生涯の大半を別々に過ごした親父の、本当の姿
先日、親父の五回忌があった。
生涯の大半をほぼ別居状態で過ごした俺にとって、親父の記憶は正直、断片的だ。ギャンブル好きで、家に寄り付かず、たまに帰ってきても何を考えているのか分からない。そんな印象ばかりが強く残っていた。
法要の後、数少ない仲の良い親族と酒を酌み交わす中で、ふと親父の車の話になった。俺がドライブ好きなのを知っている親戚が、何気なく口にした一言が、俺の知らない親父の人生を辿る、思わぬドライブの始まりだった。
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新車カローラから始まった、俺の知らない青年時代
「あいつが最初に乗ってたの、カローラだったよな。新車で買ってさ」
親族の証言で初めて知った、親父の最初の愛車。モデルまでは分からないが、MT車だったらしい。大卒後、社会人としての一歩を踏み出した親父が、希望に胸を膨らませてハンドルを握る姿が目に浮かぶようだ。
俺が生まれる前の、まだ何者でもなかった時代の親父。そこには、俺が全く知らない「青年」としての顔があったはずだ。
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家族の記憶と、働くためのチェリーバン
親父はその後、退職して家業に入った。その時に買ったのが、新車のチェリーバン(初代MT)だったらしい。納品のための営業車も兼ねていたというから、この車には家族を背負って働く男の汗が染み込んでいたのだろう。
俺が生まれて間もない頃、このチェリーバンの助手席に乗せられた記憶が、おぼろげながらあるような、ないような……。
しかし、この頃から親父の人生の歯車は、少しずつ狂い始めていた。そう、ギャンブルだ。
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ギャンブルの影と、中古車を乗り継いだ時代
親族の話では、親父は次第に働かなくなり、ギャンブルにのめり込んでいったという。ここから、俺たち家族の別居生活が始まり、親父の愛車遍歴も中古車へと変わっていく。
中古のパルサー(初代MT)。
中古のコルサ5ドア(2代目MT)。マッケンローがCMしてたやつかな?
そして、中古のファミリアセダン(赤いファミリアの次の3代目ディーゼルMT)。
ギャンブルによる金欠が続いていたのだろう。このファミリアには、実に15年、20万キロも乗っていたらしい。物持ちがいいのか、ただ新しい車を買う金がなかったのか。今となっては分からない。
俺の中の親父の記憶は、ほとんどがこの頃のものだ。いつも気だるそうで、金の無心ばかり。正直、良い思い出はほとんどない。
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晩年の父と、最初のAT車「スパシオ」
「でもな、最後の方はちょっと変わったんだよ」
親戚が意外な事実を口にした。
ファミリアを乗りつぶした後、親父が手に入れたのは、中古のカローラスパシオ(初代AT)だったという。
驚いたのは、その購入理由だ。
「誰も面倒を見なくなった、お前のばあちゃん(親父の母親)の介護用にって、買ったらしいんだ」
……衝撃だった。
あの親父が? ギャンブルファーストで、家族のことなんて二の次だと思っていたあの親父が、介護のために。しかも、生涯乗り続けたMT車ではなく、誰でも運転しやすいAT車を。
そこには、俺の知らない「息子」としての一面があったのだ。ギャンブラー以外の顔も、確かにあったんだな、と胸の奥が少しだけ熱くなった。
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ヴィッツと免許返納の日、そして父の人生の終着点
親父が最後に乗っていた車は、中古のヴィッツ(2代目、1.0CVT)だった。
もう高齢で視力もかなり落ちていたのだろう。車体には傷やへこみが無数にあった。
亡くなる1ヶ月前、主治医から「意識混濁の症状が見られるので、もう緩和ケアに切り替えましょう」と告げられた日、俺は母と二人で、親父には内緒で免許の返納手続きをした。
そして、ガリバーでヴィッツを売却(というか査定額的には事実上譲渡)した。
皮肉なことに、親父の最後の愛車に俺がハンドルを握ったのは、その身辺整理のための最初で最後の一度きりだった。
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親父は車好きじゃなかった?俺がドライブを愛する本当の理由
親族の話を総合すると、どうやら親父は、俺が思っていたような「車好き」ではなかったのかもしれない。ただ、その時々の生活と経済状況に合わせて、必要に迫られて車を乗り継いできただけ。
じゃあ、なんで俺はこんなにドライブが好きなんだろう?
ふと、思った。
俺がハンドルを握り、知らない道を走るのは、あの断片的だった親父の人生の、空白のページを埋めたいからなのかもしれない。カローラで走ったであろう青年時代の道、チェリーバンで駆け回ったであろう仕事の道、そして、ファミリアで通い詰めたであろうギャンブル場への道。
俺は無意識に、車を通して親父の人生を追体験しようとしているのかもしれない。
そんなことを考えていたら、隣でスマホをいじっていた現在中3の息子が顔を上げた。
「パパ、次はどこ行く?万博??」
息子の生きる時代は、もうEVや自動運転が当たり前になっているだろう。彼がいつか免許を取った時、俺は親父について、そして車について、何を語るのだろうか。
想像もつかない未来の景色を思い描きながら、俺はアクセルを少しだけ強く踏み込んだ。
あなたの親父さんは、どんな車に乗っていましたか?
もしよかったら、コメントであなたの家族と車にまつわる思い出を教えてください。
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Posted at
2025/08/31 14:19:54