~ベスモ同窓会・討ち入りの朝の心変わり②
10月20日の「ベスモ同窓会in TOKYO」の時計の針は、まだ10時45分あたりをウロウロしている。つまり、ガンさんのドライブする赤のNSXがフランクフルトの街で、フェラーリの 348ts と遭遇し、しばらくのランデブー・ランを楽しんだあと、アウトバーンを南下して、180kmほど離れたアイフェル山中のニュルブルクリンクに着いたところまでを、紹介したにすぎなかった。
夕闇の向こうにニュルのお城のシルエット。さあ、明日はいよいよニュルアタックだぞ、というところまでしか伝えてなかった。
あえて「上映会」のオープニングに選んだ『The 疾る! HONDA NSX』は毎月、定期的に送り出される、いわゆる「ベスモ」と違って、BMスペシャルと呼ばれる特集ものだから、ひたすらNSXを60分間にわたってしゃぶり尽くすことができた。それだけに内容も濃く、創り方にも映画並みの工夫が凝らされていた。
この60分の内容の中から、特に、この日の参加者にぜひ鑑賞してもらいたかったのは、このあとに用意されていた「ニュルの魔性を裸にする」10分間の部分であった。
フランクフルトの中心部を横切るマイン河畔のカフェテラスに陣取り、ニュルブルクリンクのコース図を広げ、「ま、NSXはこのニュルブルクリンクで開発され、非常に剛性の高いクルマになって誕生したわけだけれども……」と前置きしながら、ガンさんがニュルブルクリンクというサーキットの成り立ちから、コースの特性などのひとり語りで始まるシーン。淡々とした口調が、バックに流れるピアノの旋律に融け込んでいる。ゆったりとした川の流れ。対岸の大聖堂の尖塔。映画の1シーンのようだ。
ナレーションはいっさい排して、説明は必要最小限のテロップとキャプションがあるだけ。だから、ガンさんが進行役であり、たったひとりの出演者であった。それだけに、観る側はガンさんの声以外は、エンジン音、タイヤのスキールする音、そして風切り音から情報を得るしかない、一種の催眠状態に陥る。そこが、いつ再生しても新鮮に感じられる制作者の仕掛けだったのか。
「一見すると普通の道路のように見えるけど、走るとバンピー。アップダウンと路面変化はタイヤとサスペンションにとっては、途轍もなく過酷なコースなんです」
と、それを証明するように赤いNSXが高速S字コーナーを、ボディを撓らせて駆け下りるシーンに画面に切り替わり、次にガンさんの指がニュルのコース図をなぞる。
「この地図でいえば4.5キロ地点かな、何もないようなコーナーに見えるけれど、実際はゆるいS字があって、もの凄い下り。そうねぇ、20%くらいかな。それを下って行って、この横線のあるところから急に登る。つまりここで縦Gがガーンとかかって、そこでフルブレーキするから、911ターボのあのサスペンションがフルバンプして、要するに蛙がつぶれたみたいにグシャッとなって、上から押さえつけられたみたいになる。その瞬間、あの高い剛性がギシッというんだけども、なおかつそこで路面が荒れているから、瞬間、もの凄い縦Gがそこで発生していると思う」
ガンさんの語りに合わせて、該当の難関をズバッとNSXが駆け抜けて行く映像を重ねるから、沁み込むように「状況」が伝わるのだ。
ガンさんの語りをもう少し続けよう。
「その2キロ手前では、1度ジャンプして着地するのだが、そのジャンプの着地でもタイヤ1本違うと、路面の荒れ方が違うので、全然違う挙動が起こるみたいな……ま、気障にいえばコースが生きている、そんな激しさを持ったコースだと思う」
再生機のカウンターはすでに40分の目盛りを超そうとしている。
このコースでは、いかにブレーキ性能が試されるのかもよく判った。それよりも、ガンさんがホンモノ走りでニュルをどう手なずけて行くのかを見たくて、みんながウズウズしている気配が読み取れる。
そんなこと、判ってるよ、といった感じで、レーシンググローブをはめて、ノーヘルのガンさんが、コースへ出て行くのを、まず車載カメラから映し出す。いきなりの下りS字が待っていた。息つく暇もなく様々なコーナーが、次から次と襲ってくる。それをいかにも楽しそうに一つ一つ料理して行くガンさん。それはまさに「黒澤元治のドライビングバイブル映像版」であった。
「この先、強烈な下りになっています。ブレーキ! さぁ、これから路面の変化の激しいところ。判るか、この路面変化。ここの左で昔、ぼくがポルシェでクラッシュしてます。さぁ、ここを抜けるとアデナウ(コースの途中の橋の下にある町)に向かう。オオッと、いま210kmくらい」
時折、外から撮った外絵が挿入され、コーナーとクルマの関係がよく判る。
「カルーセル(大逆転の意味)手前の右コーナー、ああ、ブレーキパッドがつらくなってきてるな。これが有名なカルーセルのバンク。いやぁ、もう(ハンドルが)重い」
そこを過ぎると、高速コーナーが連続する。ガンさんの手の動きが忙しくなった。
「縁石をちょっとお借りして……よぉ、どっこいしょっと。上り、右コーナー」
と、ここでガンさんが右手で指差す。
「この先が、昨日、大井がクラッシュしたところ」
おお!そのシーンが挿入されていた。クルリと1回だけスピンして無事に停止する大井NSX。以来、その高速左回りのポイントを、人は「タコ(大井君の愛称)コーナー」と呼んでいる。
最後に長いストレートが待っていた。
「今日はお城が綺麗でしょ。向かい風かなぁ。235kmしか出ていません。いつもなら245kmオーバーは出るんだけどなぁ」
画面は再び河畔のカフェテラスでのガンさんの語りに戻る。
「ハンドリングをよくしよう、世界一楽しいクルマにしようという狙いがあったようだけれど、その狙い通りに(NSXは)できたと思う。
ぼくも散々テストで乗ったフェラーリの328にくらべて段違いに楽しい、剛性のいいクルマに仕上がっている。たとえばステアリング・インフォメーションがとり易くなっている。いま、自分のクルマ、自分のタイヤが路面に対してどうなっているか、判り易くなっている。だから、次の対応がとり易くなっている。そのへんがキチッととれている」
その翌日、ガンさんはヘルメットを冠って、タイムアタックに入る。映像がノーカットでそっくり収録されているが、ガンさんが本当に伝えたかったのは、いま紹介したニュルブルクリンクという「聖地」の本質を解析し、どう攻めて行くか、そのためにはクルマをどう磨き、鍛えて行けばいいのか、ではなかったろうか。
Photo by CMO
このあと、昼食をみんなで摂ったあと、会場を3Fの集会室に移して、第2部をスタートさせたが、その劈頭、本田俊也編集長に託された大井貴之君の「BM同窓会に出席の皆さんへ」と題した挨拶が上映された。それが、期せずして、打ち合わせたわけでもないのに、彼があいさつを収録した場所はつい先頃のニュルブルクリンクからだったのである。そしてその内容も、ガンさんの『The 疾る!HONDA NSX』のロケ時の裏話だったから、なんとのいう絶妙な呼応のしかただろう、とわたしが驚いたくらいだから、参加メンバーの喜びようは半端ではなかった。
そこでこの際、出席できなかった「ベスモ同窓会」の諸君に、その全文を、ここに披露することにしたい。そのため、またまた、討ち入り当日の朝のプログラム変更の真意に触れるまでに到らなかった。次の機会まで、お許しあれ。
●大井貴之師範代からの「ごあいさつ」
ご無沙汰しております。大井貴之です。
今回、同窓会が開かれるというので、ぜひ参加したかったのですが、なかなか貧乏暇なし、スケジュールを合わせることができませんでした、ということで、今、こんな想い出の地にいるんですが(背景がガンさんコーナーとよばれるポイントの見えるブリッジの上に、というように変わっていく)、いやぁ、懐かしいです。
ぼくが初めてニュルに来たのが、1989年、R32 GT-Rが出たときでしたけれども、そのあとNSXが出て、R33が出て、と何度か取材でニュルに訪れることができました。ま、その時にはね、え~、NSXをぶっつけたみたいな話もありましたが(会場から、どっと笑いが)まぁそれは忘れることにして、撮影のために、無線機をもって黒澤さんの助手席から、カメラを持って待っている人たちに「行きますよ~」と言って知らせる、と。それでカメラの撮影ポジションが近くなってきたら、助手席の足元に潜りこんで、(黒澤さんが)ひとりで走っているようにみせる。そんな、考えてみれば非常に危ないことをしていたのですが、でも、そのお陰でほぼ99%のニュルブル九リンクの黒澤さんドライブの助手席に、毎日のようにのっていたんです。
――というようなことも、すべてベストモータリング(以下BM)の取材のなかで出来事ですが、今のぼくが、運転がうまいぞ、みたいなところで生きていられるのもBMのお陰です。とくに黒澤師匠、それから中谷さん、清水(和夫)さん、土屋さん、服部選手もそうですけど、まあ、たくさんの凄いドライバーたちに囲まれて、ある時は罵声を浴び、ある時はいじめられ、ある時は……。(画面は背景がパーンしていく)まあ、そういう人たちに囲まれてやってこれたのが、いまのぼくの財産になっています。

いまのぼくは『REVスピード』という雑誌についているDVDの企画・制作・自作自演。よかったら、そちらでお会いできたらいいな、と思っています。
あとは『グランツーリスモ』のプレイステーション、あれの制作のお手伝いや、イベントの運営とか、あくせくと働いて、生きておりますので、どこかでお逢いできたらな、と。
ま、次回の同窓会にはぜひ参加させていただきたいと思います。
今日のパーティを楽しんでください。