今や当たり前になってきたアトキンソンサイクルの話

ブログ a page of beloved family and Accord Wagon

2014年10月5日

もう随分前のブログではありますが、『ストリームのアトキンソンサイクイルについて』というブログを書いたことがあります。かれこれ6年前のブログです。



実はこのブログを読まれた方からご指摘を頂きまして、アトキンソンサイクルの本質的な目的は、このとき私が書いていた“ポンピングロスの低減”が主目的ではなく“圧縮比に対し膨張比を大きくとること”では?とのコメントをいただきました。仰る通りなんです。もちろんポンピングロス低減も目的の一つですが、色々訳あってポンピングロスを題材にし、結果的にアトキンソンサイクルというものを説明するにはちと内容がよくなかったかなぁとあとで思った次第です。まぁ内燃機関について詳しい方はすぐに気づかれる事ではありますが、先のブログの内容を訂正するにはボリューム的に厳しいため、今回改めてここを分かりやすく書いてみようかと思います。



“易しいエンジンにの話”カテゴリーの第13回目となる今回のネタも文字が多く、この手のメカに興味のない方には苦痛以外何ものでもない内容ですので、本当に興味のある方のみ読んでみてくださいね。















冒頭で書いた通り、アトキンソンサイクルエンジンとは圧縮比に対し膨張比をより大きくとったエンジンのことです。



もっと分かりやすく書きますね。












かなり基本的なとこからから・・・。



4サイクルエンジンというのは、「吸気」「圧縮」「爆発(膨張)」「排気」という四つの工程を繰り返しながら動いていますよね。


吸気バルブを開きピストンが下がることによってシリンダー内に混合気が吸い込まれ、吸気バルブを閉じて今度はピストンが上がりながら混合気を圧縮。混合気を10倍程度押しつぶしたところでプラグ着火させ、再びピストンが下がろうとするところに爆発力が加担され、シリンダー内が猛烈に膨張してより強い力でピストンが押し下げられる。その勢いのまま下死点から再びピストンが上がり始めるときに排気バルブが開き燃焼ガスをエキマニに吐き出す・・・。この循環が4サイクルエンジンの基本的な動きですよね。

クランク2回転(ピストン2往復)につき一度爆発するのが4サイクルですから、単気筒だとまさにそのまんまピストン2往復につき一度だけの爆発となり少々ぎくしゃくした回転フィールになってしまうのは想像できますよね。そして、シリンダー数が増えれば増えるほどクランク2回転の中で小刻みに爆発が起こるため連続的でスムーズな回転フィールが得られることも想像できるかと思います。










そして、例えば4気筒なら、2番シリンダー(画像でいえば右から2番目)が爆発した瞬間、2番ピストンはもちろん勢いよく下がるわけですが、重要なのは2番と同じ動きをする3番ピストンが2番の爆発力を借りて勢いよく下がり、そのおかげで回転の失速なく混合気を力強く吸うことができる・・・。この連続的な作用によってエンジンは滑らかに回転することができることが分かると思います。


















基本的な話ついでに、そもそもなぜアクセルを踏むとエンジンの回転が上がり、アクセルを離すとエンジン回転が下がるのか、エンジンの燃焼行程との関係はどうなっているのか・・・、実はここがエンジンというものを理解するのに非常に重要なところなので、この部分もついでに分かりやすく沿えておきますね。












まず内燃機関を分かりやすくするには「エンジンはいつも外気を吸いたがっている」ということを頭におくといいと思います。加圧過給するターボも吸い込みをなくしては始まりません。まずこれが大前提です。今回は分かりやすく解説するために自然吸気エンジンでの話しに限定しますけどね。





よく雑誌等のメカ解説で「4バルブ化によって、より多くの空気を取り入れる」とか「吸気ポートの研磨で吸気量がアップした」などの言葉を目にします。要するに「吸気量が増える」というこの書き方ですね。これは少し誤解を生む書き方じゃないかと思います。


吸気量が増えると聞くと、あたかもシリンダーの中に入る空気(混合気)が多くなったり少なくなったりするものかと錯覚しますね。確かに高回転域になるとそうなってきますが、基本的にはシリンダーに入る吸気量は加速中であろうがクルージング中であろうが基本的にはいつも同じです。つまり2000ccの4気筒であれば1個のシリンダーは500ccであり、どんなにデキの悪いエンジンでも500ccの混合気を吸い込んで爆発します。

※今回ネタにするアトキンソンサイクルは吸入量自体が変わります。もちろんターボやスーパーチャージャーも。









この説明を分かりやすく…。






エンジンの動きは針を外した注射器で例えると分かりやすいです。


注射器のニードルキャップを連続的に引いたり押したりすると、筒の中に空気が入ったり出たりします。これはエンジンのピストンとシリンダーの関係と同じですよね。そして空気の吸い込み口の先端を指で少しずつ塞いでいくと、抵抗が増えて空気の出し入れがしづらくなる。この吸い込み口がエンジンいえば吸気バルブ部で指で塞ぐ部分がスロットルバルブと思えば分かりやすいでしょう。

で、吸い込む穴が塞がれていって空気の出し入れがしづらいという事は注射器のニードルキャップを往復させるのが重たくなるということですよね。つまりニードルキャップを連続的に動かす時間(速さ)が遅くなってしまう。でも遅くなっても最終的には空気を目いっぱい入れる事はできます。注射器の先端を少しづつ塞がれることによってニードルキャップを上下させる速度が抑えられる…。これがまさにエンジンのスロットルバルブとピストン速度(つまりエンジン回転数)との関係です。

エンジンの回転というのはシリンダーの中で爆発してピストンを押し下げることから始まります。その爆発力は理論空燃比で爆発する一般的なエンジンであればほとんどいつも同じです。ですから爆発によるピストンを押し下げる力(クランクを回す力)もいつも同じ。じゃあなんで同じ爆発力なのに回転が速くなったり遅くなったりできるのかというと、先程のスロットルバルブが鍵を握っています。
シリンダー内で爆発が起こるとピストンが勢いよく押し下げられる。その勢いを更に加速させるためにはスロットルを開いておいてやらないといけない。注射器でいえば先っぽの塞ぐのをやめる。じゃないとせっかく押し下げる勢いがついたのに口を塞がれたんじゃ吸い込み抵抗が大きすぎて勢いを殺される。塞ぐ量を減らしていけば、勢いは弾み車のようにどんどん勢いが増していきます。
この時、間違ってはいけないのが先程書いた通りシリンダーに入っていく混合気の量はほぼ毎回同じということです。決してシリンダー内の混合気の量がどんどん増えて勢いが増しているのではなく、ピストンが押し下げられる勢いを邪魔しないようスロットルを開いて吸入抵抗を減らしたために勝手に勢いが増したのです。つまり、スロットルを開くという事は吸気量そのものが増えたのではなく単に回転が速くなるということ。回転が速くなるという事はすなわち「時間あたりの吸気量がアップする」という事です。そりゃそうですよね。1000rpmと2000rpmじゃ同じ1分間あたりで2倍の回転数差があるんですから2倍の吸気量差がある。当然ですが、燃料消費も1回の爆発に使う燃料は同じでも、時間当たりで考えれば2倍の速さで爆発させる方が2倍燃料を食う。実際はポンピングロスなど色々な条件が加わり理論通りにはなりませんが、簡単に言えばそういうことです。

エンジンというのは結局大きな爆発力をきっかけにしていつもいつも空気を吸いたがっている。吸いたがっているのにインマニの先にあるスロットルバルブという栓で覆っている。つまり、せっかくの爆発力を殺している。逆に言えば栓で塞がなければいくらでも回ろうとするし、ガソリンの爆発力はそれだけのエネルギーがある。吸い込み口に栓をしている(つまりスロットルを閉じている)低回転域やアイドリングというのは実は爆発エネルギーを無駄に捨てているんだという事が分かると思います。









さて、このことを踏まえてやっと本題のアトキンソンサイクルの話です









冒頭で書いたエンジンの4つの工程の中で爆発(膨張)工程に着目しますと、爆発力というのは凄まじい威力があることは想像できますよね。あの重たい自動車を動かすわけですから。その凄まじい爆発膨張力によって押し下げられたピストンはコネクテティングロッドを介してクランクシャフトを回すわけですが、その爆発膨張力が「正」の力として働くのは爆発後からピストンが下死点になるところまでというのは想像できるでしょうか。つまりそこから先=下死点から再び上死点に向かう時は、膨張力がまだ残っていながらピストンは折り返して圧縮工程に変わることになります。




エンジンのシリンダー内の圧力の話をしますと、ピストンが下死点にある時というのは、

①圧縮を開始する直前
②爆発膨張後


の二つの状態があるわけですが、当然この二つの状況でのシリンダー内圧というのは同じではありません。イメージできると思いますが、爆発膨張後の内圧のほうが断然高いんですね。もし①と②の内圧が同じだったらそれは熱効率としては100%になるわけですが、残念ながら有り余るほどの爆発膨張エネルギーを残したままピストンは下死点から上死点に折り返してしまうのです。 トランポリンを使ってせっかく高く飛び跳ねたのに屋根が低くて頭を打って下へと叩きつけられた・・・、みたいなイメージですかね(笑)。










そこで、この膨張力をできるだけ使いきろうとする機構がイギリスのジェームズ・アトキンソンという方によって生み出されました。いわゆるアトキンソンサイクルエンジンの登場です。しかし、この動画を見るとわかりますが、メカが複雑で動きも奇怪・・・。確かに膨張行程の方が多くとってありますが、自動車エンジンのように高回転で回せる代物ではなかったため普及しませんでした。










さて、ここからが現代のアトキンソンサイクルエンジンに関係したお話。

自動車を一定の速度で走らせる場合というのは、アクセルを僅かしか踏んでいませんよね。つまりスロットルバタフライは僅かしか開いていない。でもそんな中、エンジンは大きな爆発膨張力を起こし、それを無駄に押し殺しながら回転数を落としてクルージングしているわけです。

「押し殺すくらいなら最初からそんなに大きな爆発をさせなければいいじゃないか。せっかく燃やした燃料を無駄にしているのと同じだろ?!」

効率や燃費というものを追求していくとそういう考えが生まれてきますよね。
じゃぁ吸い込んだ排気量分の空気量に対しガソリンをメチャクチャ薄くすればいいのか。いえ、吸い込んだガスの末端まで燃え広がる時間が遅くなるとか、そもそも完全に燃焼できない可能性も出てくる。更に、吸い込んだ混合気の空気の比率(つまり窒素の比率)が増えるため排ガスの窒素酸化物が増えたり、あとは燃焼ガスの温度が相対的に低くなりキャタライザー(触媒)で処理できなくなったりとか・・・。燃料を極端に薄くして燃焼させる方法は課題が多く主流になりませんでした。







そこで思いついたのが、アメリカのラルフ・ミラーさんによって考えられたミラーサイクルエンジンです。

ミラーサイクルの考え方を分かりやすく言えば、クルージング中など僅かなパワーしか必要がない場合、その爆発量に見合った燃料と、その燃料に見合った空気量をシリンダー内に取り込み、爆発膨張力を無駄に大きくさせないで使いきってしまおう、そういうエンジンです。気づかれた方がおられると思いますが、最初に書いたアトキンソンサイクルの理論を逆から見た発想ですよね。





数字を使って違いをザックリ分かりやすく書くと、

(アトキンソンサイクルエンジンの場合)

100の混合気を吸って200の爆発エネルギーが起きたとしたら、その200をなるべく使いきろうとするもの

しかし、先ほど書いた通りエンジンはいつもいつも全開で走るわけではありません。200の爆発力を得てもクルージング中だと例えば半分の100程度しか使わない。そこでミラーサイクルです。




(ミラーサイクルエンジンの場合)
100程度のパワーしか使わないのであれば、最初から100の爆発エネルギーに必要な50程度のガソリンと空気(混合気)しか取り入れない。


この違いが分かるでしょうか。どちらのエンジンも圧縮比に対し膨張比を大きくとる発想ですが、基準が“圧縮比を100とするか、それとも膨張比を100とするか”の違いがあります。“無駄に燃料を使わない”、“必要なパワーだけの燃料(エネルギー)を使えばよい”という点から見れば明らかにミラーサイクルの方が考え方として理に適ってます。










日本車で初めてこのミラーサイクルエンジンを搭載したのがマツダのユーノス800(のちのミレーニア)だったと思います。










ミラーサイクルの機構を簡単に言うと、圧縮時に吸気バルブの閉じるタイミングを一般のエンジン(=オットーサイクルエンジン)よりも遅くするものです。一般のエンジンはピストン下死点あたりで吸気バルブを閉じて混合気の圧縮を行ないますが、ミラーサイクルはその時点でもまだ開いたままにし、ピストンが上がっている途中でやっと閉じます。つまり、目一杯吸い込んだ混合気を吸気バルブが開いたままのインマニへある程度押し戻している・・・。そしてある段階で吸気バルブを閉じて圧縮する。結果、クルージングに必要なパワーぶんだけの空気と燃料しか取り込んでいないので燃費がいいんですね。



しかしミラーサイクルには大きな弱点があります。それは吸気バルブ遅閉じ(=圧縮開始の遅さ)による実質的な圧縮比の低さです。

圧縮比というのはピストンが下死点にある時の容積と上死点にある時の容積の比ですが、エンジンにとってこれは何よりも重要なもので、より多くの混合気を取り込み、それを圧縮すればするほど大きなエネルギーとして変換できるのはご存知の方が多いかと思います。
一般のオットーサイクルエンジンでは通常混合気をピストンが下がりきったところで吸気バルブを閉じ、そこから10~11倍程度圧縮して(=圧縮比11)プラグ着火させていますが、ミラーサイクルエンジンだとピストンが上死点に向かっている途中でようやく吸気バルブが閉じるようカムプロフィールが決められているため、常に圧縮開始が遅い=つまり実質的な圧縮比が低くなります(カタログ記載の圧縮比はあくまでもピストン下死点~上死点での最大容積比)。

この圧縮比の低さが悪影響として出てくるのは加速時などここ一発のパワーが必要な時です。有り余るエネルギーを押し殺してクルージングしているオットーサイクルエンジンは、スロットルをガバッと開いた時こそ本来のメリットが発揮されますが、そもそもクルージングに必要な爆発膨張力分の空気と燃料しかシリンダーに取り込まないミラーサイクルエンジンはここ一発の余力がない・・・。そのためユーノス800のミラーサイクルエンジンは過給機(リショルム式のスーパーチャージャー)が併用されていました。過給機に頼らずにすむクルージング時は電磁クラッチで過給の動力伝達を切ってシリンダー内の混合気をインマニへ戻すミラーサイクルのメリットを生かし、加速時はクラッチをつないで過給機でシリンダー内に大量の空気と燃料を送り込んでおけば多少インマニへ戻ても必要充分なガス量が確保できる。幸いミラーサイクルは実質的な圧縮比が低いため過給機を併用してもノッキングの心配が少ないですしね。しかし、低燃費という面でいえばやはり過給機は厳しいものがありますよね。時代は極端なエコへと変わっていき、2500ccV6エンジンと過給機との組み合わせは時代にマッチしないものになってしまい、更にスーパーヤージャーの中でもリショルム式は性能が高い反面コストが非常に高くついてしまう機構だっため、惜しくも消えてしまいました。






ここまで読まれて、「ミラーサイクルの話はいいけど、ブログタイトルであるアトキンソンサイクルエンジンの話はまだかよ?!」とそろそろ思われますよね。まぁこれも知っている方が多いかと思いますが、日本で当たり前のように呼ばれている“アトキンソンサイクルエンジン”というのは実は手法としては全て“ミラーサイクルエンジン”なんですね。ただ、膨張比を多く取っている事は事実であり、そうなるとアトキンソンサイクルと呼んでも間違いとは言えない・・・。恐らくマツダがミラーサイクルと呼んで発売したもんで後だしのトヨタはアトキンソンサイクルで出したのでしょう。ホンダもアトキンソンサイクルと呼んでいますね。でも手法としてはまぎれもなくミラーサイクルです・・。










ミラーサイクルを最初に出したマツダですが、現在は過給機を使わず高圧縮化で対応しています。ご存知スカイアクティブGでは圧縮比14.0という国産随一の高さを達成しました。圧縮比が高いと爆発エネルギーをより多く得ることができるのは先ほど書きましたが、それでもなぜこれほど高い数値を達成する必要があったのか・・・。これはミラーサイクルというものが低圧縮であることを考えれば分かりやすいと思います。最新のマツダ製ミラーサイクルは過給機を使わないため何か他の仕掛けがないとただただパワーがないだけのエンジンになってしまいます。そこで3つの手法を取っています。



1)可変バルブタイミング採用
トヨタでいうVVT、ホンダだとVTCのような吸気カムの連続可変位相技術を使っています。これによって吸気バルブの閉まるタイミングを連続的に無段階に変え、クルージング時などの低負荷時はミラーサイクル状態で圧縮比10程度まで下げ、パワーが必要な高負荷時はオットーサイクル寄りにして最終的に14まで上げているんですね。




2)直噴化
直噴エンジンのメリットはいくつかありますが、その中でもノッキングが起きにくいということがあります。一般のポート噴射式は混合気をシリンダーに吸い込んで圧縮していくため、圧縮比を高めすぎると自己発火というノッキング現象が発生しやすくなります。しかし直噴はプラグ回りだけに狙って濃いガスを噴射するので一般のポート噴射式のように燃え広がる時間がかからず、しかも冷たい燃料が噴射されるのでシリンダー内の温度が下がるメリットがあります。つまりノッキングに強い。

※ノッキングについて
ノッキングはプラグ着火よりも早いタイミングで自己発火してしまう現象ですよね。つまりピストンが上死点よりも随分と手前の段階で自己爆発が起こるので、上がってこようとしているピストンを膨張力で押さえつけようとしてしまう・・・。原因はシリンダーヘッド回りにカーボンやスラッジが付着してきて圧縮段階でその部分がきっかけで早々に自己発火するというケースが一般的ですが、そもそも圧縮比を高く設定しすぎると相対的にノッキングが起こりやすくなります。
ノッキングの特徴としては低回転域からの加速中に起こるのが有名ですが、これは加速時はスロットルが大きく開き混合気がより多く入ろうとしてシリンダー内の圧力が増大する事に加え、自己発火が起こって爆発燃焼が広がるまでの時間に対し低回転時は上死点に近付くピストン速度のほうが遅いため(しかも上死点に近付くほどピストン速度は遅くなる)、低回転域での加速中にノッキングが起こりやすいのです。低回転域でノッキングが起こるということは中高回転域でも同様にノッキングは起こっているはずですが、高回転域はピストン速度が速くなるため自己発火爆発の広がる速度に対しピストン速度が速く、低回転域よりもより遅れて爆発の広がりが起こっているためにピストンを押し戻す作用が減り体感しにくくなっているだけと言えます。





3)クールドEGRの採用
EGRとは燃焼した排ガスを再度燃焼室に送り込む装置で狙いは二つ。一つは窒素酸化物を減らすことができ、二つ目はポンピングロスを低減できることです。ここでからくりを説明すると長くなるので、興味のある方はこちらを読んでみてくださいね。
で、排ガスをシリンダーに吸わせるということはシリンダー内の温度が高くなってしまいます。ノッキング対策で一番有効的なのはシリンダー内の温度をいかに下げるかです。そこで排ガス温度を少しでも下げてからシリンダーに取り込むクールドEGRを採用したというわけです。










これら3つのあわせ技によってデビューしたスカイアクティブGですが、これらをまとめて説明すると、ミラーサイクルの最弱点である常時低圧縮というものは可変バルブタイミングで解消。とはいえ、クルージング時でも加速時でも得られるパワーが多ければ多いほど余力が増え燃費も良くなるため、相対的に圧縮比をもっと高めたい。そのためには何よりもシリンダー内の温度を下げてノッキング対策をする必要がある。それが直噴化でありクールドEGR採用になる・・・という事だと思います。

ただ、重箱の隅を突っつくわけじゃありませんが、スカイアクティブGの技術はほとんどが既存技術の寄せ集めであり決して仰天技があったわけではありません。マツダは可変バルタイ技術で完全に出遅れたメーカーですが、これをスカイアクティブで初採用したからこそ達成できた数値だと言えます。事実、同じ可変バルタイを採用する(直噴は採用していない)フィットの1300モデルやハイブリッド仕様の圧縮比が13.5。同じく可変バルタイを採用し直噴を採用していない現行プリウスも13.0。更に同じマツダのスカイアクティブでもデミオ以外では14.0を達成できていないことを考慮すると、可変バルタイ化による圧縮比の性能数値はほぼ横一線かなという感じです。



問題はミラーサイクル領域ではどの程度の圧縮比で走っているのか、そして逆に14というこれほどの高圧縮比領域で走ることが本当にあるのかということでしょう。
各メーカーとも可変バルタイは連続可変式を採用しているので(ホンダは更にVTEC機構を併用しているが)、例えばデミオであれば恐らく下は10.0から上は14.0になる様吸気カムの位相をバリアブルに変化させているはず。しかし14.0という領域をどれほど使えているのかは分からない・・・。
あくまでも私の推測ですが、これはマツダに限らずどのメーカーも日常の走りではまず最高数値の領域で走ることはない気がしています。少なくともノッキングが一番発生しやすい低回転域からグイッと加速するシチュエーションで14.0の圧縮をかけるのはあまりにもリスクが高い・・・。それにミラーサイクル領域で10.0程度の圧縮比が稼げているのであれば、そこら中のオットーサイクルエンジンとそれほど変わらない走りができるということです。つまり、日常的な走りでパワーを稼ぐために圧縮比を相対的に上げる必要があった。そのための14.0であり、最高値14.0を使うか使わないかは別問題・・・。意地悪な推測ではありますが、私は各メーカーに対しそう見ています。









もう一つ、このミラーサイクルは実はハイブリッドとの相性がいいことがわかります。特にトヨタのプリウスは現行型こそ可変バルタイVVTを採用していますが、2代目まではそれがありませんでした。つまり常時ミラーサイクル状態ですから当然常時低圧縮状態。カタログ数値こそ初代で13.5だったり2代目で12.5を謳っていましたが、これはあくまでもピストン下死点~上死点での容積圧縮比。可変バルタイを採用していないのですから実際はこの圧縮比で走ることは一切ないわけです。

しかしプリウスはハイブリッド。モーターは低回転域でこそその特性を生かせる負荷機器ということもあり、マツダのスーパーチャージャーと同じ様に街中での日常的な加速シーンで非常に有効的に作用することになります。ただし、高速走行になると電気モーターというのは効率がかなり下がり、肝心のエンジンも常に低圧縮仕様。先代プリウスは高速で弱く欧州で不満が多かった所以がここにあったと言えます。そういう事もあり現行型は排気量量を上げただけでなくVVTを採用していますね。









我らがホンダはというと、ミラーサイクル初採用は2代目ストリームのR型エンジン。現行のステップワゴンにも搭載されていますね。
R型はSOHCエンジンであるがゆえ連続可変バルタイであるVTC機構の採用が無理だったため、ミラーサイクルはVTEC機構で切り替えています。VTECの難点は切り替える回転数こそある程度連続的に変化できますが、カムプロフィールが決まっているため吸気遅閉じのタイミングそのものは固定になってしまうことです。








現行型フィット1300はそのあたりを含めて一気に進化したミラーサイクルエンジンになりました。ミラーサイクルとオットーサイクルの切り替えは他社と同様の連続可変ができる電動式VTCを採用してこれに委ね、更に異なるカムプロフィールを持つVTEC機構も併用。燃料噴射はデミオが採用する直噴ではなく一般的なポート噴射式でありながら圧縮比13.5の達成はかなり優秀です。


数値だけを並べて比較するのはあまり賢くないと分かっていながらもあえて書きますと、デミオ1300スカイアクティブGの84ps・11.4Kgm・燃費25.0Km/Lに対し、フィット1300は100ps・12.1Kgm・26.0Km/L。お互い同じ1300ccのDOHCで連続可変バルタイとアトキンソンサイクルの採用ではありますが、フィットの方が圧縮比が0.5ほど低く燃料噴射も直噴ではなくポート噴射式。しかも可変バルタイはデミオが吸排気の両方に採用したのに対しフィットは吸気のみ。最廉価モデルということで大きな謳い文句もなく地味な存在となったフィット1300ccですが、それでもデミオより馬力もトルクも上なのは「エンジンだけは負けられない」というホンダの意地がそうさせたのかもしれません・・・。ただ、最近のマツダはエンジンだけじゃなくトータルバランスの高い走りが魅力で、カタログ数値は確かに高いけどスタイルが微妙で回してもノイジーでフィーリングの悪いiVTECエンジンを積む多くのホンダ車よりも遥かに魅力的に感じます。あくまでも個人的な印象ですけどね・・・。









因みにこのたび登場した新型デミオのスカイアクティブGエンジンですが、世界最高値を謳っていた圧縮比14.0がなんと今回12.0に下がっていました(汗)。しかも、吸排気両方に採用されていた可変バルタイも吸気側のみにグレードダウン。



なのに・・・


92ps・12.3Kgm(先代比+8ps・+0.9Kgm)に性能アップしているという・・・(笑)。



先代デミオの圧縮比14.0達成は確かに見事で衝撃的な印象を持ちましたが、結果的にポート噴射式で圧縮比も低いフィットより得られた性能数値が低かったことや、新型になって圧縮比が一気に12まで下げられたところを見ると、マツダは14.0という世界最高の数値に少々拘りすぎた・・・個人的にはそういう印象があります。ただ、果敢に内燃機関の限界を探ろうとする姿勢は一昔前のホンダエンジンファンとしては羨ましくもあり、この先もマツダは魅力的な車造りをしてくれると思っています。









さて、ホンダのミラーサイクルエンジンで忘れてはならないのがハイブリッドエンジンですね。現行アコードもフィットもエンジンはVTEC機構に加え連続可変バルタイVTCとの併せ技としています。VTEC機構ではアコード用は燃費用カムと出力用カムを切り替えているのに対しフィット用は片バルブ休止切り替えタイプ。車によって仕様を変えていますね。
興味深いのが、ホンダはミラーサイクルエンジンにはあえて直噴を採用しないことですね。これはプリウスも同じです。直噴はシリンダー内に冷たい燃料を吹き付けるため年月が経つとカーボン化しやすいとも言われており、シリンダー内の燃焼温度が低くなるミラーサイクルや頻繁にエンジン停止するハイブリッドには適さないと判断しているのかもしれません。逆に直噴を採用しているマツダはこのあたりを独自の技術でクリアしているのでしょう。この先各メーカーがどう進んでいくのかか楽しみですね。








さて、この話もいよいよ終盤。


ミラーサイクル(アトキンソンサイクル)の狙いはここまでの説明で充分理解できたと思いますが、ミラーサイクルにはもう一つメリットがあります。

それはポンピングロスの低減です。

ポンピングロスについては冒頭で注射器で例えて書いたので分かると思いますが、大きな爆発力でピストンが押されて、その勢いを借りて吸気からガバッと混合気を吸えればピストンは楽に仕事ができるのですが、それはつまりスロットルを大きく開いていることが大前提であり、それをしてしまうと確かにピストンは楽に仕事ができる代わりにエンジンの回転数がどんどん上がってしまう・・・。それじゃ困るので吸気側にスロットルで栓をしてピストンを楽に仕事させない、つまり回転数を抑制する・・・。ピストンからすれば、非常にロスの大きい仕事をさせられているわけですね。これがポンピングロス。

ミラーサイクルというのは排気量分の混合気を目一杯入れたあと、それを少しですが吸気ポートに戻していますよね。つまりそれがどういう事になるかというと、混合気が少ないため爆発エネルギーそのものが小さくなってしまう。ということはピストンを押し下げて次の混合気を吸う力が弱くなる・・・。つまりエンジン回転数が下がってしまいますね。それではまずいですよね。そこで、スロットルを普通よりも大きめに開いてやるんですね。そうするとピストンが下がって混合気を吸い込む時の抵抗が少なくなりピストンは楽に往復できるようになるわけです。もちろんスロットルが大きく開いているため排気量目一杯の混合気を吸い込んでしまいますが、ミラーサイクルならではの吸気遅閉じ機構によって余分なパワー分の混合気はピストン上昇時に吸気ポートに押し戻される・・・。
当然ですが、ミラーサイクルとオットーサイクルを可変バルタイでバリアブルに切り替えていますから、スロットルバルブもそれに合わせて大きく開いたり小さく開いたりさせる必要があります。自分で運転していてアクセルを多く踏んだり小さく踏んだりしているわけじゃありませんからね。ですから、可変バルタイを持つミラーサイクルエンジンというのは電子制御スロットル(ドライブバイワヤ)じゃないと対応できないと言えます。



有り余る爆発力をスロットルバルブで塞いで押し殺すことによって必要なエンジン回転数をキープするオットーサイクルと違い、小さな爆発力だけどスロットルが大きめに開いているため吸気抵抗が少なくオットーサイクルと同じエンジン回転数をキープできる、つまり燃費が良い・・。ここ一発のパワーが必要となれば可変バルタイでオットーサイクルエンジンにもなる。それが現代のミラーサイクルエンジンです。








アトキンソンサイクルと題したミラーサイクルエンジンの話、いかがでしたでしょうか。実はこの話は2年前頃からある程度書いていたのですが、放置しすぎてその間にスカイアクティブGが出たり新型アコードや新型フィットなども登場し、更にはデミオもFMCしてしまい内容の追記や訂正を何度かしながら書いたわけですが、この内容が興味のある方に分かりやすく伝わっていれば嬉しいのですが・・・









最後はホンダの正真正銘のアトキンソンサイクルエンジン、「EXLINK(エクスリンク)」の動画を貼り付けて終わりたいと思います。


※ページ中ほどの右側をクリック






最後まで読んでくださってありがとうございました。
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