チューニングされたRB26などのハイパワーエンジンは、吸気・排気効率にとても敏感になります。
エンジンのスペックに対してボトルネックになるところがあれば、セッティング中にノッキングやパワー不足に悩まされることになるはずです。
車のカスタムにあたって多くの人が交換したであろうマフラーも、そのお手軽さから軽視されがちではありますが、パワーを引き出すにあたって非常に重要な役割を果たしています。
しかし、簡単で安く交換できるということもあってか、原理原則、理屈を語らずに高性能を謳ったものが多く、一体何が正解なのか分かり難くなっているのが現状ではないでしょうか。
ターボ車のマフラーでは、一般的にこんなことが言われていると思います。
・太いと低回転がスカスカになるが、上は伸びる
・サブタイコがあると低回転域のトルクが上がる
・とにかく太いマフラーにすれば全域で良くなる
サブタイコやメインタイコにガッツリ絞りが入っているマフラーの話は置いておいて、フルストレート構造のマフラーでもとにかく太ければ太いほど良いのでしょうか?
少し、排気効率について考えてみます。
■慣性力
NAの軽自動車のインテークパイプをご覧になったことはあるでしょうか。
普通車と比べて、非常に細長いパイプしています。
なぜでしょうか。
エンジンパワーを出すためには、多くの燃料と空気をシリンダーに送り込んで爆発させる必要があります。
エンジンが高回転のときは、たくさんの空気を吸い込むのでインテークパイプ内を多くの空気が通り、流速が高くなります。
空気は質量と粘性を持った物体のため、流速が速くなればそのままのスピードでシリンダーへ進み続けようとします。
高回転域ではこれを利用して、吸気バルブをなるべく早く開き、遅く閉じる(オーバーラップさせる)ことで多くの空気をシリンダーへ送り込み、パワーを稼ぐことができます。
バルブを閉じて再び開くときにも、慣性で吸気がシリンダーへ入り込もうとしているため、バルブを開いてすぐにたくさんの空気が入ってくるためです。
では、エンジンが低回転のときはどうでしょうか。
吸い込む空気量が少ないので、流速は下がります。また、オーバーラップをさせると、慣性力が弱い空気しか送られてこない状況では、吸気バルブからサージタンクへ逆流しようとしてしまいます。
これを防ぎ、低回転域でパワーを上げるには吸気流速を高めることが必要です。
細い管にすれば低回転域でも流速が上がり、慣性によって吸気効率を上げることができます。
NAはターボ車より絶対的な吸気量が少ないため、高回転域のことを考えても細いインテークパイプで十分というわけです。
また、パイプの長さは空気量に関係してきます。パイプが長ければ、流速が高まった空気量が多くなり、一度バルブを閉じてしまっても流速の付いた空気が後から後から押し続けるため、再度バルブを開けたときの吸気効率の低下を防ぐ効果があります。
同じことが排気効率でも言えます。
低回転域でもスムーズは排気を行うためには、マフラー径を細く・長くして流速と流量を高め、エンジンから排気を吸い出す効果を狙う必要があります。
■排気抵抗
ここまでの話では、低回転域では吸気管も排気管も細くて長いほうが良いことがわかりました。
では、高回転域ではどうでしょうか。
細くて長いマフラーで、エンジン回転数を高めるとどうなるかというと、低回転域で最適な流速だったものが更に流速が高まっていきます。
ここで、パイプの長さがひとつネックになります。パイプが長いことでパイプ内の空気量を増やし、慣性力を高めていましたが、流速を上げていく段階ではこの慣性力が抵抗となります。
つまり、パイプ内でゆっくり流れている排気を押し出す力が、空気量が多いことによってたくさん必要になるのです。
質量を持つ物体のエネルギー量は速度の2乗で高まるので、高回転域で流速が高まれば高まるほど、慣性力による抵抗は大きくなります。
排気を押し出すのに大きな力が必要になるということは、エンジンの回転数の上昇がゆっくりとなり、レスポンスが悪くなりパワーも出なくなるわけですね。
では高回転域でパワーを出すにはどうすればよいのか。
ひとつはパイプ内の空気量を減らすため、パイプを短くする事が考えられます。
当然、低回転域では吸い出し効果が得られにくいので、パワーが出なくなります。
Gr.AのBNR32などはそれを狙ったパイプレイアウトをしていますね。
ふたつめは、パイプを太くして流速を下げて抵抗を下げることです。
パイプを太くすることで、パイプ内の空気量は増えてしまいますが、断面積が増えることでパイプ内の流速が下がります。
慣性力による抵抗は、流速の2乗で効いてきますので、パイプ径を1.5倍にして断面積が2.25倍になり、空気量が2.25倍になったとしても、流速が1/(2.25^2) = 1/5になるので、結果として0.45倍の抵抗になり、排気抵抗を低減することができます。
つまり、高回転だけを考えれば太くて短いマフラーが正義ということになります。
次点で、細くて短いマフラーというところかと思います。
■サイレンサー
次に、良く言われる「タイコ(適度な排気抵抗)があったほうが低回転のトルクが出る」について、考えてみたいと思います。
先程の後で述べた通り、低回転域で重要なのは流速であって、慣性力であります。
基本的に、消音器は音とともに排気もかき乱すため、抵抗となり排気流速は下がります。
そのため、ネット上でもタイコによって低回転域のトルクが変化するのはおかしい、プラシーボだという意見が散見されます。
しかしです。実際に乗ってみれば絞りのない砲弾マフラーの32の低回転域は確かにトルクがなく、サブタイコ付きのオーバルタイコのマフラーは低回転域で乗りやすいんです。
この事実をもとに考察すると、一つの可能性にたどりつきます。
消音器に入る排気の流れが渦となり、スムーズに排気が流れる実質管径が細くなり、流速が高まっている可能性です。
※サイレンサーの構造
グラスウールを使ったマフラーは吸収式、タイコの中が空っぽでパンチングメタルで仕切ってあるものが共鳴式のイメージです。
良くスポーツマフラーで採用されている、吸収式と共鳴式で考えてみましょう。
消音というのは、音の波をぶつけ合って、エネルギーを失わせることを指します。音が向かっていくところには排気も流れていきますので、排気もぶつかり合い、エネルギー(流速)を失います。
排気抵抗は無い方が絶対によく、スムーズに排気を抜くことを全体に考えるとこのようになるかと思います。
消音器内での排気の流れ方を、低回転側と高回転側でシミュレーションして、低回転側はこのように実質管径を絞るような流れを発生させ、高回転になって流量・流速が高まっていくと渦が消失してストレート排気に近くなるようなマフラーは、低回転域の音量と高回転域での性能を両立したマフラーといえるのではないでしょうか。
ということで、最近の自分の思考の整理でちょっと長文を書いてみました。
段々と、理想のマフラー像が見えてきたような。