胴長

　下級生の頃の彼女は、全く垢抜けないチアリーダーだった。
　やや面長な瓜実顔、どう贔屓目に見ても今風の美人とは評し難い。それなりの運動能力を備え、スレンダーではあるものの、胴体も長く間延びして見えてしまう。
　さてさて、このままチアリーダーを続けて行けるものか、余計なお世話を承知で心配な子だった。



　最上級生となった今年、春季リーグで再会した彼女は、見違えるように美しくなっていた。

　顔だけなら、メイクでカヴァーすることもできるし、いざとなればメスを入れたっていい(実際には整形なんかしていないが)。
　弾けるような笑顔を支える躯体は、間延びした胴長な印象が完全に解消されている。
　衣装の着こなしやフィジカルの強化だけで、全体の印象を変えられるとは思われない。
　何をどう改善したら、肉体そのものを造り変えることができるのか。既に私の理解を超越している。

　ただ一つ、間違いなく言い切れるのは、週末昼間の神宮球場は、若者を逞しく・美しく成長させる魔法を備えている……ということだ。




　来週の最終カード・慶早戦を前に、第7週にて法政大・明治大・立教大・東京大の各校は、今季最後の対戦を迎えた。

　法政大・明治大の1勝で迎えた日曜日、東京大・立教大が一矢報いなければ、今季が終わってしまう。勝つにしろ負けるにしろ、シーズン最終盤の寂寥感は否定し得ない。
　観客の中にも、学生のご家族なのだろう。「あの子たちが卒業かと思うと、もう……」と涙ぐむ方がいらした。

　
　ところが、当の学生はどうだろう。
　むしろ笑顔20％増し、演技のキレ具合30％増し、スタンドの盛り上がり50％増し…の印象で、悲壮感の欠片も無い。
　法政大以外の各校は優勝の可能性を喪失し、目前の試合で完全燃焼するしか無い事情もあったとは思うが、ファンとしてはとても心温まる雰囲気を愉しめた。







　それでも、「元・垢抜けないチアリーダー」の演技を目で追う私の心中は、必ずしも穏やかならず。
　もう二度と、この濃密な空間を共有できないのかと思うと、つい視界が滲んでくる。

　いやいや、一人の若者の成長に立ち合い、美しく変化した姿を確認できた幸せを、同窓として感謝しなければならぬ。
　卒業しても、後輩の成長を見に応援スタンドへ来てくれたなら、共にOB・OGとして至福の時間を過ごすことができるだろう。

　慶早戦もまだ終わっておらず、気が早いのを承知でまた来年、週末昼間の神宮球場で会おう。