〜ポルシェ914に乗せてくれた『あいつ』Part.2〜
4月なって、早くも4回をかぞえる日曜の朝がやってきた。
穏やかで風もない平和な午前中は、このところ、総走行距離111,111kmをマークしてからは、すっかり出番の少なくなったプログレの手洗い洗車にあてた。ついでにエンジンルームをのぞく。ウィンドウォッシャーの補充をしてやる。特段の不具合もない。ま、6月には9回目の車検が待ち構えているから、その時にしっかりと「健康診断」をお願いするとしよう。
駐車場を縁取るツツジの赤とピンクの花たちが、もう少しで満開のときを迎えようとしていた。
午後はインターネットのWi-Fi関連機器がもう古くなっていて、しきりに感度劣化を訴えてきているので、新しいハブ式ルータを調達しようと電器量販店のパソコン館へ、プログレを走らせた。
30分後、NECの『Aterm Wi-Fi快適生活 お役立ちBOOK 』を貰って量販店を出る。販売店員に指摘された「指定通信スピードの枠」を確認する必要ができたからだった。その件は月曜日に契約しているJ-COMに問い合わせることにして、心はすでに午後2時から放映される「巨人×阪神」戦に移ってしまった。
ところが、肝腎の地上波デジタルのチャンネル4では暢気な旅番組が流れている。調べてみると、放映開始は午後3時15分から、となっているではないか。それではやむを得ない。ケーブル放送のJ-COMに切り替えればやっているはずだから……。
その前に、チャンネルをフジTVに寄り道してみた。
「フジサンケイレディスクラシック」最終戦の白熱した様子が映し出された。このところ、イ・ボミを筆頭に韓国勢に蹂躙されていた女子ゴルフ界も、魅力のある若手たちが基礎技術をしっかり体得し、力をつけてきたこともあって、かつての活況を取りもどしているらしい。この日も日本勢の5人が2ストローク差で終盤を競り合っている。
舞台となっている静岡県・川奈ホテルゴルフコースは「世界のベストコース100」にも毎年ランクインしている名門で、プレイするには、基本的にはこのホテルに宿泊する必要がある。駿河湾に面し東に富士山が臨める18ホールが「富士コース」、東南側で伊豆大島と向き合い、ちょっと距離は短めだが、「グッバイホール」と呼ぶ海越えの断崖絶壁付きのショートコースの洗礼を受けるのが「大島コース」。打ち終わると吊り橋を渡ってグリーンへ向かうのだ。
*ティーショットしているのが当時31歳だったわたし。まだ正式にHDCPも取得してなかった時代。結局60歳で「8」に。
トーナメントは「富士コース」の方が使われていた。TVが紹介してくれる
川奈ホテルゴルフコースには、いくつかの記憶がつながっている。プレイをしたのも十回を超えている。
最初は1962年(S37=おお、55年前か)。「週刊現代」から総合月刊誌の「日本」に移籍してすぐのこと。編集長から「キミはゴルフをやるそうだから」とレジャー入門特集『GOLF』の担当を割りふられた。監修は作家でゴルフに関する著作も多かった水谷準さんにお願いしたところ、プレイと撮影は『川奈…』にしよう、その交渉は任せたまえ、ということで、こちらはモデルクラブから若いカップルのモデルを調達、一泊付きで川奈まで足を伸ばした。たしか伊東までは東京駅から列車を利用し、そこから地元のタクシーで川奈へ向かったように記憶している。
それから10年後に再訪したときには、プロゴルファーの杉本英世さん(彼は川奈でキャディをやりながらプロを目指したことで有名)と国際事件記者として盛名をはせた大森実さんと、週刊現代連載企画『ビックスギの水平打法』をまとめ上げるために3日間の合宿をここで行った。この時の功徳だろうか、それからは時にはハーフ40を切ることもめずらしくなくなった。
*このビッグスギの企画が大当たり。この頃の週刊現代は100万部を突破していた。そしてこの「枕投げ」秘伝は目から鱗、と大評判だった。
一つだけ、それからの「ベストカー」時代には、痛い目に遭った記憶がある。杉本英世さんの何かの記念コンペがあって、当時、講談社の服部敏幸社長代行が招待されたので、わたしも運転手を買って出て、ご一緒に参加できることになった。そこで徳大寺有恒さんから長期貸与されていたBMW633アルピナで川奈を往復することにした。
快適とは言いがたいが、まずまずのテンポで東名高速を抜け、厚木ICから小田原にむかう自動車専用道路へ入った。油断があった。東名を走るのと同じ調子でアルピナ633のアクセルを踏んでいた。と、前方で旗を振る人影。15キロオーバーで、チケットを切られてしまった。以来、小田厚道路を利用するときには、細心の注意を払うようにしているが、後日、講談社役員室からお呼び出しがあった。
恐る恐る出頭すると、服部社長代行の部屋に通された。
「おい、あのスーパーカーみたいな派手なクルマ、思っていたより乗り心地がよかった。ところで、これを取っておきたまえ。ご苦労さんだった」
封筒にはスピード違反の罰則金と同じ金額が収められていた。
さすが、わが大学の剣道部先輩。有り難く、頂戴したものだった。

それらの「川奈ホテル追憶」の時間を、実は近ごろ、平日の午後0時30分からの20分間、決まって反芻しながら楽しんでいる。当BLOG前回の《ポルシェ914に乗せてくれた『あいつ』》で紹介した石坂浩二が主演する、シニア層をずばり狙った連続ドラマ『やすらぎの郷』の舞台、夢のような環境と品質の高い造りの老人ホームこそ、川奈ホテルがロケ先となっていた。だから、中島みゆきの歌声に導かれてはじまるオープニングシーンで、毎日、川奈に心が吸い寄せられてしまう……。
♪もう一度はじめから もしもあなたと 歩き出せるなら
もう一度はじめから ただあなたに尽くしたい
————主題歌「慕情」 中島みゆき(作詞・作曲)
このドラマが見事にヒットしているらしい。
「日刊ゲンダイ」によれば、4月3日からスタートしたテレビ朝日系の昼ドラマ「やすらぎの郷」が絶好調で、ライバル各局が慌てふためいているという。
脚本は倉本聰(82歳)。彼の想いが濃密に練りこまれたこの作品は、かつてテレビの黄金時代を支えた俳優、作家、ミュージシャンら「テレビ人」と称する業界人だけが入居できる老人ホームが舞台の人間ドラマだ。出演者には石坂浩二をはじめ浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、草刈民代、五月みどり、常盤貴子、野際陽子、藤竜也、風吹ジュン、八千草薫ら豪華キャストが名を連ねている。
「4月3日から7日までの第1週の番組平均視聴率は7%。しかも、4日は日テレ系『ヒルナンデス!』、TBS系『ひるおび!』、フジ系『バイキング』を抑えて同枠のトップになった。第2週になっても勢いは止まらず、10日、12日も同枠のトップになっています。これはもう無視できない数字です」と、民放関係者コメントを紹介している。
民放各局は、当初はせいぜい2〜3%の視聴率だろうと多寡をくくっていたのがこの高視聴率。まさかシニアを対象にした昼ドラマがここまで視聴者のハートを捉えてしまうとは! このまさかの結果に度肝を抜かれているらしい、と伝える。
石坂浩二君、よかったね。明日からまた平日の5日間がまたやってくる。もう第16話まで来たんだよね。ひきつづき、楽しみに「やすらぎの郷」にチャンネルを合わせよう。
それにしても、浅丘ルリ子、加賀まりことの「仰天の邂逅」をじっくり拝見させていただいたが、ふたりがそれぞれに、あなたに迫る演技は見事だった。昔の仲間との同窓会に、わたしまでが招待された気分で、浮き浮きしてしまう。そして、あなたに関わる「ヤングレディ時代」からの眠ったままの秘話の数々が、むくむくと頭をもたげて甦ってくる……。
新しく手に入れた2シーター、ミドシップのポルシェ914になぜあの時、わたしが助手席に座っていたのか、をはじめ、クルマに関する石坂君との記憶も、もっと掘り下げてみたくなった。それはあの時代、プライドが売り物の総合雑誌「日本」から、「ギャングレディ」と異名をとっていた女性週刊誌に移動させられた編集者がどう生き抜いていったか。その仕事を検証することでもあった。
どうやら、「フジサンケイクラシック」も結着がついて放映終了。阪神も2対1で巨人に勝った。
「さて…」
と、腰を上げた瞬間に目に入ったものがある。TVモニターの奥の壁にかかっている「白馬」のパステル絵である。作者は……石坂浩二画伯である。
白いフェラーリの化身がいなないている姿。なぜ、この作品がわたしの手元に秘蔵されているのか、それは次回に……。