〜続・代打の切り札『ノートNISMO S』登場!〜
この夏も、わがマンション駐車場入り口の生垣で、白の木槿(ムクゲ)が炎天下にもかかわらず、元気に咲き揃い始め、元気づけられる。癒される。
花言葉は「信念」。そして、次々と新しい花を咲かせるところにちなんで「新しい美」がつけられるというが、なるほど大ぶりな花びらの傍では、まるで自分の出番を待っているかのように、大きな蕾が群をなして待機中である。
それでわかった。どうして木槿は、梅雨が終わり、夏になると紫陽花に替わって、毎日元気に、育ち盛りの少年のように、真っ直ぐ背筋を伸ばして、咲いてくれるのかなぁ、と思っていたが、一輪の花の寿命はせいぜい二日だとしても、入れ替わり立ち替わり、順に花を咲かせていたのか。
「新しい美=新しいクルマ」。こんな花言葉はいかがかな。
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さて、このところの日産車のNew Car試乗会は、横浜みなとみらい地区にあるグローバル本社をベースにして開催される。だから、こちらもすっかり慣れてしまって、その車の本質を嗅ぎとるにはどの試乗コースを選べばいいか、即座に対応できるようになってきた。
SWIFT RS 5MTの代役に選ばれたノートNISMO S。そのステアリングを預けた飯嶋洋治さんも心得たもので、ゆったりと1速→2速→3速とギアをアップさせながら、上り勾配のアプローチから、光の溢れる横浜の街へと繰り出したところで、前回(6月15日アップ)は終わっている……。
それを受けて、今回、陽の当たらない地下1Fの暗がり基地から、表通りへ走り出したところから、スケッチを再開しよう。
一旦、左折して次の交差点を右折する。あとは口を開けて待っている首都高速湾岸線の「みなとみらいIC」から首都高速湾岸線に乗って南下する。左手に横浜スタジアムを見たあと、右手から合流してくる首都高神奈川3号狩場線と石川JCで一つになった。
「このルートを真っ直ぐ行くと、本牧から磯子、そして八景島シーパラダイスの方へ繋がっているンでしたね」
「そう。でも今日はそちらではなく、次に本牧ICの手前で大黒パーキングへおりて行く案内板が出ていて、大きなループが待っているはず。そこでどうぞライントレースの具合を試して結構ですよ」
東京湾に浮かぶ人工島に特設された大黒ジャンクションへ向かって、ベイブリッジを渡り始めた。やがて鶴見・生麦方向への分岐とパーキングを兼ねた「一服地点」へ下って行くノートNISMO S。
セレナの時も、ノートe-Powerの時も、ここの谷底へ下っていくような勾配のループは絶好のテストフィールドであった。ほらほら、NISMOバッジの魂を嗅ぎとるのは今だよ。そんな悪魔の誘惑に51歳(1965年生まれ)の飯嶋さんが乗ってしまうかどうか。今や貴重な存在となったテンロク+5MTのホットハッチの乗り手として、どこまで彼が自制できるものか、実は興味津々だったのだ。
残念ながら、飯嶋さんは涼しい顔でレッドセンターのアルカンターラ巻きのステアリングに軽く手をそえ、そのまま3速キープで、クルマなりにループを下って行く……。まるで、自動運転お任せ装置の「プロパイロット」が作動しているのか、と思えるような教科書通りのドライビングであった。少し低重心にして足腰を強化させると、ホットハッチでもこうなるのか。いや、なるほど、なるほど。
7分後、パーキングエリア付設のレストラン2階の「吉野家」コーナーで、仲よく「塩ネギ豚丼」(¥450)+杏仁豆腐をいただく。
『スピードマインド』誌の編集長でありながら、率先してダートラやジムカーナーに親しんだ飯嶋さんのドライビング・スキルには年輪を感じさせる信頼感がある。加えて、日頃から3ペダルのE30 M3に親しんでいる。だから当初は、ここでドライバー交代して、真っ直ぐ、首都高湾岸線を突っ走って、この日、立ち寄りを予告してあるベストカー編集部の江戸川橋まで担当するつもりだったが、結構、この5MTホットハッチが気に入った様子。そこでコロリとわたしの気が変わった。
「よかったら、このまま行きましょう」
ポンとKEYスイッチホルダーを渡す。飯嶋さんに異論のあるはずもなく、少年のような笑顔で受け取る。近頃、似たようなシーンが多すぎるな、とちょっと寂しくなったのはなぜだろう。
厚い雲が覆いかぶさっている。羽田空港の脇を抜け、鈍く光る東京湾を右手に見ながら、都心へ向かうNISMOノートSが少しばかり本性を剥き出したのは、お台場の先の有明JCTからレインボーブリッジを渡り、さらに首都高速1号羽田線に合流した時である……。先方にちらりと赤いスポーツカーらしきものの後ろ姿を認めた。
「ちょっと失礼します」
わたしに断ってから、5速から4速へシフトdown。エンジンがひと吼えする。おお、いよいよクルージング・モードから臨戦体制に突入か。
しっかり腰回りをホールドしてある助手席から、そのホットなダッシュを期待した。が、バレンシアレッド・パールと謳われる挑戦的なカラーに包まれた新型NSXの真後ろに追いついた途端、すっと力を抜くように適当な車間距離を保って、ランデブーランに入ったのである。わたしならNSXのドライバーを確認すべく、少なくとも一度は横に並ぶだろうが、飯嶋さんはそんな下品な振る舞いをする御仁ではなかった。
新型NSXのオーラに包まれながら、首都高速をそんな走り方をするのも乙だなァ、とこちらが気を抜いたのがいけなかった。先行する赤いスポーツカーは汐留ICの手前で銀座・京橋方向へ抜ける都心環状線に入る。車の流れも順調だ。真ん中の車線をキープしながら江戸橋JCに差しかかる。あ、れ、れ、れ。真ん中はまずいよ。ここは左に寄ってなければ、神田橋・北池袋方向へは行けなくなる、ややこしいジャンクションなんだよ。と、声にしかかった時は、もう「飯嶋ノートNISMO S」はすでにNSXと一緒に箱崎・京葉道路へ向かうルートに乗ってしまっていたのだ。
「あれ⁉︎」
飯嶋さんもすぐに気がついた。
「いや、まぁ、いいでしょ。このまま行って、次の箱崎ICで降りましょう。そこからは下道でいけばいい」
大きく右へターンする感じで一旦、首都高速6号向島線に流入。やがて、NSXは深川・辰巳方向への湾岸線方向へ向かってダッシュ、その後ろ姿はあっという間に小さくなった。こちらは丁寧に最初のIC、箱崎で下道に降り立つ。そこは、東京シティエアターミナルの脇。すぐ先に水天宮。ならば直進すれば人形町から岩本町、神田神保町へと行けるはず……。
「じゃあ、ここからは……」
素早く助手席のドアを開き、ドライバーズ側へわたしの方から移動した。エンジンはかかったままだ。ちらりとアスリート系の、したたかに引き締まったノートNISMO Sの足元を盗み見してから運転席に収まった。シートベルトが気持ちよく体に吸い付いて来る。期待感がにわかに昂まってきた。
さて、5MT車をドライブするのは幕張で1月27日にスイフトRSを走らせて以来である。クラッチを踏み、ギアを1速にシフトし、軽くアクセルを入れてから、ミートする。その瞬間、なんとも言えない快感がわたしの右足に伝わってきた。すかさず2速にシフトアップ。とても1.6ℓ、140psという地味なスペックとは思えない、たくましいエネルギーが、さらに次のシフトアップを促して来る。スイフトRSより男っぽいぞ。それが第1印象であった。
「どうやら3速ホールドのままが、この街中走行にぴったりのようですね」
そんな感想を飯嶋さんに伝えたところで、今回は一旦、休息して、次回に備えることをお許しいただきたい。この後、ベストカー編集部に立ち寄った後、「音羽ニュル」を、この5MTのホットハッチで試走したことだけは告白しておこう。