2006年の夏、初めてBMWのディーラーに入った。カタログだけもらうつもりだった。ところが、その日のうちに
320iツーリングを契約することになってしまった。
昔から漠然と憧れていたメーカーの車だったから、試乗もしなかった。数週間後に
実車が到着した。とても嬉しくて、炎天下の屋上駐車場に停められていた初めての外車に乗り込んだり、写真を撮ったりした。けれども、本当に驚いたのは、納車された車を走らせた後のことだった。このクルマは、全然違う、と。
私はBMWの魅力をいう時、「軽快な重厚感」という言葉を時々使う。それは、320iツーリングの後に乗った120iカブリオレ、そして今乗っている523iセダンのそれぞれに当てはまる。これらは皆、各シリーズのほぼベース・グレードの車だ。だから、BMWの軽快な重厚感という矛盾したような言葉は、重くて固くて非力な車をスポーティに仕立て上げるBMWの技術、と言い換えることもできる。
しかし、車にとって、重さはデメリット以外の何ものでもないような気もする。それで、最初にあえてそのメリットとデメリットを考えてみた。
重い車のメリットとデメリット
車は一度動き出せば慣性力を持つ。重い車ほどこの慣性力が大きい。そのため、加減速やコーナリング等、車のあらゆる挙動変化が鈍く緩やかになる。
そのメリットとしては、まず乗り心地が向上する。また、高速直線走行時に安定性がある。空気抵抗にも強い。さらに衝突時の衝撃が少なく、安全性が高い。また、重い車はタイヤのグリップ力(トラクション)が大きい。そして重い物を載せた時の影響を受けにくい。
デメリットは、機敏な走りのためには、この慣性力や重力をコントロールできる大きなパワーや、強いボディと足回りが必要なこと、そして燃費の悪さだ。
最も重い車に乗りたければトラックが一番だが、もちろんBMWはトラックではないし、その重さには理由があると思う。それを、次にBMWが「ドイツ車であること」、「剛性が高いこと」の二つの点で考えたい。
ドイツ車であること
ドイツ車は、速度無制限区間を含むアウトバーンを、高速で走ることを前提に設計されている。したがって、高速走行時の安定性が、直進時のみならず、コーナリング時やブレーキング時でも高い。また、それゆえ安全性の基準も世界トップレベルたらざるを得ない。
(この点については、是非
M5.Alpinaさんの「
アウトバーンとドイツ車」をお読みください。)
剛性が高いこと
ボディとサスペンションの強さが、エンジン・パワーとその伝達力の強さよりも勝っている。いわゆる「シャシーが速い」ということだ。剛性が高ければ、ボディのよじれが減少し、タイヤやサスペンションの本来の性能が引き出され、車の直進安定性やコーナリング性能が上がる。その結果、ドライバーの意思と車の動きが即座に一致して、運転が上手になったような感覚になる。また、ボディ自体の振動が減り、乗り心地が向上する。それは、巌に乗って自在に動き回っているかのような、ダイレクトな移動感覚を生む。
これで、BMWの「重さ」というマイナス・イメージが、少しは「重厚感」というプラス・イメージに変ってきたかもしれない。けれども、剛性の高いドイツ車のメーカーはBMWに限ったことではない。それで、次にBMWのセールス・ポイントである「FR(後輪駆動)であること」、「前後重量比が50:50であること」の二つの点から、BMWの魅力を考えたい。
FR(後輪駆動)であること
路面からの反発を最初に受ける前輪が操舵専用となるため、ハンドリングや乗り心地が向上する。そして発進時に車重を受け止める後輪が駆動専用となるため、路面に余すところなく力を伝える。また、縦置きエンジンからギア、およびドライブシャフトを結ぶ直線構造が、シャシーの剛性を縦方向に高めると同時に、事故時にはエンジンが乗員に接触することなく車両中央部を抜けやすい。
前後重量比が50:50であること
四つのタイヤ接地面積とそれぞれの加重がほぼ等しくなるため、各タイヤから路面に伝え、あるいは伝えられる力の制御が容易になる。コーナーリング時には前・後輪が受ける力が均等になる。このように前後左右の荷重移動が自然になるので、走る、曲がる、止まるという基本的挙動のすべてが向上する。
さて、ここまで「BMWの軽快な重厚感」について考えてきたが、車重1.5トン前後もある320iや120iを150psほどで、あるいは1.8トン近くもある523iを204psのパワーで動かして、なお「重厚」だけれど「軽快」でもある、と感じられる理由があるとしたら、それは、
高いボディ剛性やFR車ならではの機構と適切な重量配分がもたらす、優れたハンドリングやエンジン・フィール、そしてダイレクトな移動感覚を、たとえ小さなパワーの車でも、むしろハッキリと体感できるからではないか。それが「重くて固くて非力な車をスポーティに仕立て上げるBMWの技術」だと思うのである。
最後に、私はここまでBMWが世界に誇る大パワーのエンジンについてはあえて触れなかった。どんなに重いボディでも、それを補って余りあるエンジンを積んでいれば、BMWはとても軽快な車だ、と感じることができるからだ。M5やM3を出すまでもない。最近の4気筒ターボのフル・スペック版を載せたF30-328iのボディや足回りとエンジン・パワーの組み合わせで十分だ。
けれども私には、パワーと剛性と重量のバランスの妙味を感受する気持ちがあってこそ、「BMWの軽快な重厚感」という深い味わいがわかるのではないか、と思う。たとえばそれは、やや重めのハンドルの微細な手応えの中に、人馬一体感をもたらすBMWの大きな魅力が秘められている、と気付くかどうかの違いとなって現れるのだ。
ブログ一覧 |
BMWというクルマ | クルマ
Posted at
2014/01/12 04:57:36