2018年01月18日
佐山芳恵再び、・・(^。^)y-.。o○(21)
「僕はSMみたいなことは趣味じゃないが、あなたのように頭が良くて行動力があって恐ろしく気が強い女が屈辱にまみれて泣き喚いて謝罪するのを見るのも一興かも知れない。今日はちょっと趣向を変えようか。」
奴はゆっくりと立ち上がった。うーん、ここまでやるか。それはちょっと想定外だった。でも僕は女の格好をしていても中身は百戦錬磨の中年男性だということをお前は知らないだろう。女の姿をしているからと言ってなめたらいかんぜよ。奴との距離は二、三メートル、いきなり飛び込まれたら困るが、奴は僕を刺そうとしている訳じゃないし、あくまでも脅しだから飛び込んでくることはないだろう。僕は腰を下ろして手に持ったグラスを床に置くとゆっくりと後に下がりながら座っていた丸椅子を手に持って体の前に構えた。ナイフの長さは十五センチ程度、椅子は手で持った部分を除いても五十センチ以上はあるので勢いをつけて飛び込まれない限り椅子で上手く刃先をさばいてかわせば何とかなるだろう。後は体力勝負で隙を見せた方が負けということだ。
「ほお、さすがに並みの女のように慌てたりはしませんね。あくまで戦うと言うことですか。その方がこっちもやりがいがあるというものだ。その勝気がどこまで続くか見ものですね。では始めるとしますか。」
とうとう本性を現したな、この魑魅魍魎が。妖怪物の怪のような奴はこの僕が成敗してくれる。奴は一歩踏み出すと軽くナイフを振るった。その刃先を椅子で軽く払った。刃がパイプに当って乾いた金属音を立てた。以前に対北の政所様戦の時にも話したが、こんな場合は慌てたり逆上したりして大きく椅子を振り回してはいけない。大きく振り回せば隙も出来易いし体力も消耗する。相手を良く見て最小限の動きで刃先をかわせば良い。こんな時は素手で組み付かれる方が僕としてはずっと対応が難しくなるが、奴もそんなに格闘戦の経験はないようだし、体力もさほどでもなさそうだ。奴がこんなことをしている一番の理由は女が恐れおののくのを見ながら獲物を弄びたいのだろう。奴はその後も数回軽く反応を確かめるように刃先を突き出してきた。僕はその都度椅子で軽く刃先を避けていたが、この状態が長引くと、いくら軽いとは言ってもナイフの何倍も重い椅子を構え続けるのは僕の方に不利だった。
「何時までそうして構えていられますかね。縛り上げられたあなたが泣き喚く姿が見えるようだ。楽しみですね、本当に。まあゆっくりやりましょう。時間はいくらでもあるんだから。」
奴は薄笑いを浮かべながらナイフを突き出し続けた。こんなことをしたことが過去にもあるんだろう。とんでもない奴だ。しかし、どうもこの状態は僕にとってあまり良いとは言えないようだ。そうかと言ってこの手合いは口で挑発しても乗ってきそうもない。どっちにしてもこれにけりを着けないと物事が進まない。考えた末にこっちから仕掛けることにした。
「私だってバカじゃないわ。ここに来る前にきちんと連絡はしてあるわ。連絡がなければ私の携帯の位置検索をして警察に通報してって。私の携帯にはGPS機能がついているのよ。あなたの負けね、もう本当のことを話して謝罪しなさい。」
奴もGPS機能には焦ったようだった。早くけりを着けようと思ったのか、これまでよりも大きく強く突いてきた。僕は待ってましたとばかり、一歩下がって椅子で腕を思い切り叩いてやった。骨に当ったのか「あっ」と声を上げると奴はナイフを取り落とした。慌ててナイフを拾おうとかがんだところに椅子で頭を叩いてやった。この程度でけりがつくとは思わなかったが、奴はナイフをつかんだままもう一方の手で頭を抱えた。そこをもう一発叩いてやった。
「この女、手加減してやればいい気になりやがって。ずたずたにしてやる。」
叩かれて相当頭に来たのかナイフを振り上げて立ち上がろうとした。中腰になったところで前ががら空きだったので一歩踏み出して椅子で胸の辺りを思い切り突いてやった。奴は派手に後にひっくり返って頭をサッシの枠にぶつけた。でも僕の左腕にもピリッとした感覚が走った。ナイフが当ったのだろう、腕から血が流れ出していた。でもそんなに深い傷ではないようで腕の力も抜けていないのであまり気にはしなかった。後にひっくり返って頭を打った奴は「うー」とか言いながら起き上がろうとしていた。この際フィニッシュするには椅子を横に振って側頭部あるいは顔を狙うのがいいのだろうが、それでは大怪我をさせる恐れがあるのでさすがに躊躇った。
「ぶっ殺してやる」
奴はゆっくりと起き上がろうとした。僕はとっさに右手に持った椅子を床につけてそれを支点にして奴の胸を目がけて蹴りを入れた。ここ数年何万回という回数をこなして鍛えに鍛えたビリー隊長直伝のコンバットキックだった。こんなことのためにやっていたのではなかったのだが、芸は身を助けると言うのはこういうことを言うのだろうか。蹴りは奴の首の付け根辺りに炸裂した。女とは言っても脚力というのは腕力と較べれば雲泥の差があるものだ。どんな足弱でも百メートルを何十秒かで走り切るだろうが、どんなに鍛えた者でも百メートルを逆立ちで走り切るのは難しいだろう。
奴はまた派手に後にひっくり返った。そしてサッシの枠に体をぶつけたが、その時「ごつん」という鈍い大きな音がした。同時に僕の足には先とは比較にならないほど強い衝撃が走った。蹴られた時に振り回したナイフが当ったのだろう。それでもまずやらなければいけないのは奴が取り落としたナイフを始末して奴を動けなくすることだった。僕はナイフを拾い上げると玄関の方へ投げ、正体なくのびている奴の手を棚に置いてあったガムテープでぐるぐると巻いてその上から荷造り用のビニールひもで重ねて縛り上げた。その後足も同様に縛り上げて奴の動きを封じると、痛みが走った自分の足を見てみた。
左のふくらはぎの半ばから下が血で赤く染まっていた。カーゴパンツをまくってみるとふくらはぎの内側が切り裂かれてけっこうな勢いで血が流れ出していた。止血をしないといけないと思ったが、適当なものがないので自分のハンドタオルを傷口に当ててパンツの上からガムテープでぐるぐると巻いておいた。腕の傷はかすった程度で出血もそれほどでもなかったのでこれもハンドタオルを当ててガムテープで巻いてやった。その間、奴は気を失ったままだったので自分の処理が終わってからキッチンに行ってグラスに水を汲んできて奴の顔にかけてやった。
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小説3 | 日記
Posted at
2018/01/18 17:16:38
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