シートを実現させた。
そもそも欧州法規を満足させる為にハイエースをセミキャブにする必要があった為に、
一気に共通の設計思想でここまでのフルラインナップを完成させた。
しかも、フロアは強度上許されるまで極力低く抑えて乗降性を確保した。



これらトヨタのFRミニバンをまとめると

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
デリカスペースギア標準:2915/4730=0.61
----------------------------------
エスティマ:2810/4750=0.59
グランビア:2910/4715=0.61
ライトエース・ノア:2605/4435=0.58
ハイエース・レジアス:2930/4695=0.62
----------------------------------
ハイエース:3245/4615=0.70


このように数値で見るとまだまだ圧倒的にフルキャブオーバー式が
有利でありながらも、地道な改良を続けて貨客兼用のパッケージを踏襲した。
特に1列目シートの配置をギリギリまで前出しを行い、
トーボードをエンジンルームに食い込ませることで実質的な室内長を確保。
2000年に我が家では9年乗ったバネットセレナからライトエースの後期型に買い換えており、
セレナと比べてシートや装備が遥かに良くなったことに満足していた。
室内スペースもそれほど狭くなったとは感じず、世代の変化を感じられた。
(ただし、商用車然とした角のある乗り心地と燃費は満足できなかった)

トヨタはこの手の3列シート車が増えると見ると、うまく投資を抑えつつも
コロナクラス(ノア)、マークIIクラス(レジアス)、クラウンクラス(グランビア)に
きめ細かく車種を設定してセダンからの乗り換えを促した。

一方でうまくいかなかったのが商用ユースである。
欧州ではグランビアの商用版をハイエースとして販売。
日本には3ナンバーサイズのバンの市場がないため、
ハイエースバンの代替を目指してハイエースレジアス・バンを設定したが、
市場からはの反応はからっきしであった。
ビジネスユースを考えれば積めるのと積めないのでは大違い。
荷室長拡大を狙って折りたたみ式の助手席を採用したものの、
理解は得られず、結局ハイエースはフルキャブオーバーとして残ることとなった。

タウンエース/ライトエース・バンは2000年代後半まで生き残った後、
クラスチェンジを実施し、軽以上、ボンゴ未満のポジションに疎開した。
(ある意味ミニエースになったとも言える)

実は他社でも状況は似たり寄ったりで、日産はバネットの商用車仕様を
セレナカーゴとマツダボンゴのOEM版の二本立てとするも、
結局後者が残った。三菱も然りである。

1990年代後半の時点で乗用車ユースとしてはセミキャブ化は受け入れられたが、
商用車ユースとしては失敗に終わった。

●割り切りで乗用化を加速させたステップワゴン


3列シートのミニバンは従来は貨客兼用が当たり前で、
ラインナップの中に商用モデルがあり、
これにより乗用車らしい雰囲気を出すことが難しい側面があった。
1980年代まではトヨタ・日産・三菱・マツダが
このような貨客兼用の1BOXカーを販売していた。

1990年代に入り、1BOXカーのセダン化が進んで行く中で
苦しい経営状況だったホンダは1994年にオデッセイという
スマッシュヒットを放った。

いわば三菱シャリオなのだが、当時モデルチェンジしたばかりの
アコードをベースに、3ナンバーながら受け入れられやすいサイズと
十分な性能を武器に危機的だったホンダを救った。

資金的な都合で大きな投資が出来ず、できるだけアコードの設備を使って
生産できるように、という制約も相まって、
当時の日本市場が必要としていた車を送り出すことが出来た。

ホンダが次に目をつけたのは5ナンバーの3列シートミニバン市場である。
1995年、東京モーターショーでF-MXとして発表され、
1996年に発売されたステップワゴンだ。
FRのプラットフォームを持たないホンダは持ち前のコンポーネンツを
うまく使い、FFで3列シートのミニバンを完成させた。



見た目はスペースギアやセレナのようなセミキャブミニバンスタイル。
しかし、駆動系がないため低床でステップワゴンという名前のわりに
乗降用ステップすらない掃きだしの低床フロア。
内外装はポップなセンスで統一され、高級感は無いが
楽しげで若々しさがあった。

走りのホンダ、という旧来のファンを絶望させるのに十分なほどヒットし、
町中にステップワゴンがあふれた。

上に書いたタウンエースノア/ライトエースノアと
ほぼ同時期にデビューしている。
当時の雑誌ではトヨタはFRを採用することでトーボードを深くして
広さではステップワゴンに負けない、とアピールしていたが、
スペース効率を比較すると実はステップワゴンの方が優れていた。

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
デリカスペースギア標準:2915/4730=0.61
----------------------------------
ステップワゴン:2730/4605=0.59
ライトエース・ノア:2605/4435=0.58


敢えて貨物仕様を作らない、多人数乗車に徹した乗用車という意味ではオデッセイと同じだが、
5ナンバーサイズでしっかり8人と荷物を積めるので、
本格的なピープルムーバーとしては画期的なモデルであった。



すぐにステップワゴンはトヨタのノア兄弟、セレナと共に
ミニバン御三家と呼ばれて「結婚して子供が出来たら買う車」リストの上位入りを果たした。
1996年というのは、大衆セミキャブを切り拓いたセレナ、貨客両用を目指したノア兄弟、
そしてFFのステップワゴンの登場というエポックメイキングな年であった。
(ちなみにデリカスターワゴンも継続販売中)

FF化の流れにすぐに追随したのは日産であった。
1998年、ラルゴと統合する形で乗用車専用の
ミニバンとしてセレナをフルモデルチェンジさせた。

2001年にはトヨタもタウンエース・ノア/ライトエースノアを
フルモデルチェンジし、ノア/ヴォクシーを発売した。

これによりミニバンFF化の流れは決定的となり、
商用車はフルキャブ型として独自の進化を遂げ、
トヨタハイエース、マツダボンゴが市場を独占し、
多人数目的の乗用車としてFFのミニバンが市場を席巻した。
(現代では日産NV200のようにFFの商用バンも生まれている)

いままでの3列シートのミニバンは小型セダン並みの全長で
3m「以上」の室内長を誇っていた。
FFになったミニバンは全長を伸ばして3m「近い」室内長を確保している。
思想的には若干後退したが、20年に亘る進化の過程でユーザー自身も馴れてしまった。

●ファンを大切にしたデリカは時代が変わっても残った。

三菱が再び動き出したのは2005年。
デリカの次期モデルを暗示しつつ、
2007年にデリカスペースギアをフルモデルチェンジさせ、
デリカD:5というネーミングとなった。
当時はエンジンは横置きながら駆動方式は4WDのみ。
アウトランダーの設計を最大限応用しながら、
アウトドアイメージあふれるミニバンとなった。



デリカスペースギアがミニバンのパジェロというなら、
デリカD:5はミニバンのアウトランダーである。

デリカユーザーといえばアウトドアが大好きで、
悪路走破性の高さを誇りにしてきた。
だからこそFFベースとなったことによる弱々しいイメージを嫌ったのか
ユーロミルホー・リスボン~ダカール2007にてパジェロのサポートカーとして
コースを走らせてタフさを実証した。



2012年には待望のディーゼル仕様車を追加したことで、
デビューから9年が経とうとしているが、
ディーゼルエンジンを積んだ悪路に強い多人数乗車可能な乗用車は
デリカD:5以外になく、旧来のファンにも振り向いてもらえる個性を身に着けた。

●あとがき

最初、デリカスターワゴンを貸していただいて、
このクルマと二週間暮らした。
今では当たり前の3列ミニバンの元祖とも言える
フルキャブオーバー式のミニバンは
運転感覚が独特でセダンと比べると
走りの面に苦手分野がある一方、
全長の割りに室内が広く、市街地の取りまわりもしやすい。
何よりも見晴らしの良さが決定的だった。

1980年代当時はまだまだセダンが主流であり、
多人数乗車可能な1BOXは特殊な車型であった。
だからこそ貨客兼用のプラットフォームを持つことで
生産規模を確保できたからこそ多人数乗車のニーズに応えていた。
当時からセダンライクな3列シート乗用車が模索されたが、
キャブオーバー式のスペース効率の高さから離れることは難しかった。

1990年代中ごろまでは貨客兼用のプラットフォームを持った
セミキャブ式1BOXカーが市場に多く表れたが、
1996年のステップワゴン以降、貨物ユースを切り離した
FFの1BOXという発想の転換を経てセダンライクな1BOXミニバンの
がパッケージングは各社とも一定の収束を見せた。

私の親は20年かけてバネット・セレナ、
ライトエース・ノア、ステップワゴンを
乗り継いでおり、ミニバンの進化を身をもって感じてきたつもりだが、
今回、デリカスターワゴン乗ることで、前史をも知ることができた。
子供の頃、NHKスペシャルでドイツで起こった初代デリカスターワゴンの
事故の話、ADACがキャブオーバー型1BOXの衝突試験を行い
日本車が酷評されたことを思い出した。
(デリカはFMCして対策を実施、という内容だった)
1991年当時の我が家が新車を選ぶ際は
フルキャブ車ではなくセミキャブのバネット・セレナを選んだのも
時代の空気だったし、私もそれが最善だと信じて疑わなかった。

2016年5月、各種報道で三菱自動車の燃費偽装、
そして急転直下の買収劇を見せ付けられた。
過去のリコール隠しや今回の燃費偽装については
「アカンことはアカン」との思いがある。

さて、私は今回、デリカで二週間生活した。
デリカに乗っている間、たくさんの三菱車を見かけた。
愛知県に住んでいるので三菱関係者が多いだけとの
見方もあるだろうが、それでも少なくない人が三菱車を愛用している。
関係者しか買わない、と小馬鹿にする人も居るが
関係者だけで一体どれだけ多くの人が居るのか。
バカにならない膨大な数ではないか。
こういう人たちに満足してもらえるクルマを
長く手堅く作り続けるという手段もあったと思う。
いっそ、ライバルに勝たなくても正しいと思う価値観を貫いても良かった。
ちゃんと関係者が購入して満足してもらえる出来栄えなら。
(先日出張したロシアでは三菱車を非常に多く見かけた)
今更何を言っても覆水は盆に返らないのだが、
両親が結婚して初めて買った車はH11系ミニカエコノ。
母の友人の夫が三菱自動車の社員だったので紹介で購入したという。
三菱ミニカエコノではじめて自動車に触れた私としては
軽自動車事業が引き金になった今回の事件は大変ショックである。

さてデリカは個性的な3列オフローダーとして初代のC.W.ニコル氏が
イメージキャラクターを演じていたスターワゴン誕生から
D:5の現在まできちんと販売が継続できている。
1980年代、競合他社もデリカスターワゴンに対抗して
1BOXでありながらオフロード志向のグレードを用意したが、
やはりデリカがトップブランドであり続けた。
そのイメージを守り続け、多少旧くなったとしても
今なおデリカD:5は本格的なオフロード走行が可能なミニバンであり続けている。
(もうちょっとC:2が売れたらいいのだが)
作り手はポリシーを持って車を作り、
それに共鳴したユーザーがメーカーを支えてきたからではないか。

個人的には日産のOEM(出来れば顔くらいは変えて欲しい)でもいいから
ラインナップを限界レベルで満たすべきだと個人的に考える。
今、三菱を愛用している人が「買い替える車がない」といって
他社のディーラーへ行くことを見逃すべきではない。
OEM許すまじ、の潔癖症に陥ってしまっては先細るだけだ。



ある程度ラインナップにOEMを許容する代わりに
SUVに注力するべきだ。
SUVは新興国のニーズと先進国のニーズが
ラップする珍しい車型なのでアウトランダーと
RVRをしっかりと作りこんで欲しい。

願わくばデリカもむやみにモデルチェンジせず、
ユーザーの志向にあわせて改良を重ねていけばいいと思う。
クリーンディーゼル追加はなかなか上手だと感じる。
下手にセレナの顔違い版のようなクルマにしてしまうと、
角を矯めて牛を殺す事になりかねない。



ずいぶんと横道に逸れてしまったが、
日本における3列シートミニバンの歴史と
三菱について深く考える機会を作ってくださったN氏に感謝。
Posted at 2016/06/24 19:26:31 | コメント(1) | トラックバック(0) | 感想文_三菱 | 日記

プロフィール

「@WAGON/GL さん千葉まで行ってしまってました。宛先指示のラベルが愛知ではなく千葉に貼られているのが確認されました。既にクレーム済みです。」
何シテル?   03/24 18:35
ノイマイヤーと申します。 車に乗せると機嫌が良いと言われる赤ちゃんでした。 親と買い物に行く度にゲーセンでSEGAのアウトランをやらせろと駄々をこねる幼...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2016/6 >>

   1234
567891011
12131415161718
1920212223 2425
2627282930  

リンク・クリップ

ビル・ミッチェル氏とシアー・ルック 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/03/10 19:43:34
ルームミラー交換 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/02/23 18:10:29
富士モータースポーツミュージアム 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/02/18 19:06:27

愛車一覧

トヨタ カローラ トヨタ カローラ
1989年式(マイナーチェンジ直前) カローラGT。 ヤフオクで発見し、 不人気車ゆえに ...
トヨタ RAV4 L トヨタ RAV4 L
1996年式 標準グレード。 私が小学生だった1994年、RAV4が颯爽と登場した。私 ...
トヨタ プログレ トヨタ プログレ
2000年式 NC250。 長年、趣味の先輩達と車談義を重ねる中で定期的に「プログレは ...
シトロエン DS3 シトロエン DS3
2011年式 スポーツシック・エディションノアールII。 ラテン系ホットハッチ(プレミア ...
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation