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2007年05月29日

続・記者の質――「虚報」は言いすぎだった――

続・記者の質――「虚報」は言いすぎだった―― 前々回にああは書いたものの、ちょっと原点をもう一度冷静に振り返ってみようと思って、改めて毎日新聞の当該記事を探してみた。毎日新聞社そのものの記事リストでは既に見られないようだけれども、全文をコピーし掲載しているサイトは幾つかあったので(著作権の侵害なんだけど……)内容はわかった。

 で、過ちては革むるに憚ることなかれ、だ。毎日新聞の虚報であったと断じたのは、言葉が過ぎた。撤回する。その理由は、次の通りだ。

 転載されている記事を読むと、読者の受け止めはともかくとして、新聞記事の作法は守られていて、ちゃんと一方当事者の主観ベースで主張されている事象(=カギカッコ引用)と、客観的事実(=記事の地の文)とを区別して記述している。
 つまり、少なくとも形式面において、毎日新聞自体は主体的に『放置』とも『たらいまわし』とも言っていない、そのように遺族が主張しているのを紹介しただけであると言いうる体裁を整えて(言い換えるなら、言い逃げする余地を残して)いるのだ。それに、確かに『重篤患者の緊急転院を行うシステムに問題がある』ことも、言われてみれば書いていないわけではない。

 たとえ遺族側主張を偏重したような記事であったとしても、「遺族はこういっている」との体裁を守って逃げ場を作っているいる以上、「虚報」と呼ぶべきではない。精々「飛ばし記事」と表現するに留めておくべきだった。

 ただし、僕が撤回するのは「虚報」と決め付けた部分だけ。事実経過の中でサラッと流して書いてあるだけなのに「緊急かつ高度な治療が可能な病院に搬送するシステムが機能しない現状」を訴えたかったなどと言う事後の解説は独り善がりが過ぎて噴飯ものである。
 あの書き方で「この案件のポイントって、妊婦が亡くなったとか医師が全力を尽くしてないとかじゃなくて、システムに問題があるって話じゃねえの?」と気づく読者がどれほどいるのか疑問だ。

 繰り返して書くことになるが、本当に最初から「緊急かつ高度な治療が可能な病院に搬送するシステムが機能しない現状」を世に問うつもりだったならば、本記原稿があのようなものだったにしても最低限サイド原稿なり識者コメントの採録なりを付して、記事の重点がそちらにあることを明確にしていた筈だからである。(それとも戸別配達された印刷紙面では、そうしたサイド記事も掲載されていたのだろうか?)
 もしくは遺族と病院の争いの部分にはあまり言及せずもっと普遍的な問題として、現在の奈良県南部の体制では出産中に重篤な状態に陥ったとしても、救命医療が開始されるまで6時間かかることを覚悟せねばならない、現にそのような事例がおきているという文章構成を採っているはずなのだ。

 だが実際に掲載された記事の骨子は、あくまでも遺族と病院が対立している状況の紹介――控え目に言って――が主要な関心事で、「高度な治療が可能な病院に搬送するシステムが機能不全に陥っている」実態を訴えるものではない。行間を深読みしたときに、妊婦死亡事案にはシステム上の背景があることが想像できるといった程度に過ぎない。

 更に、医師個人を問題にするつもりがなかった云々の説明も、僕は受け容れるつもりはない。そんな筈ないだろと思っている。
 新聞記事のお作法の上ではきちんと体裁を守っているが、その実、遺族に糾弾の台詞を「代弁」させているのではないのか?病院側のコメントの中から敢えて木で鼻をくくったようなものを選んだのではないのか?
 そもそも論を言うと、この出来事を固有名詞入りで記事にして世間一般に広く知らしめようとしたこと自体が「わるいいしゃをこらしめてやる」と言う意図の表れではないのか?
 テクニカルな部分では第三者性を担保するよう保険をかけているので「虚報」とか「誤報」ではないけれども、記事全体の指向性は「あのびょういんのおいしゃさんがたいまんだったから、おんなのひとがしんじゃったんだって。ひどいよねー」ではないか。

 亡くなった女性のカルテに記載された内容に歪曲や誤り、改竄がないとするならば、記事のベクトルが全く逆に向く可能性すらある。「患者側との認識のギャップに翻弄される医療の現場」のようなものに。一連の帰趨を見ると、僕はむしろそういう記事を書いたほうが余程意義深かったのではないかとすら思う。無論、そうした記事が掲載されれば、遺族が傷つくだろうことは想像に難くないけれども。

 僕は、毎日新聞記者たちが掘り起こそうとした「事実」が、『その時そこで何が起きていたのか』ではなくて『妊婦の死亡を巡り遺族と医師(病院)の間に争いが起きている』だったこと、そして争いの当事者の一方の主張をベースに記事を組み立てたことの2点を主要なポイントとして、彼ら(彼女ら、か)は記者失格だと考えている。

 争いの当事者のどちらをも、責めようとか非難しようと言う意図は全くない。ただ病院には、ここまで問題が深刻化しないように打てる手があったはずだと思っている。
 それは例えば、最大限毎日新聞からの取材に応じ、流石にカルテの内容を明かすことは出来ないにしても、事実として(あるいは一般論との言い方ででも)、どのような対応を取ったのか(取りえたのか)取材者の質問に答え理解させること。
 記事が掲載されたあとでも、速やかに記者会見を開いて「できる限りのことはした」の具体的な内容を時系列に沿って説明することが考えられる。

 確かに個人情報保護や守秘義務は重い。だけれども、新聞記事が『カギカッコ』引用をすることで逃げ場を確保するように「カルテ記載内容の開示ではなく、その医師の記憶を元にどのような行動をとったのか聴取した結果です」との弁解は、程度問題だけれども成り立ちうる余地があるんじゃないかと思うのだ。だって「知りません」は偽証でも「記憶にございません」なら偽証にならないんだから。そのくらいのグレー・ゾーンは容認しなくちゃ。
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Posted at 2007/05/29 18:44:28

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この記事へのコメント

2007/05/29 20:44:53
その後あちこちで紹介され、ちょっとした”祭り”状態のようです。ご迷惑をお掛けしていないか心配です。
事実だけを取り出すとしてもそこには主観が介在しますし、その気になれば印象操作などマスコミには造作もないし痛痒も感じないことなのでしょう。もっとも最近ではそのレベルにも達していない、本当の捏造も横行しているようですが。マスコミは俯瞰的立場から物事にあたるべきと思うのに、まったく憂慮すべきことです。
コメントへの返答
2007/05/29 21:56:55
お気遣いいただきありがとうございます。こういった内容のエントリーを上げる時点で予想はしていたことですので、特に問題はありません。

 一連の、毎日報道に対する批判や反発を見ていて残念だったのは、ゴミだバカだと罵るだけで終わってしまっているものが多いことでした。

 でも、それじゃあ「第二の大淀病院を出さないために」はならない。

 推測ベースではあっても、記者たちはこういうプロセスを踏んであの記事に至ったんだではないかと、報道を逆に俎上に乗せることで見えてくるものがあるんじゃないかと考えたのです。

 毎日新聞の第一報については、相当事者(あいとうじしゃ)の主張とのバランスが、あの原稿では極端に取れていないとは思いますが、言い分と言い分のぶつかり合いになっているときは、ああいう書き方が定型なんだと思います。(それで一方の言い分に読者を誘導していりゃ世話ないですが)

 ただ大淀病院事案に関しては、カルテという検証材料が(遺族側提供かどうかは別にして)あったわけですから、それを踏まえていないことは不可解としか言いようがありません。

 ところで余談ながら、一部ネット情報によると署名記事を書いた女性記者は12月に大阪本社に異動となり現在産休中との事。僕はこれ、本社栄転ではなくて渦中の奈良から「避難」させたんじゃないかと想像してます。
2007/05/29 23:56:14
そうですね、一読した記事の印象として、「患者サイドの訴えを聞き入れず、診断結果を押し付けた挙句に、放置したまま寝てしまった医者」、と与えるような書き方になっていました。
でも続いて、「受け入れ先の病院を探した~」と続いており、じゃあ寝る前に何らかの指示を出したんではないか、どうしてそこは記事から端折っているんだろう?と疑問を感じた次第です。
おっしゃるとおり明らかにバランスを欠いており、さらりと読んでしまえば「ひどいよねー」って思って終わり、となる記事だと感じました。
政治権力に対する個人のような場合であれば、個人側に与しても良いかな、と思いますが、今回はちょっと。。
マスコミにはもっと頑張ってもらいたいんですけどね。
コメントへの返答
2007/05/30 12:10:34
遺族側の主観としては、記事の通りで間違いないと思うんですよ。もしかしたら、それでもまだ抑制されているくらいかもしれない。配偶者を突然喪ったのですから。

 一般論ですが、専門知識も技術も共にある医師に対して、そのどちらも持ち合わせていない患者側は、立ち位置が下にある(=弱者の側にいる)って意識がどこかにあると思うんです。
 だから「信じてお任せしたのに、こんな結果になってしまって」になるんじゃないかなあ。

 そのことを視野に入れて考えると、この記事の図式も「権力VS個人」なんですね。弱者の正義に肩入れすることが記者(報道)の使命だ……みたいな。
 まあ、それはそうなんですが、もしその弱者に正義(=全体像を第三者的視点から俯瞰した場合、その主張が正当であると合理的に認められること、と言う意味です)がなかった場合はどうするんでしょう。

 裏取り取材とか相手側当事者への真摯な確認取材は、そういう危うさの上に立つ「綱渡り」で、どちらかに向けて転落しないための担保――と言うより必要条件だと思うんですが……。
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