
「艦長!ハープーンは三弾とも目標位置に命中!砲撃が止まりました!」
「やったか・・・」
「夜が明けてきました。しかし霧が立ち込めていてよくわかりません。」
双眼鏡をのぞいている副長が云った。
その時、ソナー手が叫んだ。
「艦長!潜水艦が2隻接近してきます!」
「なに!? 敵か、味方か!?」
「魚雷の発射音が!」
「アスロック、短魚雷、発射準備!」
「艦長!魚雷が!」
「来るか!?」山波は覚悟を決めた。
「魚雷が戦艦に向かって各潜水艦から6射!」
山波はほっと胸をなでおろした。
ブリッジ横の監視台に出て、明るくなってきた霧の向こう側を見た。
空にオレンジ色の閃光が見え、続いて爆発音
「今のは・・・」
「ミサイル艇「おおたか」から通信、ハープーンによる攻撃開始!」
「佐世保から、おおたかが来てくれたのか!」
「魚雷、間もなく命中します!」
その時、轟音とともに妙高の頭上にヘリコプターが現れ霧の中の戦艦に向かっていった。
「今頃になって飛んできやがったか!3次元レーダーがやられてしまったら、味方の船や戦闘機が接近してもわからんな。」
魚雷が一斉に命中した激しい爆発音が響き、炎が霧を通して山波たちの眼前を赤く染めた。
「よし、これで奴も終わりだな。艦を旋回させろ。奴の断末魔の姿を見に行くぞ。」
みょうこうは急旋回して、霧の中へ向かった。レーダーが破壊されたため、多くの甲板員が前方を見張った。
「艦長、霧が晴れてきましたね。」
「そうだな。沈む前に奴をはっきりとこの目で確かめたいものだ。」
霧は一気に晴れ、穏やかな海面とともに青空が広がった。
「あ・・・」
山波たちは声も出ず、ただただ海を凝視した。
そこには接近してくるミサイル艇おおたかと、上空を飛びまわる二機のヘリの姿しかなく、何事もなかったかのように波は穏やかだった。
「奴はもう沈んじまったのか? にしてもでかい船が爆発しながら沈んだ痕跡がなさ過ぎる…」
「いくつか油と破片が浮かんでいますが、我々の兵器のものかもしれません。」
副長は双眼鏡に釘づけだった。
「どこへ行った? あんな強力な戦艦が跡形もなく簡単に沈むのか?」
「やっぱり亡霊戦艦だったのでしょうか・・・」
分家の言葉に山波は半分吹っ飛んでなくなったマストを見上げた。
「じゃぁこいつは誰がやったんだ? 誰が攻撃してきたと言うんだ?」
分家にもどう説明したらいいかわからなかった。
「艦長、2隻の潜水艦、浮上します。アメリカの原潜エクセルシオールと、あ、海自のそうりゅうです!」
相次いでみょうこうの近くに2隻の潜水艦が浮上した。
「そうりゅうの速水艦長から通信が入ってます。」
速水は山波の旧知の友だった。
「山波よ、こっぴどくやられたな。」セイルから顔を出した速水からだった。
「さすが海の忍者だな。察知して助けにきてくれたか。にしても奴はどこへ消えたかわかるか?」
「それが・・・魚雷が命中したところまでは確認したが、そのあと忽然とソナーから反応が消えた。」
「なんだ?風船で出来た船だっただとでもいうのか?」
「わからん。今から再び潜行して痕跡を探ってみる。ではまた、陸に揚がったら一杯やろう。どうせ、お前にはあまるほどの時間が出来るんだからな。」
そうりゅうの速水艦長はそれだけ話すと、さっと敬礼してセイルから姿を消した。
そして、そうりゅうもまるで存在をかき消すかのように静かに潜行していった。
「確かに… 修理で時間が出来るのではなく、命令に反したからな・・」
その山波のつぶやきに、分家が応答した。
「しかし、艦長殿はこの艦の乗組員の安全と、いや、日本国民の安全のために戦われたのでありますから、処罰どころか、勲章ものだと思います。」
その分家の言葉に山波は答えなかった。
「艦長、ヘリも霧の中に黒い巨大な影を一瞬見たが、そのあとは何も見つけられなかったとのことです。「おおたか」からも同様の報告が入っています。」
副長からの報告だった。
「洋上に出ていたとはいえ、さすが40ノット出せるミサイル艇は早いな。おおたかの艦長にも礼を言っといてくれ。」
空は晴れ渡り、海は穏やかだった。巨大戦艦の存在はどこにも感じられなかった。
「分家君、臨時作戦参謀補の任務を解く。早く飯を作りに行ってくれ。急に腹が減ってきた。」
分家はほっとした表情を浮かべ、敬礼してブリッジから去った。
忽然と姿を消した幻の戦艦。確かなのは、みょうこうが撮影した、霧の中の巨大物体の姿と、穴をあけられた煙突、そして上半分を吹っ飛ばされたマストだけだった。
近辺捜索は他の護衛艦と米軍に任せ、至急舞鶴へ帰港せよとの命を受けて、みょうこうは戦闘海域を離れた。
山波は去りゆく戦闘海域を眺めながら、夢とも現実ともつかぬ昨夜の出来事がなんであったのか考え込んだ。振り返り見上げると、そこには無残なマストの姿があった。
「さて、朝飯でも喰いに行くか・・・」
時刻は既に昼を回っていたが、山波はそうつぶやくと、ブリッジから離れた。
一部始終を観察したその男は潜望鏡を収納した。
「第1テストはまだまだだな。もう少し射程を延ばし、命中率を高めなければなるまい。サトキー博士、よろしく頼むぞ。」
「デコスキー大佐、承知いたしました。では次なるテストの準備をいたします。UD結社の栄光の日はもうまもなくです。」
博士のその言葉にデコスキーと呼ばれる男が静かにうなずくと、
「深々度潜航、基地に帰投する。」と低い声で命令すると指令室から出ていった。
黒く巨大なその潜水艦は、ソナーにも捉えられることなく、静かに海の底に潜行していったのだった。
「亡霊戦艦対イージス艦みょうこう」終わり
ー◎◎ー
ブログ一覧 | 日記
Posted at
2012/03/15 23:33:35