桜庭は試合開始と同時にガレシックに突進。マウントを取られて顔面へ強烈な連打を浴びつつけたが、1分40秒、左ヒザ十字固めで退けた
オープニング・セレモニーが始まると、巨大な幕で覆われていたその日の“主役”が姿を現した。
総面積世界最大の六角形ケージ、すなわちフェンスを張り巡らせた試合場である。『DREAM.12』(10月25日、大阪城ホール)最大の話題は、このケージだった。
笹原圭一イベントプロデューサーは、ケージを初めて導入した理由を「風景を変えてみたいから」だと語っている。「実験的な意味」だとも。UFCと同様の試合形式にすることで、DREAMの世界水準化を狙ったというわけではないのだ。
『DREAM.12』は、旗揚げ以来初めてGPトーナメントが行なわれない大会。しかも直前の『DREAM.11』(10月6日)がゴールデンタイム中継の「総力戦」だったから、マッチメイクも手薄になってしまう。そういう状況の中で、主催者サイドはケージ導入による話題性を狙ったのだとも言える。いわば、ケージはギミックだった。
好勝負連発で“主役”が交代!
だが、大会の主役は、試合が始まってみるとすぐにとって代わられることになった。新たな主役は、当然のことながら選手たちである。一般的には「弱い」「マニアック」とされるマッチメイクが予想以上に成功したのだ。
前田吉朗は元WEC王者のチェイス・ビービをテンポの速い打撃で攻め立て、一瞬の隙を突いたスリーパーホールドで一本勝ち。一撃必殺の“三日月蹴り”を武器にDREAMでも出世街道に乗った菊野克紀とエディ・アルバレスの一戦は攻守が目まぐるしく変わる展開の末、肩固めでアルバレスが勝利した。
ウェルター級チャンピオンのマリウス・ザロムスキーは1Rわずか19秒でペ・ミョンホをKOしてみせる。決まり手はハイキック。ザロムスキーはウェルター級GPの準決勝、決勝に続き、3試合連続でハイキックによるKO勝利という離れ業をやってのけた。
圧巻だったのは桜庭和志vs.ゼルグ“弁慶”ガレシックだ。開始直後にタックルで寝技に持ち込んだ桜庭は、すぐさま足関節技に移行。ガレシックのパウンド連打でKO寸前に追い込まれながらも足を離さず、粘りに粘ってヒザ十字固めを極めてみせたのだ。かつての輝きを失っていたベテランファイターの壮絶な勝利に、観客は総立ちの大歓声で応えた。
彼らは、金網に押し込み、身動きを封じた上で殴るといった“ケージ仕様”の闘いをしたわけではない。ケージは試合内容や結果に影響を与えなかった。ただ邪魔をしなかったというだけだ。
勝ち負けの重さが選手と観客を加熱した。
では、なぜ『DREAM.12』で好勝負が連発したのかといえば、そこにシビアさがあったからではないか。ゴールデンタイム中継のない“谷間の興行”で組まれた一般的には「弱い」とされるカードは、見方を変えればコアな魅力にあふれていたのだ。
前田vs.ビービはフェザー級戦線での生き残りをかけた試合だった。ザロムスキーの相手ミョンホも、初参戦ながらDEEP、MARSなどでの実績は充分。グラウンドも含めたトータルな実力では王者を上回ると言ってもいい選手だったのだ。アルバレスはMMAライト級の世界トップ10に入る強豪であり、彼に無敗の新鋭・菊野が勝てば、ライト級のヒエラルキーが激変する可能性があった。そして桜庭と対戦したガレシックは、ミドル級GPベスト4の選手。『DREAM.11』で行なわれたルビン“Mr.ハリウッド”ウィリアムズ(この試合がMMAデビュー戦だった)のような「顔見せマッチ」とはわけが違う。
どちらが勝つかまったく分からない。そして負けた選手はキャリアに決定的なダメージを負うことになる。そういうシビアさが、選手たちが繰り広げる攻防と観客の心を加熱していったのである。
この日、会場に足を運んだファンの多くが「次にDREAMが大阪で大会をやる時は、絶対に来よう」と思ったのではないか。そのことで、DREAMのブランドイメージは確実に向上した。勝負のシビアさと、それに真正面から向き合う選手の姿は、どんなギミックにも優るのだ。
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2009/10/28 10:13:44