30年

今日、上野公園に行った。
桜はまだだったが、ヒトが満開だった。
暑いと感じるくらいの日射しに、上着を脱いで、キッチンカーで生ビールとミニピザを買って、テラス席で一杯やりながら待った。



30年、会ったことも無い子供から会いたいと連絡があった。
まだ乳飲み子の彼を置いて、30年前、俺は家を出た。当然、お互い、顔も知らない。

そろそろ時間だと思い、一服して、ビールを二杯とサンドウィッチを買って席に戻ると、連絡が入っていた。

”どこですか?”

辺りを見回すと、若いカップルが同じように人を探すような素振り。
目が合った。
マスクをしていたが、目元がソックリだった。

一瞬、時間が止まった。辺りの喧噪が消えた。
30年が、あっという間に通り過ぎた。


彼女のお腹には小さな女の子がいた。



別れ際、またいつか会いましょうと、彼は言った。頷きながら、
”あ、ああ”としか答えられなかった。

そばにいてあげられなくてすまなかった。
あまりカッコいいオヤジになれなくてすまなかった。
ちっともアテにならない親父ですまなかった。

考えてきたいろんな言葉は口には出せなかった。


二人の寄り添う姿をずっと、見送っていた。
彼が振り返って大きく手を振った。

負けずに両手を大きく振った。子供のように夢中で手をふっていた。


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