
今回は全日本ツーリングカー選手権の思い出 『HR31スカイライン』②をアップします。
サブタイトルは
【実走行データー計測の重要性】
1.計測器収集(興味ない方は2.データー計測に進んでください)
私がニスモへ出向した頃は、走行中のデーターを測定する計測器は1台もありませんでした。
(整備用の計測器は有りましたが…。)
計測器を購入したくても、元々そういう予算が無い。
日産からレンタルといっても、当時は小型軽量の計測器は有りません。
データーレコーダーはオープンリール型で重く、でかい、ストレインアンプ、その他のアンプ類も同様。
操舵力角計(ステアリングホイール)はφ400、グリップも細い。
ラリー車のデーター計測ではナビゲーター1名分とスペアタイヤ1本分の差し引きで、重い計測器でも可能ですが、レース車では極端に重くなるとタイヤの負担増加、加減速性能も低下するので、重い計測器は搭載出来ない。
とは言っても開発を進める上で必要なので、品名を変えて設備、経費、雑費予算で少しづつ収集することにしました。(品名を変えての購入は本来許されるものではない)
最初に購入した物は、TEAC製のカセットテープ式7ch+音声入力のデーターレコーダー。
ソニーのWALK MANより一回り大きい、当時は世界最小のデーターレコーダーでした。
勿論これだけではデーター計測が出来ません。
次月にTEAC製の4chストレインアンプ購入、大きさはデーターレコーダーと全く同じ。
次にCA熱電対用温度アンプが欲しいなあ、探したが良いものが無い。そこで日産追浜の計測係に相談、『CA熱電対用ICを購入してアンプを手作りすれば』との助言有り。
私は秋葉原で必要電子部品、温度調節付き半田ごて、工具購入、そして手作り。
BOX(アルミ製)は図面を書いて外注、塗装は赤色梨地に(RSターボのヘッドカバーと同一塗装)。
次にPV変換機(エンジン回転数データー再生時に使用)、プリンター、小径ハンドル操舵力角計
全てアナログの計測器です。
次にセンサー類、小物(比較的安価なので購入し易い)。
・Gピックアップ(左右G、前後G測定用)
・圧力ピックアップ
・各熱電対。アルメル、クロメル溶接の手作りも有り。
・BNC接続ケーブル
画像はAUTO SPORT誌1988年3月1日号より抜粋
2.HR31スカイライン・グループAレース車データー計測 その1
シェイクダウン時にエンジンが壊れ、予定メニューのテストが出来なかった。
私はシェイクダウン後にグループAレース担当に加わり、原因究明の為のデーター計測を開始。
原因はコーナリング時の左右G影響によるオイルパン内のオイル片寄り、オイルストレーナー吸入口のオイルが少なくなり、油圧を確保できずメタル焼き付き。
(グループAは規則上、ウェットサンプからドライサンプへの潤滑方式変更不可)
対策はオイルストレーナー周りにBox設置。オイル導入策で3種類のオイルパン試作。
最終品は、Box左右に横方向内側に開くワンウェイフラップ取付け。
Gが掛かる側は閉じ状態、反対側フラップは左右Gにより内側に開きオイルが導入される。
この方式でも旋回し続ければ、何れはオイルストレーナー周りのオイルが無くなりメタル焼付きとなるが、富士の100R、鈴鹿のスプーンコーナーで油圧を持続出来れば問題無し。
因みにヘアピンは左右G持続時間が短く影響は少ない。
最も厳しい走行状態となる予選中もデーター計測実施、これで油圧確保が確認でき安心してレース本番を迎えられた。
予選は少しでも軽く燃料は必要分のみというなかで、計測器搭載は鈴木亜久里選手から文句が出たことを覚えています。
サーキットでのレース車データー計測はニスモが日本初であり、各方面から注目を浴びました。
各ドライバーからはドライビングを管理されるということも有り、計測器搭載は非難沢山。
我々のメリットは、ドライバーのシフトダウンミスによるオーバーレブが証拠として確認される。
過去にも色々な車でシフトミスによるエンジントラブルは結構あったが、エンジン分解後に判明するのでその場で問うことが出来なかった。
その後のテストは全てデーター計測実施。比較テストの他、ブースト圧、排気温度等、レースカーのコンディション管理としても。
またブリジストン社からの要望で走行中の4輪荷重分布測定、タイヤ性能向上にも役立ちました。
アナログ測定なので私は大変でした。例えば30分のデーター計測の場合、プリンター上にデーター再生はキャリブレーション含め30分以上を要するからです。
デジタルの小型軽量データーロガー出現は数年後です。
次回はHR31スカイライン・グループAレース車データー計測 その2をアップします。