当時私は大学生で学校が終わると小さな古書店でバイトしていた。ガラス扉もガタピシなるような古ぼけた小さな古書店で店員は私、一人だった。
社長は何店か他に古物店を持っており、店番をもう一人の昼番のスタッフやアキアキシフトの休日主婦スタッフと交代で行っていた。
その日も夕方の街を原付バイクで通勤し、昼番スタッフと交代する。店の前は公園になっており、調度うず高く本が積まれた販売カウンターのパイプ椅子に腰掛けると、汚れたガラス、全面ガラス越しの向こうに前の細長い公園のベンチのひとつが真正面に見える。
基本暇な店だがラッシュアワーには常連さんや近所の方が訪れこの店の売上を支える。しかしこの時間はラッシュアワーにはまだ少しだけあった。
昼番が買い取った積まれた本をパラパラとめくりながらパイプ椅子で外に目をやると、高校生ぐらいの女の娘が正面のベンチに座っている。
季節は冬でそのベンチに座る方は珍しく一瞬気に留めたが、昼番買い取り書籍を処理しないとカウンターが使えなくなるほど積まれていくので業務に戻った。
閉店時間を迎え、閉店作業の為シャッターを閉めに外に出ると彼女はもういなかった。
翌日も同じように球場前を通り出勤する。
するともう昨日の娘がベンチに座っていた。
そんなことが1週間ほど続き、冬は深まっていった。その日も閉店作業でシャッターを閉めに出るとその日は彼女がまだ座っていた。
どうしようもなく若い女性が気になる年代だったので(笑)、チラチラ気にしながらシャッターを閉めた。
売上げ帳簿をつけながら気になって仕方がない。
手を止め店の外に出た。
すると彼女は暗い寒空のなか座っていた。彼女を照らすように街灯の光が冬風に揺れていた。
私はポケットの財布から小銭を取り出し、横の帽子屋の自動販売機でホットと書かれた缶ミルクティーを買った。
わざとドカドカ歩いて存在感を出しながら彼女の座るベンチに近づいた。
「寒くないですか?。良かったら。」
彼女が怯える仔犬みたいに私を見上げた。
「そこの古本屋のスタッフです。」
振り返って古書店を指差した。
「知っています。」
震えた声だった。
話を聞いてみると
「家に帰りたくない事情がある。」
「迷惑ならもうこのベンチにはこない。」
「暗くなって寒いけど大丈夫。」
「古本屋さんを見ているとなぜかホッとした。」
「だからこのベンチが好きだった。」
「ごめんなさい。」
彼女は話した。
「飯は喰いましたか?。」
彼女は首を振った。
「家に帰って食べますか?。もう暗いし、閉店時間です。」
彼女は首をふった。
「もう少しここにいます。大丈夫です。誰も心配する者などおりません。」
「少しだけ待っててくれますか。閉店作業をして社長に報告の電話をかけて来ますので。」
「この裏に旨い豚カツ屋があるんです。僕には高級店なんですが、お試しカツ重セットだけサービスメニューで980円なんです。カツ重は好きですか?。」
彼女は頷いた。
それを見て私は店まで駆け出していた。
昨日仕送りだったよな。いくら持ってたっけと思いながら……。
昨日の夕食は豚カツだった。
息子は成長期で1枚では足りないのか、
妻から半分貰って1枚半食べている。
娘が羨ましそうに兄の皿と私の皿と私を見てくる。仕方ないので一番いい真ん中の部分を2切れやった。
「お母さん、豚カツの量増やそう。このままでは、親が食べられなくなる日は近い。」
妻は少し考えたあと、
「そうしましょう。私豚カツ大好きだし!。」
大声で笑った。
付け合せの春キャベツが美味しかった。
(写真は現在の1.5倍バージョンです。)
☆☆☆★★
☆使い回し警報発令☆
◎使い回しランプ点灯◎
(嘘webライター嘘小説家 norimaki50)
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2022/05/25 09:26:19